6. 大地の検査結果
大地は自宅から車で十五分ほどの場所にある小児科を受診した。
診察を終えると、医師から血液検査を勧められた。
採血を終えた大地は疲れた様子で母・ひとみの腕に身を預け、その日の診察はそれで終わった。
しかし翌日、小児科から一本の電話が入る。
「詳しい検査が必要です。紹介状を書きますので、すぐに総合病院を受診してください」
その声は穏やかだったが、どこか張り詰めたものを感じさせた。
翌朝、ひとみは眠そうな大地を連れ、紹介された総合病院を訪れた。
受付を済ませると、一枚の案内票を渡される。
そこには「血液内科」と書かれていた。
その文字を見た瞬間、胸がざわつく。
――血液内科……。
風邪でも、擦り傷でもない。
何か重大な病気なのだろうか。
ひとみは大地の小さな手をぎゅっと握り締めた。
診察室へ呼ばれると、担当医の阿部は穏やかな表情で迎えた。しかし、その目にはどこか重いものが宿っていた。
「ご主人は、本日何時ごろお帰りになりますか」
突然の質問に、ひとみは少し戸惑った。
夫の幸雄は宅配会社で働いている。今日は早番だったことを思い出した。
「今日は早番なので……夕方には帰れると思います」
阿部は静かにうなずいた。
「検査結果は出ています。ただ、ご主人もご一緒のほうがよいと思いますので、その際に詳しくお話しします」
その一言で、ひとみの胸は強く締めつけられた。
――二人そろって聞かなければならない話……。
悪い予感だけが膨らんでいく。
ひとみはすぐに幸雄へ電話をかけた。
「お願い……できるだけ早く病院へ来て」
震える声を聞いた幸雄は、それ以上何も尋ねなかった。
「わかった。すぐ向かう」
仕事を早退した幸雄は、午後四時過ぎに病院へ駆けつけた。
「大地は?」
病室へ入るなり尋ねる。
「今は眠ってる…」
ひとみはそう答えたものの、不安でいっぱいだった。
午後五時。
二人は阿部医師に呼ばれ、静かな診察室へ案内された。
阿部は二人が腰を下ろすのを待ち、机の上で両手を組んだ。
しばらく沈黙が流れる。
やがて阿部はゆっくり口を開いた。
「……結論から申し上げます」
二人は息をのんだ。
「検査の結果、大地君は白血病です」
その瞬間、時間が止まったように感じた。
ひとみの耳には、その後の言葉がほとんど入ってこなかった。
頭の中で、「白血病」という言葉だけが何度も何度も繰り返される。
幸雄も拳を固く握り締めたまま、一言も発することができなかった。
阿部は静かな口調で続けた。
「しばらくは入院治療が必要になります。輸血を行いながら、詳しい検査と治療を進めていきます。現在は治療法も進歩しており、決して希望を失う必要はありません」
二十分ほど説明は続いた。
しかし、夫婦の耳にはほとんど届かなかった。
二人の心は、突然突きつけられた現実を受け止めるだけで精一杯だった。
診察室を出ると、ひとみは廊下の椅子へ崩れるように腰を下ろした。
涙が止まらなかった。
幸雄はそんな妻の肩にそっと手を置いたが、自分も唇を強く噛み締め、必死に涙をこらえていた。
――どうして、大地が。
その思いだけが、夫婦の胸に重くのしかかる。
しばらくして、ひとみは震える手で携帯電話を取り出した。
画面には「母・明子」の文字。
深く息を吸い込み、電話をかける。
「もしもし、お母さん…」
その一言を口にした途端、それまで必死に堪えていた涙があふれ出した。




