24.少しの奇跡
――翌日。大地の病室。
白いカーテン越しに差し込む朝の光は、どこか頼りなく、静まり返った病室を淡く照らしていた。
ベッドに横たわる大地は、ここ数日の微熱のせいか、頬が少しこけて見える。熱は高くない。それでも身体は鉛のように重く、思うように動けない日々は、幼い大地にはあまりにも長く感じられていた。
「大地、元気にしてるか?」
幸雄ができるだけ明るい声で話しかける。
だが、大地は唇を尖らせ、小さく首を横に振った。
「……元気じゃない」
そのひと言に、幸雄の胸が締めつけられる。
励ましたい。けれど、軽い慰めの言葉では届かないことも分かっていた。
少し考えた末、幸雄はふっと笑みを浮かべる。
「なあ、大地。元気になったらさ、誕生日にすごいプレゼントがあるんだ」
その瞬間だった。
沈んでいた大地の瞳が、ぱっと輝きを取り戻す。
「プレゼント? パパ、何くれるの?」
「パパからってわけじゃないんだけどな」
幸雄は照れくさそうに頭をかいた。
「今はまだ秘密。でも、大地が元気にならないともらえないんだ。きっと、大地がびっくりするくらいうれしいプレゼントだぞ」
「ほんと?」
思わず身を起こそうとした大地の身体を、隣にいたひとみがそっと支える。
「ほんとだよ」
幸雄が力強くうなずくと、大地は小さな拳をぎゅっと握り締めた。
「じゃあ、ぼく……絶対に元気になる!」
その笑顔は、久しぶりに見る、あどけなく無邪気な笑顔だった。
その笑顔を見つめながら、幸雄とひとみは互いに視線を交わす。
本当は――。
七月四日、大地の誕生日。
田村から届いた招待は、もう半ば諦めるしかないと思っていた。
このままでは、とても外出など望めない。
二人とも、そう覚悟しかけていたのである。
だが、不思議なことが起こった。
六月二十日を過ぎた頃から、大地の熱は少しずつ下がり始めた。
わずかではあるが食欲も戻り、青白かった頬には血色が差し、瞳にも少しずつ生気が宿っていく。
その回復ぶりは、主治医の阿部でさえ目を見張るほどだった。
「ここまで持ち直すとは……」
診察を終えた阿部は、カルテを閉じながら静かにつぶやいた。
そして迎えたある日。
「外出しても大丈夫でしょう」
その一言が、家族にとって何よりもうれしい知らせとなった。
病室に差し込む夏の光は、昨日までとは違って見えた。
まるで、小さな奇跡が、静かに歩き始めたことを祝福しているかのようだった。




