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23.白血病との闘い

六月も半ばを過ぎる頃になると、大地の容体は目に見えて悪化していた。


ほんの数日前まで見せていた笑顔は薄れ、話す声にも力がない。


ベッドから起き上がるだけで息を切らし、小さな肩は呼吸のたびにかすかに上下していた。


治療は、抗がん剤を点滴で投与する方法へと切り替えられた。


だが、その効果と引き換えに、大地の幼い身体は容赦なく蝕まれていく。


食事の時間になると、口に運ぼうとしただけで顔をしかめる。


喉まで込み上げてくる吐き気を必死にこらえながら、首を横に振る姿を見るたび、ひとみの胸は締めつけられた。


「ごめん……食べられない……」


か細い声でそうつぶやく息子に、「大丈夫よ」と笑顔を向けながらも、ひとみの心は悲鳴を上げていた。


――どうして、この子がこんなにつらい思いをしなければならないの。


――お願いだから、苦しませないで。


――できることなら、私が代わってあげたい。


そんな願いを、何度心の中で繰り返したことだろう。


その日の夜。


病院をあとにしたひとみは、重い足取りで帰宅した。


夕食の支度をする気力もなく、静かなリビングの椅子に腰を下ろす。


向かいに座った幸雄は、何も言わずに妻の顔を見つめていた。


その優しい視線に触れた瞬間、張り詰めていた糸が切れた。


「大地の苦しそうな姿を見ているとね……」


声が震える。


「あの子の前では笑っているけど、本当は今にも泣きそうなの」


ひとみは膝の上で両手を強く握り締めた。


「こんなにつらい治療を続けて……本当に元気になってくれるのかなって……最近、それさえ分からなくなってきたの」


部屋に沈黙が落ちる。


幸雄もまた、不安がないわけではなかった。


それでも父親である自分まで弱音を吐けば、この家の希望は消えてしまう。


だからこそ、静かに息を吸い、力強く言った。


「そんなこと言うな」


短い言葉だった。


しかし、その一言には自分自身へ言い聞かせるような強い思いが込められていた。


「大地は必ず元気になる」


そう言い切ったあと、幸雄は少しだけ目を伏せる。


「ただ……」


言葉を選ぶように続けた。


「誕生日に約束していた大阪ドームへ連れて行くのは……正直、難しいかもしれない」


その現実だけは、どうしても否定できなかった。


ひとみは唇をぎゅっと噛み締める。


「それでも……」


涙をこらえながら顔を上げた。


「大地のために、何かしてあげたいの」


母親として、何でもいい。


笑顔になれることを、一つでも残してあげたい。


その願いだけだった。


幸雄は静かにうなずく。


「ああ、分かってる」


そして、優しく微笑んだ。


「明日、俺から大地に話してみるよ」


その言葉に、ひとみも小さくうなずいた。


夫婦は互いの不安を抱えたまま、それでも希望だけは手放すまいと、静かな夜を見つめていた。


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