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21. 大地への嬉しい報告

翌日、大地の両親は、七月四日の外出について主治医の阿部を訪ねた。


診察室で話を聞き終えた阿部は、カルテを閉じると二人に静かな眼差しを向けた。


「大地君の容態は、以前に比べるとずいぶん安定してきました。ですから、外泊の許可を出すことはできます」


その言葉に、幸雄とひとみの表情がわずかに明るくなる。


しかし、阿部は慎重に言葉を続けた。


「ただ、村山さんがお考えのように球場へ行くとなると、話は別です」


二人の表情から笑みが消える。


「一番心配なのは感染症です。仮に球場内であっても、外部との接触を極力避けられる完全な個室のような環境が確保できれば別ですが……」


阿部は少し考えるように視線を落とした。


「私の知る限り、そのような設備を備えた球場は、ほとんどありません」


しばらく沈黙が流れた。


やがて幸雄は、小さく息をついて口を開いた。


「……分かりました。残念ですが、今回は諦めます」


その声には、自分自身に言い聞かせるような響きがあった。


     * * *


二日後。


ナイターを終えた田村は、午後十時を回った頃、村山家へ電話をかけた。


数回の呼び出し音の後、受話器の向こうからひとみの声が聞こえてくる。


「もしもし」


「夜分遅くに失礼いたします。ジャガーズの田村と申します」


「ジャガーズの……田村さんですか?」


驚きを隠せない様子で確認すると、田村は穏やかな声で答えた。


「はい。その後、大地君のご容態はいかがでしょうか」


「おかげさまで、今は落ち着いております。それから、ご連絡が遅くなってしまいましたが、先日は野球のチケットを送っていただき、本当にありがとうございました」


礼を述べるひとみに、田村は少し弾んだ声で尋ねた。


「それでは、ご家族で試合を見に来ていただけそうでしょうか」


その問いに、ひとみは言葉を選びながら、主治医から受けた説明を伝えた。


感染症の危険があるため、球場へ足を運ぶのは難しいこと。


そして、大地が期待してしまうことを恐れ、田村から届いた手紙も、まだ本人には見せていないこと。


話し終えると、電話の向こうはしばらく静まり返った。


やがて田村が、何かを思い出したように口を開く。


「実は、お送りしたチケットですが、普通の指定席ではありません」


「えっ?」


「ご用意したのは、ボックスシートです。ご家族だけでお入りいただける個室タイプの席なのですが……それでも難しいでしょうか」


思いがけない言葉に、ひとみは思わず聞き返した。


「失礼ですが、球場にそのようなお席があるのですか」


「はい。一部ではありますが、ご用意しております」


ひとみの胸に、小さな希望の灯がともる。


「そうだったのですね……。ありがとうございます。主人ももうすぐ帰宅しますので、すぐに相談してみます」


そう言うと、自然と声が弾んだ。


「明日は、大地にうれしい報告ができるかもしれません」


受話器を置いたひとみの表情には、久しく忘れていた明るい笑みが戻っていた。


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