20.田村から大地への手紙
六月も半ばを迎えたある日、田村は初めて大地宛てに手紙を書いた。
◇
大地くんへ
こんにちは、大地くん。
げんきにしていますか?
ぼくもホームランをうてるように、まいにちがんばっています。
だから大地くんも、びょうきにまけないで、がんばってくださいね。
こんどの大地くんのたんじょうびに、あえることをたのしみにしています。
タムより
そして、大地の両親にも、一通の手紙を添えた。
「ご無沙汰しております。
突然のお手紙をお許しください。手紙を書くのはあまり得意ではありませんので、簡単なご挨拶で失礼いたします。
七月四日、大地君のお誕生日に大阪ドームでパイレーツ戦があります。
チケットを同封いたしました。もし大地君の体調がよろしければ、ご家族皆さまで応援に来ていただけたら嬉しく思います。」
田村 博
◇
その日の午後九時過ぎ。
仕事を終えた幸雄が帰宅すると、ひとみが少し弾んだ声で迎えた。
「あなた、ジャガーズの田村さんからお手紙が届いたの」
「本当か? 見せてくれ」
幸雄は封筒を受け取ると、丁寧にはさみで封を切った。
静かな居間に紙をめくる音だけが響く。
最後まで読み終えると、幸雄はそっと手紙をひとみに手渡した。
ひとみも一文字一文字をかみしめるように読み進める。
やがて読み終えると、二人はしばらく顔を見合わせた。
「大地……きっと喜ぶだろうな」
幸雄の声には、父親としての願いがにじんでいた。
しかし、ひとみは少し眉を曇らせる。
「でも……大地に外出許可が出るかしら」
その言葉に、幸雄は静かにうなずいた。
「明日、阿部先生に相談してみるよ」
「ありがとう……」
ひとみはほっとしたように微笑んだ。
「大地のお誕生日ですもの。何とか連れて行ってあげたいわ」
夫婦は互いにうなずき合い、テーブルの上のチケットを見つめた。
その小さな紙切れには、大地の笑顔への願いが、そっと込められているようだった。




