2.Rホテルバーラウンジにて
田村は、私より少し早くRホテルに着いていた。
ラウンジの窓際の席で待つ田村は、昔と変わらぬ穏やかな笑みを浮かべていた。その姿を見つけると、私は軽く手を上げながら歩み寄った。
「田村、久しぶりだな。スターに呼び出されるなんて光栄だよ」
高校時代、野球部のエースとして名を馳せた田村をからかうように言うと、彼は苦笑しながら首を横に振った。
「馬鹿なこと言うな。でも、急に呼び出して悪かったな」
「いや、ちょうどよかったよ。最近は仕事が立て込んでいて、飲みに行く余裕もなかったからな」
私は椅子に腰を下ろしながら尋ねた。
「ところで、晩飯は食ったのか?」
「夕方に軽く済ませただけだ。正直、腹が減ってる」
「それなら俺も付き合うよ」
私はウェイターを呼び、軽い料理を数品と生ビールを二つ注文した。
ほどなくして運ばれてきた冷えたジョッキを軽く合わせる。
「乾杯」
グラスの澄んだ音が静かなラウンジに響いた。
それから二十分ほど、私たちは高校時代の思い出話に花を咲かせた。
部活動での失敗談、文化祭の騒ぎ、恩師の口癖――。
笑い声が絶えず、あの頃に戻ったような穏やかな時間が流れていく。
しかし、その笑顔がふと消えた。
ジョッキを静かにテーブルへ置いた田村は、視線を落としたまま、小さく息をつく。
「……実は今日、お前を呼び出したのには理由がある」
その一言で、店内の空気が変わった。
私は自然と背筋を伸ばし、田村の次の言葉を待った。
彼がゆっくりと語り始めた話は、私の想像をはるかに超えるものだった。
言葉を重ねるたびに胸が締めつけられ、目の前の景色がぼやけていく。
話が終わる頃には、私は何も言えなかった。
ただ、込み上げる感情を抑えきれず、田村の前で静かに涙を流していた。




