16.田村の停止処分
帰りの新幹線の車内で、田村は窓の外を流れる景色を眺めながら、大地との約束を平田に打ち明けた。
「ホームランを二本……?」
平田は思わず苦笑した。
「外国映画の見過ぎじゃないか。主人公が病気の少年とホームランを約束する話はよくある。でも、あれだって一本も打てずに終わる作品があるんだぞ。それなのに、お前は二本なんて約束しちまったのか?」
田村は苦笑するしかなかった。
「つい、勢いで……」
「まったく。約束したからには、本当に打つしかなくなったな」
二人は笑い合った。
その時は、数日後に待ち受ける出来事など想像もしなかった。
──二日後。
試合前の練習を終えた田村は、球団広報の安井に呼び止められた。
「田村君、少しいいかな」
安井の表情はいつになく硬かった。
嫌な予感が胸をよぎる。
球団事務所へ入ると、安井は椅子に腰掛けたまま田村を見つめ、静かに口を開いた。
「急な話ですみません。ただ、回りくどい説明をしている時間もない。結論から言います。」
一呼吸置いて、冷たく告げた。
「田村君。今日から一週間、出場停止です」
田村は耳を疑った。
「……え?」
一瞬、言葉が出ない。
「何かの間違いじゃないですか。私は怪我もしていません」
安井は小さく首を振った。
「怪我なら、どれほど良かったか」
机の上から一枚の紙を取り出し、田村の前へ差し出した。
「明日発売の写真週刊誌だ」
田村は記事に目を落とす。
そこには大きな見出しが躍っていた。
『ジャガーズ・田村、試合前に病院を訪問。見ず知らずの患者へサインボール配布。これは売名行為か。それとも引退危機を回避するための人気取りか』
さらにページをめくると、病院の玄関から出てくる自分の姿が鮮明に写っていた。
あの日、病院の前で感じたフラッシュ。
あれは気のせいではなかったのだ。
田村は無言のまま記事を見つめ続けた。
「……事実であることは認めるね?」
安井は感情を交えずに言った。
「言い分があるなら聞こう。監督には、すでに報告してある」
長い沈黙が流れた。
しかし田村は何も弁解しなかった。
どんな理由を話しても、大地との約束まで世間にさらすことだけはしたくなかった。
やがて静かに頭を下げる。
「……申し訳ありませんでした。ご迷惑をお掛けしました」
それだけ言い残し、田村は事務所を後にした。
閉まるドアの音だけが、やけに大きく響いていた。




