13. 大地からの手紙
新大阪駅に着くと、チームメイトたちはすでにホームで待っていた。
田村は平田コーチに深く頭を下げると、新幹線へ乗り込んだ。
発車のベルが鳴り、ゆっくりと列車が動き始める。その揺れに身を任せながら、田村は意を決したように口を開いた。
――あの日、病院で出会った少年のこと。
そして、自分の胸に生まれた不思議な思いを、包み隠さず平田に打ち明けた。
静かに話を聞いていた平田は、しばらく窓の外へ目を向けていたが、やがて穏やかな口調で言った。
「その少年のためにも、いい成績を残してやらないとな」
その一言が、田村の胸に静かに染み込んだ。
現在、ジャガーズは十勝十五敗。首位パイレーツとは六ゲーム差。優勝戦線に踏みとどまるには、一戦一戦が負けられない戦いだった。
チームは横浜へ移動し、レンジャーズとの三連戦に臨んだ。
三試合とも息詰まる接戦となったが、ジャガーズは粘り強く戦い、二勝一敗と勝ち越すことに成功した。
試合後、ロッカールームへ戻ろうとした田村は、球団広報の担当者に呼び止められた。
「田村選手、お手紙が届いています」
一通の封筒を受け取り、差出人を見る。
――村山大地。
その名前を目にした瞬間、田村は思わず表情を和らげた。
すぐに封を切り、丁寧に便箋を開く。
* * *
たむらせんしゅへ
このまえ おみまいにきてくれて ありがとう。
ぼーるが もらえて うれしかったです。
だいじにします。
ぼくも がんばって びょうきを なおすので、
たむらせんしゅも がんばってください。
いえのでんわ 〇六―六二三六―××××
むらやま だいち
* * *
幼い文字を一文字一文字追うたびに、田村の頬は自然と緩んでいった。
その様子を見ていた平田が、にやりと笑う。
「なんだ? ファンレターか。しかも女性だったら羨ましいな」
田村は顔を上げ、少し照れたように笑った。
「いえ。五歳の男の子からです」
「五歳?」
「この前、お話しした子です。病院で会った……」
「ああ、あの病気と闘っている子か。」
「ええ。」
田村は再び便箋へ視線を落とした。
「不思議なんです。あの子に会ってから、ずっと気になってしまって……。元気にしているだろうか、とか、ちゃんと笑えているだろうか、とか。」
そうつぶやく田村の声は、どこか自分でも戸惑っているようだった。
平田は何も言わず、小さくうなずいた。
窓の外には、夕暮れの街並みが静かに流れていた。




