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11.大地の入院先の病院へ

翌日から始まった東京パイレーツとの三連戦。


ジャガーズは懸命に戦ったものの、一勝二敗と負け越しを喫した。


今年も優勝候補の筆頭は東京パイレーツ――。


それが、多くの野球評論家たちの一致した見方だった。


数日前のテレビ中継でも、辛口評論で知られる久米は冷静な口調で言い放っていた。


「今年もジャガーズは、よくて四位でしょうね。それに田村も今年結果を残せなければ、来年は厳しいでしょう。ここ数年の成績も振るいませんし、そろそろ潮時ではないでしょうか」


その言葉は田村自身の耳にも届いていた。


反論するつもりはなかった。


結果で示すしかないことを、誰よりも本人が分かっていたからだ。


三連戦を終えた翌日、チームは次の遠征地・名古屋へ向かう予定になっていた。


しかし、田村にはどうしても立ち寄りたい場所があった。


大阪で出会った、あの祖母と少年のことが頭から離れなかったのである。


出発前、田村は平田コーチのもとを訪ねた。


「新大阪駅までは別行動をさせていただけませんか。少し私用がありまして…」


平田コーチは難しい表情を浮かべた。


「何の用事だ?」


田村は詳しい事情を話さなかった。


約束した以上、自分でけじめをつけたかったからだ。


「どうしても外せない用事なんです」


しばらく田村の顔を見つめていた平田コーチは、小さく息をついた。


「……分かった」


そして念を押すように続ける。


「ただし、遅くとも午後四時までには新大阪駅へ来い。チームに迷惑だけは掛けるな」


「ありがとうございます」


田村は深く頭を下げると、すぐにタクシーへ乗り込み、K大学病院へ向かった。


病院へ到着すると、そのまま受付へ向かう。


しかし、そこで田村は思わず立ち尽くした。


(しまった……)


肝心なことを忘れていた。


祖母から孫の名前は聞いていた。


「大地」という名前だけは覚えている。


だが、名字を思い出せない。


田村は苦笑しながら受付の女性へ声を掛けた。


「五、六歳くらいの男の子で、大地君という子が入院していると思うのですが、病室を教えていただけませんか」


受付の女性は申し訳なさそうに頭を下げた。


「申し訳ございません。その情報だけではお調べできません。また、仮に確認できたとしても、ご家族以外の方へ病室をご案内することはできない決まりになっております」


田村は静かにうなずいた。


「そうですよね。失礼しました」


病院の決まりなのだから仕方がない。


少し残念ではあったが、約束を果たせなかったのは自分の確認不足だった。


田村は苦笑しながら病院の正面玄関へ向かった。


その時だった。


玄関の向こうから見覚えのある女性が歩いてくる。


「あっ……」


思わず声が漏れた。


数日前、横断歩道で出会ったあの女性――明子だった。


田村は小走りで近づいた。


「あの、失礼ですが……私のことを覚えていらっしゃいますか?」


声を掛けられた明子は一瞬驚いたものの、すぐに顔をほころばせた。


「もちろん覚えていますよ。」


そして不思議そうに首をかしげる。


「でも、どうしてこちらに?」


田村は照れくさそうに笑った。


「大地君に会いに来たんです」


その一言に、明子は目を丸くした。


「本当に……大地に会いに来てくださったんですか?」


信じられないという表情だった。


田村は穏やかに微笑む。


「この前、お約束したじゃないですか」


その言葉を聞いた明子の目には、うっすらと涙が浮かんだ。


「ありがとうございます…」


声が震えていた。


「正直、本当に来てくださるとは思っていませんでした」


少し間を置き、嬉しそうに続ける。


「大地は、きっと飛び上がって喜びます」


その笑顔を見て、田村も自然と笑みを浮かべた。


忙しさや試合の結果とは関係なく、この病院へ来て本当によかった――。


そう心から思えた。


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