10. 大地と同じ病室の誠
幸雄はベッドのそばに腰を下ろし、大地の頭を優しくなでた。
「大地が頑張れば、病気はきっと早く治るよ」
そう言って微笑むと、少し言いにくそうに言葉を続けた。
「でもね、早く元気になるためには、今日からこの病院でお泊まりしなくちゃいけないんだ」
その言葉を聞いた大地の表情が曇る。
「パパもママも、一緒にお泊まりするの?」
不安そうな瞳が二人を見つめた。
ひとみは胸が締めつけられる思いをこらえながら、大地の手をそっと握った。
「ごめんね。パパもママもずっと一緒にはいられないの」
大地は唇をかみしめ、小さな声でつぶやいた。
「……おうちに帰りたい」
今にも涙があふれそうだった。
ひとみも幸雄も、その言葉に胸が痛んだ。
しかし、その時だった。
病室のドアが静かに開き、一組の親子が入ってきた。
「こんにちは」
明るい声をかけてきたのは、大地と同じくらいの年齢の男の子と、その母親だった。
ひとみは立ち上がり、軽く頭を下げる。
「こんにちは。今日からこちらでお世話になります、村山です。息子の大地です。どうぞよろしくお願いします」
母親は穏やかに微笑み返した。
「こちらこそよろしくお願いします。息子の誠です」
そう言うと、隣にいた男の子へ優しく声をかけた。
「誠、大地君と仲良くするのよ」
「うん!」
元気よく返事をした誠は、大地のベッドまで駆け寄ると、小さな手を差し出した。
「これ、あげる」
その手には、色鮮やかな折り紙で丁寧に折られたカブトが乗っていた。
大地は少し驚いたような表情を見せると、嬉しそうに受け取った。
「ありがとう」
さっきまで曇っていた顔に、小さな笑顔が戻る。
ひとみも思わず微笑んだ。
「誠君、ありがとう。とても上手に折れているね」
誠は少し照れくさそうに笑う。
「今度、大地にも教えてあげてくれる?」
「うん、いいよ!」
その返事に、大地の表情はさらに明るくなった。
それから二人はベッドの上で折り紙を広げ、紙飛行機や動物、カブトを折って遊び始めた。
さっきまで泣きそうだった大地の笑い声が、病室に響く。
その様子を見守る幸雄とひとみは、ようやく肩の力を抜いた。
しばらく遊んだあと、大地はふいに顔を上げ、両親を見つめた。
「パパ、ママ」
「ん?」
「もう帰っても平気だよ」
その言葉は、自分に言い聞かせるようでもあり、両親を安心させようとしているようでもあった。
ひとみは目頭が熱くなるのを感じながら、大地の頭を優しくなでた。
「大地は、本当に強い子ね」
すると大地は胸を張り、少し得意そうに笑った。
「だって、ぼく男の子だもん。強いんだ」
その精いっぱいの強がりに、病室にいた大人たちは思わず笑みをこぼした。
しかし、その笑顔の奥では、誰もが同じ願いを抱いていた。
――どうか、この小さな勇気が病気に負けませんように。
病室の窓から差し込む夕暮れの柔らかな光が、二人の小さな背中を静かに照らしていた。




