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凋落の地下遺跡2

            ―― 弧月(こげつ)アルテSIDE ――



 探索予定のない放課後、私は自室で堂崎大地どうざきだいち氏のライブ配信を視聴していた。


 堂崎大地。チャンネル情報によると私と同じ高校生探索者。


 たぶんだが本名っぽい。素顔も隠していない(マナの力で顔を別人のものに見せかける道具はあるし、精霊さんに頼めば自他問わず配信画面にモザイクなどをかけられる)。


 本名・素顔を晒してダンジョン配信活動をする人はそう珍しくはない。特に私たちくらいの世代であれば抵抗も少ない。実際、私も本名で活動するのを検討していたくらいである(決め手もデイブレイク運営事務所が提案した"弧月アルテ"という名前が気に入った程度の理由である)。


 だが私は心配していた。当人に迷惑はかかっていないだろうか、と。


 なにしろ、いかなる因果かあんな歴史的とも言うべき場面を自分の配信に乗せたのだ。私個人としても衝撃を覚えたし、その後しばらくリスナーさんたちとのあいだで何度も話題に上げた。


 その結果、急激に注目を向けさせる一因となってしまった。


(失礼ながら)リスナー数があまり振るわない中でのこの騒ぎ。さぞや戸惑わせてしまっているだろうし、そのことに多少なりとも責任を感じている。


 メールアドレスは公開されていたためそちら経由で謝罪はしておいたのだが、その返事はたったひとこと『気にしないでください』。


 ひょっとして内心ものすごーく気にしているのでは……と逆に不安になってくる素っ気なさである。私の中で『これ平謝りした方がよくない? Vs いや額面通りでいいでしょ』という戦いが勃発、しばし悶々とした時間を過ごしていた。


 もちろん素直に称賛する気持ちもある。探索者として刺激を受けもする。これで気にならないはずがない。


 そういう訳で私はここしばらく彼のチャンネルをチェックしていたのだ。いま視聴しているのも配信予定日を知ってから予定を調整した結果だ。


 で、私が抱いた彼に対する感想はと言うと――


(面白い人ねー……)


 配信内でリザードマンの特徴を熱弁するのを聞き(流し)ながら内心でつぶやい

た。


 いや、まあ、確かに攻略のうえで魔物情報は大事ではあるけれど。リスナーの空気感と乖離しすぎてるでしょ。


 まあ、これは緊張なんかが原因だろうけど。実際、確認した限り過去アーカイブでは特段おかしな感じではなかったし。


(それより……)


 アーカイブの内容と合わせ、彼の実力に関して理解したことがある。


 単純に総戦闘力(レベル)が高いだけではない。もちろんそれも凄い。高校生でレベル四十五は相当なことだ。が、極論というか暴論、探索者を長く続けていればいつかは達成できることでもある。


 そうではなく、他のレベル四十台の探索者と比べてもなお突出している部分があるのだ。


 まずダンジョンに関する知識が豊富であろうこと。


 なにしろ魔物出現時の予兆である赤紫の煙だけで種類と数を言い当てているのだ。


 これは当該ダンジョンに出現し得る魔物の情報、それこそ種類や能力だけでなく体格などの周辺情報が必須であり、そのうえで姿を現すまでの短時間で判断しなければできない芸当である。


 並の探索者なら『魔物が現れる』という情報を受け取るだけで終わりである。


 熟練の探索者および冷静な第三者視点なら『煙の大きさと数から、魔物の大きさや群れの規模などの大ざっぱな推測』までできる。


 だが出現魔物の種類まで正確に言い当てるには『魔物の身体形状などに起因する煙の動きの細かいクセ』から『各煙の分布位置の粗密、偏り』まで瞬時に判別しなければ不可能である。


 実際には別種の魔物の組み合わせや空気の流れなどの外部要因による不確定要素、他の煙に紛れての誤認などもある。的確に識別できても的中率はせいぜい六割前後がいいところ、それでも相当な眼力の持ち主と言っていい。


 全動画を確認した訳ではないが、まさしく彼はその領域にあった。


 そしてスキル準備から発動まで――言い換えれば術式を刻むまでの早さが群を抜いている。


 予兆煙を目視してから魔物が出現するまでの短時間で完了させるなど上澄みレベルの速度である。


 特に魔術など遠距離攻撃系のスキルは近接系に比べて前方への投射・加速、軌道の制御、反動抑制など必要となる術式が増えるぶん発動までどうしても時間がかかる。


 軌道などの細かい制御術式が不要な〈フレイムスロワー〉は比較的短時間で発動できるほうではあるが、それを差し引いても早い。


 彼が相当な逸材であろうことは容易に想像できた。


 動画内での会話内容も特別引っかかる点はなし、解説も(ちょいちょいぶっ飛んだことを言っている場面もあるが)必要情報が端的にまとめられていて参考になる。


 注目さえ浴びれば自然とリスナー数も増えることだろう。……逆にこれまで埋もれていた理由はたぶん、というかほぼ確実にサムネイル画像にある。


 フリーのダンジョン背景画像に地味なフォントで『◯◯を攻略します』と書かれているだけ。


 単純に魅力がない。言葉を選ばず言えば、めっちゃダサい。無数の画像の中からこれを見ても『ちょっと開いてみよう』という気は起きない。これではリスナーの興味を引ける訳がない。


 内容はいい感じなのにもったいない。ああ、もどかしい! 色々口出ししたい! あれこれいじって改善してやりたい!


 ……差し出がましいにもほどがあるので当然しないが。


 それより、配信内の堂崎氏がリスナーからのツッコミに対し『なぜ兆候だけでリザードマンと判別できたのか』の解説を終えていた。


 さて、続きに集中しよう。






「――と、そのような理由でリザードマン八体であると判断しました。もっとも不確定な要素にも左右されますので的中率はせいぜい六~七割程度ですが。知ってしまえば意外と単純な理由でしたでしょ?」



コメント

・ザッケンナコラー!

・できるかw

・単純(逸般人の感想)

・人それをHENTAIと言う

・言うは易し、行うは難易度ベリハ

・そもそも魔物の出現にかち合う確率自体低いから経験も積みにくい



「いや! 確率が低いとは言いますがたとえば休日なんかを利用してダンジョンに一日中籠もっていれば自然と回数も稼げますよ!」



コメント

・社会人は休日に休むんだよぉ!!!!!!

・学生め!!!!

・社畜舐めてんじゃねえぞゴラァ!!!!

・これが若さか……

・→〈もしかして:ダンジョンバカ〉

・猫の皮剥いだら妖怪ダンジョン小僧が現れた

・青春を対価に遭遇ガチャを回す男

ナナミン・遅くならないうちにお家へ帰りなさい



 なぜだっ!? なぜ理解してもらえないっ!? みんなダンジョン籠もれば分かるよっ!! みんなでもっとダンジョンの空気吸えよ畜生っ!!


 ……だが仕方ない。どうやら兆候だけで出現魔物の推測をする奴はマイノリティであるらしい。遺憾ではあるが仕方なく現実を受け入れなければなるまい。


「……そ……それでまあ、次にスキル発動の速度を早める方法ですが」



コメント

・むしろこっちのが気になる

・ガチで早かった

・これ実戦でかなり有利になる要素だからな

・わくわく



「と言っても基本は反復練習あるのみなのですが。ただひとつコツを挙げるとすれば術式を"浅く"刻むことですかね」



コメント

・?

・?

・んん?

・どういうこと?

・分かるような分からんような

・感覚の話?



「そうですね……術式、言い換えればマナの回路を空中なり物体なりに構築しますよね? その際、普段よりも回路を浅い位置に刻んでやることによって形成する速度を全体的に上げることができます。ただし威力はほんの少し犠牲になりますが」



コメント

・その浅い深いの意味が分からん

・位置?

・何に対する深さ?

・なぜそれで威力落ちるんですか? スキル威力は能力ステ次第ですよね?

・マナの通り道作ってやるのを「刻む」と言うのは分かる。「浅い位置」、これが分からん。ちな探索者

・刻む時に気合入れてやる感じ?



 ううん? どうにも伝わってないっぽいな。


「強いて言えば気合い入れるが近いですかね? そうですね……どうしても感覚的な説明になってしまいますが、労力を省くとでも言い換えられるでしょうか。


 俺の中では奥にしっかり押し込んで刻むところを表面なぞる程度に済ます感じで

す。普段はしっかり作るところをさっと仕上げる? こんなんで伝わりますか?」




コメント

・まあさっきより言いたいことは分かる

・感覚的な話なら伝えづらいですよね

・時短テクみたいなもんか

・独特な表現やな

・術式刻むのに深い位置浅い位置とか考えないな。普通に「刻む」としか思わない

・ひょっとして共感覚の持ち主だったりする?




 納得とまでは行かないものの、ニュアンスは汲み取ってもらえたっぽい。


 ちなみに共感覚とは『文字や数字に色が見える』『音に味を感じる』など常人とは違った特殊な感じ方をする現象である。リスナーは似たようなことが起こっている可能性を指摘しているのだ。


「たぶん共感覚ではない気がします。もっとも"どうもピンとこない"程度の理由ですし、いまのところなんとも言えません。


 あと威力が落ちる理由はちょっと分かりません。ただ威力はステ以外にも例えば術式の正確さや流し込むマナ量などでも左右されますのでその関係ですかね? ……とにかくそういうことですんで。では引き続き探索を続けていきましょう」



コメント

・おー

・よく分からん説明もあるが色々考えているのは分かった

・こいつ想像以上の逸材かも知れんな

・害悪の座主さん倒してる時点で普通の奴な訳がなかった

・おもしれー男

・色んな意味で目が離せんw

・高評価押しときました




 気がつけば高評価数が二〇〇〇を超えている。


(微妙に納得いかない部分もあるが)手応えを感じつつ俺は石造りの通路を進んでいった。

お読みいただきありがとうございます。

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