報酬分配、その後
ひとまず地面に落ちているガロウズウィローの素材をすべて回収。その後に扉を抜けて"帰還の間"の宝箱も開封。
それら品々を石畳の上に並べ、魔石(高純度なうえに大量。つまり売れば高額!)を除いた物品をまとめて〈情報表示〉で確認する。
「……まずドロップから。こっちの大量にあるものが『黒い樹皮』に『柳の妖葉』。そしてひとつしかないこの大きいのは『漆黒の柳材』ですね」
「そしてトレジャーの中身は……まずこちらの黒い布が『隠者の外套』。装備品ですね。そしてこれは『狭間の鍵』です」
俺と弧月氏、ふたりそれぞれの精霊さんに映しながら説明。迷宮主素材のほうは当然というかなんというか、木材系のものばかりである。
「それで、分配のほうですが……」
弧月氏が言った。
「魔石は半分ずつ分けるとして、堂崎さんに『漆黒の柳材』と『狭間の鍵』のふたつをお譲りします」
弧月氏の申し出に一瞬フリーズ。
「……マジですか?」
「はい」
恐るおそる尋ねるとあっさり肯首された。
「いやいや! だってこれ一番レアそうな素材ですよ! 公平にジャンケンとかで決めるべきじゃ……」
「ご遠慮なさらず。なにしろ今回の攻略は堂崎さんの功績が大きいですから」
「功績って……むしろガロウズウィロー倒せたの弧月さんが大半のダメージを与えたおかげだと思うんですけど」
俺が本体へまともに手傷を与えたのは『最初のコブ狙い』と『トドメ』くらい。俺ひとりなら奴はいまだピンピンしていただろう。弧月氏が何度も隙をつき〈白鎌鼬〉を放っていたから偶然俺がトドメを刺せた、ただそれだけだ。
だが弧月氏は首を横に振る。
「私が本領発揮できたのも堂崎さんの一撃で呪いが解除されたからです。そもそも私ひとりならボスの元へたどり着けたかも怪しいです。謙遜せずどうぞ持って行ってください」
「……いいんスか?」
「はい」
ふたたび肯首。
……マジかっ!!
めっっっちゃくちゃありがたいんだがっ!!
たぶんこれ強力な武器、それも杖系の武器作れそうだしっ!!
魔物の落とした素材は武具などの材料となる……のだが、現代科学において魔力の研究はまだまだ途上でもある。
当然、マナの力を宿した迷宮産素材の加工技術も低い。
切る削る鍛える整える、それくらいはできる。ある程度マナを利用した道具や装備も作ることはできる(なんなら『マナを利用した照明』なんかも少しずつ世に出回り始めている)。
だがそれらはどうしてもダンジョン産の武具には及ばない。特殊な効果を持った道具は初歩的なものがせいぜい。たとえば俺の頭に巻かれた『狂魔のバンダナ』なんて、地球の技術では作ることができないのである。
そのためダンジョン用品店で市販されている武具はダンジョン内で入手したものに比べ、どうしても品質・効果などの面で劣るのである。
そこで登場するのが『狭間の鍵』である。
これをダンジョンセンターで提示すれば『狭間の館』と呼ばれる場所への転移門を開けるコードを発行してもらえるのである。
その狭間の館では、ダンジョンの力を借りて素材から直接武具を作り出すことができるのである。
だがあいにく『狭間の鍵』はかなりのレアアイテム。しかも利用はひとつにつき一度だけ。
そのうえ相応の大金だって必要になるが――そのレアアイテムと高純度魔石(改めて言おう、売れば高額!!)が俺の眼前に揃っている。
つまり俺は数少ない貴重な機会を得たのである。
「……ありがとうございますっ! ではありがたく頂戴いたしますっ!」
きっちり四十五度のお辞儀を返す。
コメント
・やったやん!
・堂崎ニキは確かにそんだけの仕事はした
・そもそもあのボス、中級ダンジョンの強さじゃなかっただろ
・デイブレイクメンバーに認められるとかすげえな
「応援コメありがとうございます!」
リスナーにも頭を下げる。いやぁ、無策無謀で霧の中へ突っ込んだ甲斐があったというものだ。
それから残る素材と魔石を分配する。『隠者の外套』はお返しに弧月氏へ譲り、樹皮と葉と魔石は半分ずつに分ける。
「――色々ありましたが、本日はここまでです。みなさんお疲れさまでした!」
そして俺と弧月氏は同時に配信を終え、そのままゲートをくぐってダンジョンセンターへと戻った。
ロッカーで着替えを済ませ、さて帰ろうか……と廊下を歩いていた時。
「――いた、堂崎さん。よかった」
背後からついさっき聞いた声が届いた。
振り返れば野球帽とサングラス姿の女性。変装こそしているものの、すぐに弧月アルテ氏だと分かった。
「……ぅえぇっ!? こげ……っ――」
思わず開いた口を慌てて塞ぐ。
なにしろ彼女は有名人。耳目を集めるのは避けたいはずである。
「驚かせてすみません。そんな絶対秘密ってほどじゃありませんから慌てなくて大丈夫ですよ」
と弧月氏はなだめるように話す。俺は口元の手をどけ、ひと呼吸してそっと口を開く。
「……びっくりしましたよ。なんで弧月さんがここに……」
そう尋ねたものの、答えなどひとつしかない。
「私、この近くに住んでいますから」
果たせるかな、予想通りの答えが告げられた。
俺と同じ町在住だったとは。"雷霆の座主"を倒す場面に居合わせたことといい、こんな偶然もあるもんだ、と思う。
……いや。そう言えば確かデイブレイクの事務所自体が県内にあったはず。なにしろ普段、誰がどこで活動しているかなんて意識しないから忘れてた。
「と言いますか、ひょっとして先日コンビニでお会いしませんでしたか?」
「……ええ。覚えておいででしたか……」
七海のお使いを済ませていた時にちょうど声をかけてきた人物だ。なんか微妙に挙動不審だったので記憶に残っていたけど、あれ弧月氏だったのか。
しかし……その反応だとつまり向こうは俺に気づいていたってことか? あとなんで目から光が消えるんだ?
……まあいいか。
「はい」
「…………そ、それよりもですね」
孤月氏が咳払いをひとつ。どうやらここからが本題らしい。ただ見かけたから声をかけた、という訳ではなかったのか。
「はい?」
「実はさっきうちのリーダーから連絡が入りまして。デイブレイクの、猛魅カヅチさん。ご
存じですか?」
「ええ」
「そのカヅチさんからあなたに伝言があります」
なるほど、猛魅カヅチ氏からの伝言か。他人の配信にあまり詳しくない俺でも彼の名前は聞いたことがある――って、猛魅カヅチぃ!?
デイブレイク内どころか、全探索者のなかでも最上位の実力を持ったお方じゃねーか!
そのトップレベルの方がぁっ!?
俺にぃっ!?
伝言ですとぉっ!?
「な……ななななななっ、なんで、また……?」
思わぬビッグネームに声の上ずりが抑えきれない。
「ああ、実はカヅチさん今回の配信見てましたから」
「ミテタァッ!?」
「ええ。それでですね――」
完全に混乱状態の俺に、弧月氏がトドメのひとことを放った。
「ぜひ直接話がしたいそうです。よろしければ日取りを決めてお会いしましょう、とのことです」
次回で一旦終了します。




