妖葉樹林・攻略後
「やりましたね、堂崎さん」
黒き巨柳が完全に消滅したのを確認し、カースさん改め弧月アルテ様が話しかけてきた。
「はい」
「獣人化した時はどうなることかと思いましたが……おかげさまで助かりました」
そう言って弧月様は穏やかな笑みを俺に向ける。
ここの迷宮守は倒した。他の敵の姿もない。
あとはこの先――ちょうどガロウズウィローのいた場所の奥に見える扉を抜ければ"帰還の間"のはずだ。
つまり用は済んだ。
ならば俺がやるべきことはただひとつ。
「――すみませんでしたぁぁぁぁぁ――――――っ!!」
「堂崎さんっ!?」
土下座である。
そう。ここが俺の(社会的な)墓場なのだ。
覚悟を決めるべき時が来たのだ。
「さきほどは知らぬ事とはいえ生意気抜かしてすみませんでしたぁっ!! "藍晶の洞窟"ではヒトケタ野郎の分際であなたの配信に無許可で映ってしまい誠に申し訳ありませんでしたぁっ!! ただ弧月アルテ様っ、御慈悲があるのならどうかっ、どうかアーカイブだけはお助けをををぉぉぉ――――――っ!!」
「堂崎さぁ――――――んっ!?」
ならばせめて。せめてこの世にイキった証だけは。それだけは残したい。
「おおおおっ、落ち着いてください堂崎さん!」
黒土に額をこすりつける俺に弧月様がお声をかけられた。
「堂崎さんに謝るべきことなんてひとつもありませんから! ほら、顔を上げてください!」
ずいぶん慌てた様子である。そこに俺を責める意志は感じられない。
……あれ? これ別に怒ってる訳じゃない?
「……弧月様は……俺に引導を渡すつもりではないのですか……?」
「なにがどうなってそんな結論になったのかは知りませんが、そんなつもりは一切ありませんから。あと"様"止めてくださいね?」
早口ながらもごく穏やかな声音である。
……これは本当に許されてるっぽい? 消すとか処すとかの話は(※してない)単なる俺の勘違い?
そんな俺に弧月様……氏か? 氏は言った。
「むしろ謝るのは私ですよ。0.00625%の女がいろいろとお騒がせしてすみませんでした……」
…………。
「……0.0……え?」
なに?
なんか唐突に謎数字が出てきたけどどゆこと?
「いえいえ。お気になさらず。しょせんは自意識過剰女の戯言ですので。分かりますか? "カース"は呪いって意味だけでなく『二度も不覚取って呪われるとかカスですよねー』ってダブルミーニングになってるんですよふふふふふ……フフフッ」
「弧月氏? ……弧月さぁんっ!?」
なんか弧月氏が死んだ目で笑い始めた。薄く開いた口の端から低く湿った笑いを漏らすその姿たるや、知らない人に『死体を前にハイになったネクロマンサーです』と説明すれば信じてもらえそうな雰囲気が漂っていた。
「落ち着いてください弧月さんっ!! あなたは別になにも悪いことはしていないっていうか、そもそも意味が分かりませんっ!!」
「……『それで謝罪してるつもりなんですかね?』的なニュアンスで?」
「そもそも謝る必要がない的なニュアンスで!」
彼女の正気を取り戻すべく必死に声をかける。
その甲斐あってか孤月氏の瞳に光が戻る。
「「…………」」
図らずも互いにお見合いの形になる。しばしの沈黙。
「ぷっ……」
「ふふ……」
やがて俺たちは完全に弛緩し、同時に吹き出した。
「……くくっ。いやすみません。まさかカースさんがあの弧月氏だったなんて。本当に驚きました」
「私もまさか"雷霆の|座主"を目の前で倒した方とパーティーを組むことになるなんて思いませんでしたよ」
そうしてふたり笑い声を上げる。つい先ほどまでの空気はどこへやら、薄暗い森に似つかわしくない朗らかな雰囲気が俺たちを包んでいた。
コメント
・な ん や こ い つ ら
・誰か、誰か俺に理解できるよう説明してくれ……
・※ライブ配信中です
・なにわろてんねん
・闇アルテ出たな
・アルテちゃん、配信でたまーにこういう面見せるんだよな
ナナミン・とにかくめでたしめでたし、ってことでいいのかな?
・ナナミンちゃんがそう言うならいいな!
・めでたし、ヨシ!
・仲いいなこいつら
・ガチ恋勢が泣くぞ
・アルテちゃん異性コラボとか普通にしてるし今更じゃね?
・彼女は探索者であって別にアイドルとかではないし
魔物の気配も一切ないのでリスナーコメントを読む余裕もできた。流れるコメントを横目にのんびり笑う。
「……取りあえずですね」
落ち着いたころ、弧月氏が言った。
「ボスの素材を回収しましょうか」
「ですね」
俺たちはガロウズウィローが立っていた場所へと歩き出した。
あと二話ほどで一段落しますのでそこで一旦終了します。




