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妖葉樹林15

 カースさんが弧月アルテだった。


 うん。


 …………。


 ………………。


 …………いやいやいやいやいやいやいやいや待って待って待った待って!?


 カースさんの獣化が解けたら超有名配信者の弧月アルテだったっていったい全体どういうことなの!?


 なんで!? なんでここ居るの!?


 ああそういやリスナーコメで『この迷宮(ダンジョン)攻略してる』うんぬん言ってたっけ! いつもお疲れさまです!(意味不明)



コメント

・キタアアアアアアアアアアアア!!

・ナイスゥ!!!!

・流れ変わったな

・グッジョブ!

・つまり大地の攻撃でアルテちゃんのケモ化効果が解除されたんか

・さっきのスキル制御神業だろ……

・へへっ、見ろよダンジョン小僧のあの顔

・その反応が見たかった

・正体秘密にしてた甲斐があったな

・これだから二枠同時視聴は止めらんねえぜ

ナナミン・え!? あの人お兄ちゃんが"雷霆(らいてい)の座主"倒すとこ撮ってた人!?

・【悲報】ケモないなった

・ケモを返して……

・アルテちゃんに抱き止められるとか裏山

・堂崎大地を許すな

・爆ぜろ



 ちらっと見えたコメント欄はものすごい勢いで流れていた。


 え!? みんな彼女の正体知ってたの!?


 知ってて俺に黙ってたってこと!?


 意地悪ぅ!!


 ……てか俺、カースさん――弧月アルテさん? 氏? 様? ……とっ、とにかく彼女になんか失礼なことしてないよな?


 いや。


 偉そうに時間稼ぎやら囮やらを指示してた。


 なんなら『その気ならご一緒にどうぞ!』とか舐め腐ったこと言ってた。


 あれ? これ俺潰される?



 うん。


 俺(社会的に)死んだわ。



「堂崎さん、動けますか?」


 静かに絶望する俺に弧月アルテ様(おそらく手遅れだが誠意は見せねばなるまい)が優しく語りかけてきた。


「…………あ、はい」


「じゃあ私引き続き囮やりますんで。後衛は任せました」


 俺の返事を待つこともなくひとり突撃していく。


 その動きは先ほどまでのぎこちなさがすっかり消えている。そして速度たるやこれまでとは段違い。灰色の葉の獣化効果とともに"総戦闘力(レベル)ダウン"の呪いも解けたためらしい。


 ガロウズウィローが細い枝を伸ばしてくるも、


「はっ!」


 それらすべてを術技(スキル)も使わず斬り裂いてしまう。これまで以上に冴えわたる刀を前に柳の枝はあっという間に蹴散らされていく。


 地面から根を突き出されても簡単に避ける。灰色の葉を空中と足元同時に差し向けられても当たる気配すらない。


 まるで危なげのない回避動作。相変わらず濃密な攻撃なのにどこか余裕すら感じられる動き。


「〈白鎌鼬(しろかまいたち)〉!」


 そしてひとたびスキルを刻めば爆速で完了させてしまう。ほんのわずかな隙をついて遠距離剣技を繰り出す。


 白い刃が黒い樹木へ一直線に飛ぶ。防御代わりにぶっとい根を柵のように並べるがそれすら切り裂いてそのまま敵本体――幹のコブに命中。威力は減殺されているはずなのに深々とした裂傷が刻まれていた。


 なんて強さだ。囮と言ったがそんなもんじゃない。このままひとりで倒せるんじゃなかろうか。いまもまた〈白鎌鼬〉を本体に当て、深々とした傷を負わせている。


 というか敵はもう弧月様にばかり攻撃を集中させている。おかげで俺のほうにはほとんど飛んで来ない。申し訳程度に伸ばされた枝を余裕で回避するばかりである。


 これこそが弧月アルテ様なのか。何度か見た配信と同じ――いや、それ以上の才能の輝きに目を奪われる。


 本物。


 脳裏に浮かぶのはそのひとことだけだった。ただただ圧倒されていた。幼いころに見たあの光景、俺が救われた時のあの鮮烈な感動が蘇るようだった――


 ……いや待て俺。


 うっかり見とれていたが、俺はあの時と同じ無力な傍観者か?


 それとも動画視聴者なのか?


 違う。


 探索者だ。


 そうだ。見ているだけなんてもったいない(・・・・・・)


 なにしろ俺は日本トップレベルの超一流探索者とパーティーを組めているのだ。こんな機会は活かしてナンボ。どうせ短い(社会的な)命なのだ、開き直って行くしかない!


 とは意気込んでみたものの、実はそろそろ俺の魔力残量も怪しい。


 "狂魔のバンダナ"の『威力と魔力消費増加』の影響もあるうえ〈魔力吸収攻撃(アブソーブアタック)〉をほとんど使えていないのだ(それで切り抜けられるような状況ではなかった)。


 加えて魔力回復薬(マナポーション)は現在在庫切れ。"雷霆の座主"相手に貯金ともども使い切ってしまった。


 スキルの乱用はできない。だがこの調子なら弧月様ひとりで勝てるだろうし、温存する必要も感じない。そして贅沢を言えば"討伐は弧月様頼みだけではなかった"という実感が欲しい。


 という訳で、


「もう一度〈ブレイズミサイル〉行きます!」


 宣言と同時にスキル準備。


 さっきと同じく魔力に反応して枝が伸びてくる。それでもさっきより数が少ない。油断しなければ問題なく回避できる。


 ごく順当に準備完了。


「〈ブレイズミサイル〉!」


 そして発動。杖の先から複数の火球を発射する。


 狙うべきは最初の〈白鎌鼬〉でできた傷だ。


 ガロウズウィローは例によって細い枝が張り巡らせ、火球の進路を塞ごうとする。


 だが弧月様が大量に斬りまくっていたおかげでずいぶんと数が少ない。余裕で迂回できる。


 いや――それだけではない。


 俺自身の操作技術が以前より上がっている。はっきりとそう認識できるほどに。


 たぶんさっきの攻防でコツを掴んだのだろう。


 以前なら息を止めて集中するようなレベルの制御が、いまはごく自然にできてしまう。


 よりすばやく、より自由にその軌道を操ることができる。


 これまで『だいたい、ひとかたまり』で位置を認識していた火球群が、いまはひとつひとつ正確に把握できる。


 いきなり突き出てくる根もたやすく避けられる。


 網目のような枝と枝の隙間もすんなりと抜けられる。


 あっという間に一発が幹の傷口に到達。立て続けに後続が吸い込まれていく。


 全弾命中。


 瞬間的に膨らんだ爆炎が黒い樹皮を飲み込んでいく。同時に幹の内部を炎が駆け巡り、炭化した木片とともに内側から弾け飛ぶ。


 巨木が炎に包まれる。


 樹木が裂ける轟音とともにガロウズウィローは黒土の上へくずおれ、そのまま赤紫の煙となって消滅していった。


 ――討伐完了。

お読みいただきありがとうございます。

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