妖葉樹林14
「ちょっ、堂崎さんっ!?」
驚くカースさんに構わずそのまま黒き巨柳へ接近していく。もちろん〈ブレイズミサイル〉の術式は刻み続けている。
普通ならあり得ない選択だ。なにしろ前衛を守るために後衛が囮になるのだから。
だが彼女を助けるためにはこうするしかない。
奴は自身に接近する相手を狙う、ましてやスキル術式の発光&波長を垂れ流している探索者が近づけば――
予想通り食いついた。俺に向けて伸ばしてくる枝の数が増えた。
ここからが本番、さあ来やがれ――ッ!!
一直線に伸ばされる枝の群れ、それらの動きをギリギリまで見極めて避ける。
いち動作ごとに神経を金ヤスリで削られるような心地。想像以上にキツい。だがわずかでも気を緩めれば刻みかけの術式を消失させてしまう。耐える以外にない。
もちろん鋭い根も容赦なく突き出される。事前の兆候を見逃さず回避。息を整えるヒマもない。凄まじい精神の摩耗。額の汗すら神経に障る。
だがおかげでわずかにカースさんへの攻撃が減っている。ささいな違いだがあの腕前ならアシストとして十分。現にスキルがほぼ使えない状態でも持ちこたえられている。
そしてようやく〈ブレイズミサイル〉の準備が完了。
だが左右から枝が迫る。同時に足元の地面が盛り上がる。
これらを避けるには大きく動かざるを得ない。だがさすがに俺の精神も耐えられない。せっかくの術式を霧散させてしまう。
ならどうする。
鋭く太い根のほうを食らえばまず致命傷だ。絶対避けなければならない。
一方の細い枝は基本的に絡みつくための動き。おそらくは対象を締め上げるため。叩きつけも混ざっているがよく見れば判別可能だ。締められても即死はしないはず。
――なら食らっても構わない。
即断。櫂杖を右手に握ったまま脇に挟み込んで向きを固定。左腕を首に巻きつけるように回してガード。
その直後、枝が首元に絡みつく。腕を巻き込むように胴体にも。
そのまま高々と吊り上げられ、強烈に締め上げられる。
「……ッ……!!」
だが回しておいた左腕の防御で動脈を直接締められるのは防いでいる。即意識を失うことはないだろう。
とはいえ苦痛がなくなる訳ではない。首はもちろん、胴体も猛烈な力で締め上げられている。骨が軋み悲鳴を上げる。そのままへし折られそうなほど――というか、さして時間もかからずそうなるだろう。
だが事前の固定のおかげで杖先端部はいまだ敵の方向を向いている。術式も死守したまま――ッ!!
「……〈ブレイズ、ミサイル〉……ッ」
弦を放つ。
杖先端からいくつもの火球が膨らみ、標的へ一斉に放たれる。
魔術の発動を感知したガロウズウィローが泡を食ったように動く。〈ブレイズミサイル〉群の進路を大量の枝で遮る。
だが、
「……舐め……ン、な……ッ!!」
魔術制御。
すべての火球をそれぞれ別軌道で飛ばす。
あるものは枝同士の隙間をすり抜けさせ、あるものは大きく迂回させる。
まったくバラバラに飛ぶ火球、それらを正確に制御しひとつの目標へと向かわせる。
目の細かな網のように枝が張り巡らされる。あえて先頭の一発をぶつけて穴を開け後続を抜けさせる。
地面の一直線上に盛り上がり。根で柵を作るつもりと察して急旋回。一発は阻まれるが残りは健在。
その間にも俺に巻きついた枝は強く締め続ける。腕越しに首を、そして胴体を。
徐々に意識が遠のく。だがそれと反比例するように残された意識が鋭く研ぎ澄まされていく。
周囲の時間がやけにゆっくりと流れる。
敵がどこに枝を伸ばしているのか、どこに灰色の葉が飛ばしているのか、どこから根を突き出すつもりなのか。
細やかに把握できる。
薄霧が包む樹林の広間、それを俯瞰している気分だった。
苦痛などどうでもいい。
そんなことより火球の制御だ。
濃密な妨害のなか、針を通すように飛ばし続ける。
それでも必死の防御を前に一発、また一発と防がれていく。残る火球は一発。
目標までもう目と鼻の先、だがガロウズウィローは動かせる枝をありったけ集めて最後の火球を遮る。まるで壁だ。通り抜ける隙間も軌道変更の時間もない。
「――そのまままっすぐっ!!」
カースさんの声が聞こえた。
直後に白い刃が高速で飛来。進路上の枝を一文字に切り裂いた。
〈白鎌鼬〉だ。
"スキル発動遅延効果"を食らい使用に制限かけられているなか、このためにスキルの準備をしてくれたのか。自分を守るためではなく、俺を支援するために。
切り開かれた枝の隙間――最後の抵抗を一直線にブチ破り火球は黒い樹木の幹、脈動するコブへと吸い込まれた。
直撃。爆発。
いきなり天地がひっくり返った。
いや、頭から地面へ落ちているのか。
たぶん拘束が解けた拍子にバランスが崩れ、上下逆さの姿勢になったらしい。
あ、これまずい。
一泡吹かせたはいいがこの高さだと死ぬ。
「堂崎さんっ!!」
カースさんの声。
直後に空中で受け止められ、そのまま着地する。
「……っ、助かり、ました……っ」
あえぐように言う。おかげで命拾いした。
……しかしカースさん、俺との距離はけっこう離れていたはずのに。よく間に合ったな。
それになんとなく違和感がある。俺を抱き止める腕――この感触は人肌? 体毛じゃなくて?
「……たぶんいまの一撃で葉っぱの効果が解除されたんでしょうね」
すぐ上からカースさんの声が降ってくる。
「そして偶然なのか、それともなにかの弾みなのか。解けかけていた"総戦闘力ダウン"の呪いも完全に消えたみたい」
声の方向を見上げる。
そこには狐の獣人が――いや、普通の人間の顔があった。
それどころか見覚えのある顔だった。
俺がバズるきっかけを作った人物。
登録者数五〇万人を超える大人気配信者にして超一流の腕前を誇る探索者。
「――さあ堂崎さん。反撃と行きましょうか」
弧月アルテがそこにいた。
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