めっちゃバズった
帰宅して速攻で寝ることにした。妹からは『まず風呂入れ』と言われたがうっかり浴室で寝かねないのでそれは後回し。実際、ベッドに身を投げ出した瞬間に意識が途切れたので正解だったと思う。
目を覚ませば午後六時を回っていた。日曜はほぼ潰れたが想定内だ。それに有意義な時を過ごせたので満足である。
風呂に入ってスッキリしたあとリビングに顔を出す。妹の七海がソファでタブレットPCを眺めていた。両親はたまーに仕事などで家を空けることがある。本日の堂崎家は兄妹ふたりだけである。
俺に気づいた七海が顔を上げる。なぜだか戸惑っている表情である。寝る前はいつもと変わらない様子だったのに。
「おはよう。なにかあったか?」
「……その様子だとまだ知らないみたいね。SNSとか見てないの?」
そういやスマホは寝る前に電源落として机に放ったきりだった。
「見てないな」
「そう。……ひとまずそこに座ってください」
ソファから立ち上がって妙なことを言う。怪訝に思いつつもお互い対面するようにダイニングテーブルに着く。
「一体なんだ? まずメシ食いたいんだが……」
「……その前に伝えなきゃならないことがあるの。落ち着いて聞いてね」
「なんだ?」
「お兄ちゃんのボス攻略動画がバズってる。昨日っていうか今日のアレが」
バズってる?
"雷霆の座主"討伐動画が?
「おお、そうか。そりゃよかった」
やったじゃん俺。ダンジョン攻略のついでとはいえ配信者続けてきた甲斐があっ
た!
まあ本来なら倒せないボスを倒したんだから少しは話題にもなるよな。
動画の高評価数も昨日の終わり際に確認した限りでは二しかなかったが……こりゃあ二桁、いや三桁くらい期待していいかも。あわよくば一〇〇〇とか――
のんきに喜ぶ俺に対し七海は「そうじゃないの!」と立ち上がった。
「おおかたお兄ちゃんは『高評価数二桁、いやあ三桁くらい期待していいかも』とかその程度に思ってるだろうけど! それどころの騒ぎじゃないの!」
「お、じゃあ一〇「あわよくば一〇〇〇とかでもない!」さすがは最愛の妹。以心伝心だ」
「一方通行だけどね! ほらこれ!」
そう言ってタブレットを突き出してくる。どれどれ。
「……………………」
そこに表示されていたのは俺のチャンネルの"雷霆の座主"討伐配信アーカイブ。
その高評価数、一万オーバー。
再生数も俺のチャンネルで未だかつて見たことのないようなどえらい数字を叩き出していた。
「………………は?」
「すごい勢いでネットに拡散されてるから。ほら」
七海は言いながらタブレット操作をして再び突き出す。別窓で様々な動画やら掲示板やらが表示される。なかにはネットニュースのページまであった。
『【切り抜き動画】"雷霆の座主"が討伐される瞬間』
『【偉業】前代未聞! 謎の探索者が"雷霆の座主"を討伐!【ガチ】』
『撃破不能なはずの敵性障害物、なんか撃破されるwwwwwww』
『人気迷宮配信者のライブ動画に映った信じられない光景』
どれも再生数やらPVやらがすごいことになってる。七海がSNSを表示。そちらでもハッシュタグつきであちこち話題に取り上げられている。
「………………は?」
「再生数と評価数。いまも絶賛増加中だから」
七海が改めて俺の動画を表示させてページリロード。最初に確認してから一分くらいしか経っていないのに再生数が三〇〇以上も増えている。もう一度リロード。さらに増えた。
「はあああああああああああっ!?」
ようやく事態を飲み込んだ俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「ちょちょ……っ、いやちょっと待てっ!? 俺はただ撃破不能ボスを倒しただけだぞっ!! なのになんで撃破不能ボスを倒したみたいな騒ぎになってんだっ!?」
「お兄ちゃんが撃破不能ボスを倒したからだよっ!!」
混乱のままにぎゃあぎゃあ騒ぐ。
そりゃあ密かに『バズったら嬉しいな』くらいは思ってたよ?
実際バズったって聞いて嬉しいなと思ったよ?
想定してた規模をはるかにブッちぎってたよっ!!
嬉しいなを数千倍に濃縮したもんブチ込まれりゃ脳が処理しきれねえよっ!!
「……そ……そもそもだ」
肩で息をしつつ改めて口を開いた。
「なんでこんな急激に注目浴びてんだ?」
なにしろ倒して半日と経っていない。いくら休日とはいえ情報が広まる速度が尋常ではない。
ましてやこちとらクソザコ配信者。山と群がる無数の兵たちの奥底に頭のてっぺんまで埋もれている身なのだ。まず掘り返すって手 間が要求されるだろうに。
「それはこの動画がきっかけみたいだね」
そう言って七海はひとつの動画チャンネルを表示。
チャンネル名は『弧月アルテch』。登録者数は五〇万人超である。
……って、超人気配信者じゃん!
企業が運営してる超一流探索者チーム『デイブレイク』のメンバーじゃん!
他人の配信はあんま熱心に見てない俺ですら知ってるお方だよっ!!
七海は今日撮影されたライブのアーカイブを開き、動画終盤辺りにシークバーを動かす。
再生された動画には"雷霆の座主"に〈インフェルノ・バンカー〉が突き刺さり、爆砕された瞬間が捉えられていた。しかも俺の声までバッチリ乗っている。
「ここの切り抜きがSNSなんかで拡散されたのがきっかけだね。あとはもう燎原に火を放つが如し、って感じ」
「それおめでたい時のワードチョイスじゃありませんよね……」
まるで炎上してるみたいじゃないか。
「……まあでも」
七海が言った。
「ずっと応援し続けてきた身としてはお兄ちゃんがみんなに認められるのは喜ばしいことだよ。私、お兄ちゃんの配信好きだからなおさらそう思うよ」
「ははは。愛いやつじゃもっと言え」
「だからって今回みたいな無茶は控えてほしいけど。昨日出かける前にさんざん『無理するな、ちゃんと休憩取れ』って言ったはずなんだけど? そこの辺りどうお考えになってるんですかねお兄様?」
「…………」
じとー、と半眼で睨まれるのから顔を逸らす。アーアーミエナイキコエナーイ。
「で、お兄ちゃん。これからが肝心だよ」
七海が言った。
「当然みんな次の配信に注目するはず。そこで上手いことみんなの心をガッチリ掴めば人気配信者の仲間入りって寸法だよ」
「おう、そうだよな」
ダンジョンに入る喜びが一番とはいえ、わざわざ配信にも手を出してる身だ。そりゃあチャンネル登録&高評価は欲しいに決まってる。チャンネル登録&高評価は欲しいに決まってる(※二度目)。
「と言っても特別なことする必要はないかもね。お兄ちゃん強いし、キャラ立ってるし。普段通りにやっていれば自然と人気も出るんじゃない」
強い、か。
そう言われても正直ピンと来ない。
さすがに『別に俺なんて全然大したことないし』と卑下はしないがそれでも上には上がいくらでもいる。それこそ件の弧月アルテ氏なんて相当な実力者だ。
ちらっと配信覗いただけで理解させらされた。単純に能力が高いのもあるがそれだけじゃない。動きは洗練されていて押し引き判断も的確。正攻法を得意とする一方、要所で差し挟まれるフェイントもめちゃくちゃ巧妙なのだ。
そんな凄腕とタメを張れるような実力者がチーム『デイブレイク』には――いや、そこ以外にもゴロゴロいる。
人はそれを上澄みと呼ぶ。
天上に輝く無数の綺羅星、そのひとつを見上げている心地だった。あれを知ればとても天狗になどなれない。
「……ま、とにかく次が気合の入れどころだよ。応援してるからね、お兄ちゃん」
「おう」
まあ戸惑いが先にきたが、吉事であることには違いない。今日のところはのんびり休みながら喜びに浸っておこう。
「さ、ごはん用意するね。お腹空いたでしょ」
「手伝うぞ」
「いいよ。疲れてるだろうしゆっくりしてて。……あ、それと」
「ん?」
「遅れたけどおめでとう、お兄ちゃん。がんばりが報われてよかったね」
そう言って愛しの妹は屈託ない笑顔を浮かべた。
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