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妖葉樹林11

 いちおうの計算はある。


 妖葉樹林(このダンジョン)はの湿度はそれなりに高く、しかもいまは霧に覆われている。周囲へ燃え広がる危険性は低いはずだ。


 周囲の茂みも含め他の探索者の気配もない。というかこの濃霧の中、わざわざ開けた経路から外れまともに移動できない茂みに踏み入る探索者など想定不可能である。


 また、仮に付近にいたとして戦闘音は十分聞こえているはず。そもそも探索者が術技(スキル)名を叫ぶ理由のひとつが『周囲への注意喚起』なのである。


 つまり巻き添え被害の可能性は低い。森の木々へ向けて火炎放射(ドラゴンブレス)を盛大にぶっ放してもまったく大丈夫なのである!


 ……たぶん!


 頭上からムチのように迫る柳の枝を焼き払ったのち、カースさんの周囲を回り込むように一回転。彼女を巻き込まないよう注意しつつ全周囲を焼く。


 大杖から噴き出る紅蓮の炎が湿った黒土を、(つゆ)の降りた深緑を、(きり)の向こうに(かす)む樹木を容赦なく飲み込んでいく。


 変化はすぐに現れた。


 新たに追加された柳の枝――頭上からしつこく迫る攻撃の精度が露骨に低下していたのだ。


 カースさんがその場から移動しているにも関わらず最初の位置――いまや誰も立っていない空間へ攻撃を空振らせていた。


 読み通りと見ていいだろう。周囲の虫たちがこちらの位置を探り、柳の本体へと伝えていたのだ。


 あるいは別の探知手段なのかも知れないがそれは些細な問題である。とにかく先ほどの攻撃によって敵は俺たちを見失った。


 もちろん一時的なものだろう。おそらく新たに虫が差し向けられ探知の穴を埋めるはずだ。


 すぐさま次の行動へ移さなければ。


 ではどうするべきか。


 ひとまず撤退するのが妥当な選択であろう。


 来た道を全速力で引き返して霧から脱出する。そして改めて"帰還の間(ゴール)"を目指す。


 ごくごく堅実な方針だ。


 ……が、いまさらそんな堅実さを選ぶ俺ではない!


 当然ここは前進あるのみ!


 目指すべき方角ならおおむね割り出している。ようは枝が伸びてきた方向をたどって行けばいい。


 すばやく得物をパドルロッドに持ち替え、叫ぶ。


「隙が出来ましたんで俺はこのまま攻め込みます! カースさんもその気ならご一緒にどうぞ!」


 なにしろもたついているヒマはない。返事を待たずさっさと駆け出す。


「……上等!」


 ほんの一呼吸ののち、背中越しにカースさんの声を受ける。


 いいガッツだ。ひとかどのケモと見た。機会があれば迷宮(ダンジョン)観についてじっくり膝を突き合わせて語らいたいものだ。


 視界不良のなかを全速力でダッシュ。危険もいいところだが立ち止まったところでそれは同じ。ならば目標への接近を優先するべきだ。


 途中で魔物に遭遇。足を止めず俺&カースさんが得物を振り抜きKO。


「葉っぱ! 触れると獣になります!」


 並んだカースさんが叫ぶ。


 見れば地面に灰色の葉が落ちている。すんでのところで避ける。


「あざっす! ちなみにアレ効果ランダムです!」


「了解!」


 カースさんアレに触れたのか――と納得しつつ手短に情報共有。なお駆け抜ける。


「!」


 頭上から柳の細い枝。だが葉音は隠せていない。すでに刻んでおいた〈ヒートエッジ〉で斬り裂く。


「下!」


 頭上に意識が向いたところでカースさんの鋭い声。反射的に視線を落とす。足下の土がにわかに盛り上がる。


 攻撃と直感、横ステップ。


 直後に黒々とした太い根が地面から突き出てきた。鋭く尖った先端部が次々と天を突く。


 飛び散る黒土を横顔に浴びつつも足は止めない。危ないところだった、と思う間もなく進路上の地面が多数盛り上がる。


「っらあああぁぁぁっ!!」


 槍のように突き出される無数の根、それらを右に左に回避する。いずれも人の脚ほどの太さがある。下手を打てば即お陀仏だ。


 串刺しを避けつつなおも走る。霧の向こうからひらりと舞う影――灰色の葉だ! 同時に頭上から枝!


「〈ヒートエッジ〉ィッ!!」


 容赦のない同時攻撃、だがあいにく神経は研ぎ澄まされている。即反応しすべて払い飛ばす。


 ここに来て新たな攻撃パターンの連続か――そう思った直後、にわかに霧が薄くなる。


 見たところ広場に出たらしい。視界が完全に晴れた訳ではないものの先ほどまでに比べればずいぶん見通しもいい。


 その視界の先――木々に囲まれた広間の奥にひときわ大きな影が高くそびえ立っていた。


 黒い樹木だ。


 野太い幹が頭上へと伸び、そこから細く長くしなやかな枝が八方へと分かれている――樹木が大きく揺れる。


 それだけで確信した。


「……本体だ!」


 走りながら叫ぶ。同時に樹木の枝がうなりを上げて俺たちへと襲いかかってきた。


「はあっ!!」


 カースさんが前に出て切り払う。


 その隙に俺は〈情報表示〉スキル使用。あれが魔物なら名称と総戦闘力(レベル)が空中に表されるはず――



・ガロウズ・ウィロー Lv55



 ――表示された。


 しかも名前の前に金色の扉のアイコンが輝いている。


 それが意味することはひとつ。


 俺は叫び、その事実をカースさんとリスナーたちへ伝えた。


「ガロウズ・ウィロー! あいつがここの迷宮守(ボス)だっ!!」

お読みいただきありがとうございます。

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