妖葉樹林10
―― 弧月アルテSIDE ――
……はいどうも、弧月アルテことカースです。
少々時間を遡って説明しますと――
灰色の葉っぱに触れたら獣人になった。
たぶん呪いのたぐいだと思う。
微妙な違和感こそあるものの、まあ普通に動いて戦える。
ということを有角兎たちとの戦闘後にリスナーたちへ伝えた結果、
コメント
・かわいいいいいいいいいいい!!!
・ケモ!!!!!!!!!!!!!
・獣人やっったあああああああああああああああ!!
・¥10000
・ああああああああああああああああああああああああああ!!!!
・かわいい
・かわいい
・モフゥ……
・動けるなら探索も続行できるやろ
・家に連れ帰りたい
・しっぽの付け根どうなってんの? 普通に布地貫通して見えるけど
・手の構造も人間と同じだし足も見た感じ趾行じゃなくて蹠行っぽい? ちょっと素足見せてもらえますか?
・HENTAIがいた
・もしもしポリスメン?
・やっぱり霧の向こう調べたほうがいいかもね
……という感じとなり、(混沌部分をろ過した)話し合いの結果、探索を続行することに決めた。
意を決して視界の悪い霧内部へと突入。魔物たちの襲撃を返り討ちにしつつ進んで行くと、やがて遠方からの戦闘音が耳に届いた。
他の探索者だろうか?
接触すればなんらかの情報を得られるかも、と考えそちらへ向かった結果――
「ッンちくしょおがぁっ!!」
ここ最近でずいぶん馴染みの声となった堂崎大地氏の叫びが聞こえてきた。
まったく偶然の遭遇である。
が、あり得ないことではない。彼も今日妖葉樹林を攻略すると配信予定枠に書かれていた。
最近出現したばかりの中級者向けダンジョン、彼が攻略動画の対象とするのもなんら不思議ではない。同じ高校生なのだから時間帯が被るのも当然である。
それはともかく、堂崎氏の助太刀に入るべきか。
声に切迫感があった。つまりそれなりに危ない場面であろう。
ならば助けに向かう、それはいい。
問題は私の正体を明かすか否かである。
配信中に出会った他の探索者と行動をともにする、というのはそう珍しいことではない。普通に名乗り、普通に戦えばいい。
つまり『どうも初めまして、能力ダウンの呪いが解けかけて調子に乗っているところへケモ化の呪い(推定)にかかりました、"呪いに愛されし女"こと弧月アルテです』と挨拶すればいいだけ――
やだ(即答)。
幸い(?)姿が変わっている今ならいくらでもごまかせる。私は通りすがりの獣
人、そういうことにしておけばいいのではないか。
いやさすがに考えすぎか? いやでも……と考えたところで、
コメント
猛魅カズチ・アルテちゃん、せっかくだから堂崎氏にはまだ正体秘密でお願いでき
る?
・リーダー!?
・カズチの兄貴やんけ!
カズチさんがコメント欄にいるのが見えた。
猛魅カズチ。
私が所属する探索者チーム『デイブレイク』のリーダーである。今日はオフだったはずなので視聴していてもおかしくはない。
「ああ、リーダー。了解ですけど……なぜまた?」
コメント
猛魅カズチ・彼の戦いぶり改めて確認したいだけだから。そんなガチ秘密とかじゃなくてOK
つまり有名人が見ていると意識させない普段通りの動きを見たい、という意味だ。カヅチさんも堂崎氏に興味を持ったのだろうか。
「分かりました。なら名前ですが………………いま呪われてるんでカースとしておきましょうかね……」
コメント
・草
・安直ぅw
・自嘲漏れてるw
・カースちゃんがんばれー
・呪われしJK
……そして堂崎氏の救援に入り、
「ちょっと時間稼いでください!」
――と頼まれ、現在に至る次第。
鞭のように細くしなやかな枝――リスナーさんいわく柳の枝が迫る。例の灰色の葉っぱも生えている。この枝の主が獣人化の犯人なのだ、と理解した。
「はぁっ!」
私怨を乗せた愛刀を一閃。
寸断された枝が赤紫の煙となり、白い霧へ溶けるように消滅していく。
だがいくら斬っても柳の枝は次々と伸びてくる。速度もかなり速く、しかも分厚い霧の向こうからいきなり飛び出してくる。視認してから身体に届くまでゼロコンマ数秒台、対処時間の猶予はそれ以下だ。
能力低下中、しかも慣れない獣人の身体である現状では少々厄介である。並の探索者であればろくな対処もできないうちにやられてしまう――枝の動きからは対象を"打つ"というより"絞める"という狙いが感じられる――だろう。
さらには自分だけでなく堂崎氏も守らなければならない。弾かれたように反対方向へ跳び、堂崎氏を狙う枝を斬る。
霧内部の攻略情報が少ないのはこれが理由か――対処しながら理解していた。
突入した探索者のほとんどがなにが起こったか理解できないまま倒されたのだろう。生き延びた者も『ここは危険だ、もしくは罠だ』と判断しすぐに引き返したのだろう。
『危険そうな霧内部へわざわざ挑戦したうえで攻略Wikiを編集してくれる』希少な人物が持ち帰った情報はあれがせいぜいだったのだ。
ともあれまずはこの状況を切り抜けねば。
二度重ねて呪われてもこちらは企業運営チーム所属のプロなのだ。弱音など吐いていられない。修羅場なら何度もくぐってきた。多少厄介な程度で臆する私ではない。
「――いまのうちに俺の考えを伝えておきます」
唐突に堂崎氏が口を開いた。リスナーと私に向けた説明だとすぐに理解した。
「この霧の中で柳の枝は明らかに俺たちの位置を把握しています。ではどんな手段で探知しているのか。たとえば"雷霆の座主"は目視のほか周囲の水晶をセンサーとして探知に利用していました。それと似た仕組みがまず頭に浮かびました。
たとえば枝がセンサーの役割を果たしている? 普段ならそれが第一候補になりますが、例の灰色の葉が自走するのを確認したいま『じゃあ枝がない場所で葉はどうやって位置を把握するのか?』という疑問が湧きます。
葉にセンサー能力がある? なら罠設置して踏み待ちと言わずもっと積極的に動いて俺を嵌められたはず。いまいちピンと来ない。
では他には? 先ほどの攻防にヒントがあると考えます」
堂崎氏が構えた大杖の先端部に魔力的な発光現象。
「俺は視界が制限されている中で枝が這う音などを頼りに攻撃方向を予測していました。おそらく本体もそれに気づいたのでしょう。わざと様々な音を立ててそれを妨害してきました」
そんなことがあったのか。道理で周囲が異様に騒がしいわけだ。
「葉を揺らす、枝を激しく擦り合わせる、虫の鳴き声を立てる――はい、ここです。前者ふたつはいいです。問題は後者、偶然にしては妙にタイミングがいいですね」
大杖先端がひときわ強く輝く。
「ダンジョン内の草木や石はすべてマナで作られたものです。当然虫もそうだろうと流していましたが……もしも柳本体と連携している魔物だとしたら? 探索者を影から見張って情報を伝える能力を持っているとしたら?」
ギラついていた輝きが一段落ち着く。術式を刻み終えたのだ。
……って……まさか!
本気でやるつもりなの!?
「他に怪しいもんも探索者も見当たらねぇですからいっちょ派手に試していいよなぁっ!! ――〈ドラゴンブレス〉ッ!!」
発動。
大杖の先端から猛烈な勢いで炎が放たれ、まずは頭上の枝を樹冠ごと焼き払う。
続けて狙いを周囲へ向け、木々と茂みを焼き払い始めた。
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