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妖葉樹林9

 全身に生えた白くつややかな体毛。


 大地を踏みしめる二本の後ろ足。


 いかなる原理か、衣服を透過して伸びるモフッとしたしっぽ。


 天に向かってピンと立つケモ耳。


 俺の前に立つ人影はまごう事なき白狐の獣人であった。



コメント

・ガタッ

・ガタッ

・ガタッ

・ガタッ

・ガタッ

・ケモ来たあああああああああああ!!!!!!

・ケモだあああああああああああああああああああ!!!!

・やったぜ!!!!!!!!!

・神展開

・しゃあああああああああああああああああ!!!!

・ケモオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

・※ケモナーがアップを始めました

・ケモ7・人3くらいか。ちょうど中間のバランスだな

・もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ

ナナミン・へー迷宮(ダンジョン)って獣の人とかもいるんだー

・お前ら正体言うなよ、絶対おもろいからw



 ……柳の枝を迎撃しながらチラッと見たが、コメント欄がものすげえ速度で流れていた。


 そこまでか。君らそこまで好きなのかケモ。


 当の二足歩行する白狐の人は刀を振るいつつ口を開いた。


「ケガはありませんか?」


「はい」


「細かい話はあとで。ひとまずこの場を切り抜けましょう」


「はい。あ、俺は現在配信中ですのでご了承願います」


「私もですよ」


「そうでしたか。ええと、なんとお呼びすれば……」


「…………"カース"と。ええ、私にはそれがお似合いの名前ですので……」


 白狐の人はなぜか死んだ目でそうつぶやいた。


 呪い(カース)? なんで? 呪術系スキルの使い手には見えないけど……。


 よく分からんが――いまは敵の対処が先だ!


 伸びてきた柳の枝を〈ヒートエッジ〉で迎撃していく。


「〈氷面割ひもわり〉!」


 反対方向は白狐の人改めカースさんが対応する。冷気をまとった刀で細い枝の群れを次々と斬り払っていく。


 振り抜いた勢いで散った冷気が少し離れた俺の方にまで届いている。うぶ毛が白く染まりそうな感触が降りる。かなりのスキル威力であることがうかがえる。


 それに剣の腕前も相当なものだ。反射神経もいい。


 少々動きにぎこちなさこそ見えるものの、この霧の中でも敵の攻撃に危なげなく対応できている。岡目には俺より余裕があるように見える。


 これだけでカースさんがかなりの実力者であることが知れる。


 心当たりはないが……いったい誰だ?


 そういえば、なんとなく聞こ覚えのある声な気がする。しかし誰なのかは思い出せない。


 服装もだ。俺と同じく和装。全体的に丈は短いが着物をベースにしたものだ。


 どこかで見た気がする。それもつい最近。


 もっとも他人の服なんてそんな注意深く見ないし、そもそも着物ベースの装備品なんてごまんと存在する。見間違えと言われればそれまでだ。


 なにより全身白狐アバターのダンジョン配信者さんなんてまったく知らない。


 というか姿を獣人に変えるなんて可能なのか?


 いちおう首から上だけなら『メタモルチョーク』という道具がある。


 主に配信者向けに用意されたもので、他人の顔へはもちろん、獣顔やアニメ顔なんかに変化させることも自由自在である(なお使用はダンジョン限定。詳細は省くがダンジョンの外では効果が発揮されないのである)。


 しかし全身を変化というのは聞いたことがない。そんな道具があるならとっくに話題となっているはずなのだが……。


「はぁっ!」


 疑問に思う俺をよそに、カースさんは細い枝を捌いていく。


 いまのところは問題ないとはいえ、打開が必要な点には変わりない。


 ……そういえば。


 この状況に関して引っかかることがある。


 いや、この少し前か。振り返ってみて不自然な点があった。


 もしや――


「カースさん!」


「なに!?」


 決断し、声をかける俺にカースさんは振り向かずに答える。


「ちょっと時間稼いでください!」


「分かりました!」


 なぜ、とは聞かれなかった。普通は見知らぬ人間にそう言われても即断できないだろうに。


 迷っているヒマはないと割り切ったのか?


 それともムチのように迫る細い枝たちを捌き切る自信があるのか?


 あるいは、俺のことを知っている?


 それもあり得る。手前味噌だが例の動画のおかげで俺は知名度をそれなりに得た。


 それをきっかけに過去(アーカイブ)動画が目に留まったのかも知れない。それで俺の腕前を把握し、信用できると判断した――……なんか緊張してきた。もししくじったらどうしよう。



『うわあ、この人「時間稼いでください(キリッ)!」とか決めといてやらかしやがったよ。ダッサ。


 しかもよりによってこの私を巻き込んで。ちょっとバズった程度で調子こいてやがるガキにこの仕打ちは到底我慢ならないわね。


 ならば報復に私の配信リスナーおよび全世界のケモナーを総動員してSNSで晒し上げにしてやるわ。もちろん反転アンチ化したお前のリスナーたちも手駒に加えて。せいぜい大炎上にその身を焼かれながら己の浅はかさを悔いることね!』



 ……みたいな展開に…………ならない、よね?


 だが言ったからにはやるしかない。


 俺は〈収納(ストレージ)〉を使用、内部から大杖を取り出した。

お読みいただきありがとうございます。

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