妖葉樹林7
突入時こそヒャッハーしていた俺ではあったが、さすがに霧の中でヒャハる訳にもいかない。まばらな虫の鳴き声の中を静かに進んでいく。
事前の予想通り視界は相当に悪かった。七~八メートル先がもうまったく見通せない。もちろん足元には例の灰色の葉もあった。視界の悪さとの合わせ技で危険度は跳ね上がっている。
「素材置いてけやぁぁぁぁ――――っ!!」
『GYAAAA――――ッ!?』
そして当然のごとく魔物にも容赦なく襲われる。むしろ襲撃頻度がさっきまでより多い。霧の向こうから突然現れ飛びかかってくるのである。
どうも俺の位置を把握している風である。そこらに探知能力の高い魔物でも潜んでいるのだろうか。
必然、降りかかる火の粉を払いつつの慎重な歩みとなる。時間はかかるが仕方ない。方位磁石を確認しつつ――ダンジョン内は疑似的に方位が設定されている――特に足元に気をつけて進む。
「……さっきからあまり雑談できていませんけど。リスナーのみなさん退屈ですよね」
周囲を警戒するあまりろくに話もできていない。しばらく確認できずにいたコメント欄へと目を通す。
コメント
ナナミン・小2の時にお兄ちゃんが『まちがっておさけ飲んじゃった、警察につかまっちゃうよぉ』と号泣していたんですよ。"さけ"茶漬けの空き袋を手に
・www
・かわいいw
・草
・アレも人の子じゃったか
・真面目な子だw
・もっとおもろい話おしえてw
・あ、大地は構わず探索続けてていいよ
妹よ。
ともあれ俺の個人情報を贄に空気というか間は保たれた。これで安心して探索に戻れる。…………集中しよ。
その集中のおかげで気づくことができた。
頭上でかすかな葉音が這っていることに。
そう、まさしく這うと表現すべき気配だった。
木の葉が揺れるだけではない。なにかが枝を擦っているような音もするのだ。ちょうどなにか長いものが移動する時に発生するような――
「!」
反射的に見上げる。
いつの間にか頭上の枝葉の隙間から長い長い植物が垂れていた。
一瞬なにかのツタかと思ったが違う。大量の葉がついている。灰色の葉が。
「敵襲!」
リスナー向け状況説明と同時に飛びすさる――瞬間、長い植物が弾かれたように伸びる。猛禽類のごとき荒々しい動きで迫り、直前まで俺の首があった空間を鋭く薙いだ。
「……っぶねぇ!」
距離を取りつつ頭上を睨む。そのころには長い植物は枝葉と霧の奥へ引っ込んでいた。
コメント
・いきなり来た!?
・いまのよく避けられたな
・何?
・なんの魔物だ?
・そもそも魔物なの?
・あれ例の葉ついてたよな
「相手の正体は不明です。罠や機構の可能性も否定できませんがひとまずは魔物と仮定します」
周囲を警戒しながら言う。あの緩急ある動きからは意志を感じられたためだ。植物系を中心に候補となりそうな魔物を脳内でリストアップ。だが心当たりがない。
「なにより重要な事として、あの植物から例の灰色の葉が生えているのが確認できました」
コメント
・見えた見えた
・つーことはあの葉はアイツ産ってことか?
・葉の形状といいあれは柳の枝じゃないでしょうか
・考察勢たすかる
そういえば少し前にもコメントで『柳の葉』という指摘があった。柳の魔物は――やはり心当たりなし。
「おそらくあの灰色の葉は奴が仕掛けたものなのでしょう。〈情報表示〉に反応しないのは魔物の一部、もしくはスキル的な代物だからということでしょう」
つまりスキル効果の対象外だった、ということだ。
「そして本体はどこかに潜んでいて枝だけを伸ばしてきたということでしょう。先ほどからの魔物襲撃といい、なんらかの手段で俺の位置を探知しているのは間違いありません。霧に乗じているのか、あるいは霧そのものとなにか関係が――」
と情報整理している俺の耳に、さらなる葉音が届く。
「来ます」
そう言って櫂杖を構える。忍び寄られるのは恐ろしいが、事前に来ると分かっているなら対処もしやすい。いや、油断はできない――
「……力押しか」
今度は忍び寄るつもりはないらしい。派手な音を立て頭上から大量の柳の枝が伸びてきた。
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