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妖葉樹林5

 戦闘や雑談をしながら小一時間ほど薄暗い森の中を進んでいく。たまーに灰色の葉が落ちているのを見るが今度は触れずに無視する。検証は続けたいのだがちょうどいいタイミングで被験者が現れてくれないのである。


 光量に問題ないとはいえ樹林内には日が差さない。おかげでひやりと湿った空気が周囲を漂っていた。呼吸をするたび腐葉土の匂いが鼻孔をくすぐり、重い空気が肺を満たす。


 折しも季節は夏。そろそろ高校も長期休暇に突入しようかという時期である。そこにこの涼しい空気である、つまり迷宮(ダンジョン)は涼を取るのにも最適ということだ。


 無論あえて陽炎揺れる砂漠系ダンジョンに挑み酷暑を極めるもまた良し。その日の気分や好みにダンジョンはいつでも応えてくれるのだ。



 ダンジョンすればみんなが幸せ。ダンジョンすれば世界が幸せ。


 さあミナサン、僕と一緒に幸福の光あふれるダンジョンへ潜りまショウ――



 それはともかく。


「……右手側の方角に霧が出ていますね」


 ちょうど左右二手に分かれた道の先、白いもやが薄く漂う道を精霊さん(カメラ)に映す。



コメント

・霧だな

・あやしい

・濃さはどうだろ。いまはそんな濃くないけど

・さてギミックか、それとも自然現象みたいなものか

・油断禁物



 そういえば開いたサイトに霧の情報が少しあったな……と思い返す。


 もっとも、たった二行の到底頼りになりそうにない代物だった。元々流し読みだったし、仮にちゃんと読み込んでいたところで分かることはほぼなかっただろう。


「一方で左手方向の道に霧がかかっている様子はありません。まっとうに考えれば霧の先は危険なので避けて進むのがベター……といったところでしょう」



コメント

・(フラグ)

・まっとうであればそうする。まっとうであれば

・でもあなた妖怪なんでしょ?

・芸人用語でいう『押すなよ?』ってことですかね



「ですがダンジョンがわざわざ困難なルートを用意するってことは相応の見返りといいますか、大抵はなにかがあるって意味でもあります」



コメント

・(フラグ回収)

・流れ変わったな

・お? 行くか?

・それでこそ妖怪だ



「ですので霧の出ている道が気になりはするのですが……ただ、その場合ですと例の灰色の葉が懸念点となるんですよね」


 右手側を指しながら言う。


「ここから見る分にはそれほど濃い霧ではありませんが奥に進むほど濃密に……というのが想像できます。当然、足元も見えづらくなることでしょう」



コメント

・あれ?

・意外と慎重だ

・まさかのフラグブレイク?

・でも確かに

・うっかり踏んじまうかも知れないもんな



「その通りです。あの葉が警戒すべきものと理解したいま、視界の悪い道は相当リスキーな道のりになってしまうと想像できます」


 葉の効果は判明しているだけでも『速度低下』と『波長発信(=隠密性低下)』。


 前者の危険性は言うまでもなし。後者もこちらが視界を制限されるなか魔物側からは一方的に俺の位置を把握され続けることになる。


 加えてまだ未知の効果があるであろうことも想定される。効果時間など不明な点

も――というか不明な点のほうが多い。


 ただでさえ周囲が見えないなかに推定デバフ機構(ギミック)が混ざっている道中。まともな感性の持ち主であれば二の足を踏むであろう。


「ついでに『あの霧はただの霧なのか?』という疑問も沸きます。それこそ触れているだけで何らかの悪影響が……なんて可能性も否定できません」



コメント

・それな

・葉のあとじゃそう感じるわな

・さすがにそこまで悪辣じゃないと思う

・あれもダンジョンの(トラップ)とかギミックかも知れん



「そもそも霧の情報が少ないのだって恐らくみんな警戒して避けた結果でしょう。あるいは霧の出現確率自体が少ないか。


 情報を得るため検証しようにもやはりネックになるのは灰色の葉の存在です。もしも葉に引っかかった場合まともな検証が続けられるか不明です。それに何らかの効果が発揮されたとして、それが葉と霧のどちらによるものか区別がつかなくなる恐れがあります。


 総じて霧の中へ入るのは避けたい状況であると言えます」



コメント

・うん

・怪しいものがひとつだけならともかく、ふたつじゃな

・さすがに回避かー

・それが賢明だわな

・やめとくのが正解

・検証はいまじゃなくてもできる

・妥当

・しゃーない



 コメントの雰囲気も完全に霧ルート回避に傾いている。


 まあ当然である。そもそも避けられるリスクは極力避けるのが探索者にとって重要な姿勢だ。


 優秀な者であればなおさら無理をしない。死亡からの復活による出費を極力抑え、浮いた資金を優れた装備に充て戦力の充実を図る。そうしてより高難易度のダンジョンへと挑む足がかりとするのだ。


 未知のものは恐れる。楽観よりも警戒を心に置く。


 それが普通だ。常識だ。セオリーだ。まともな判断だ。


 事ここに至ってはもはや迷う要素がない。


 俺は霧のない道へと視線を移し、最終結論を下した。


















「――ンなこたァ知るかアアアアァァァァ――――――――ッ!!」



コメント

・知 っ て た

・デスヨネー

・長い前振りだったな

・ひとりレミング

・あの……ダンジョンで叫んだら魔物が……

・妖怪に人の理を説いても無意味

・あの説明はなんだったんだよw

・ついヤッちゃったか……

・逝ってらっしゃーい



 リスク? 全部ねじ伏せりゃ万事OKだろうがよぉっ!!


 俺は霧の中へと突撃した。

お読みいただきありがとうございます。

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