妖葉樹林1
「――はい、どうもみなさんこんにちは。堂崎大地チャンネルです」
黒い作務衣風装備に身を包み、赤い狂魔のバンダナを巻いた姿で精霊さんに挨拶をする。
コメント
・はじまた
・こんにちはー
・へへっ、やっと来やがったか
・待ってたぜ
・オッスオッス
・お義兄さんこんにちは
「概要にも書いている通り今回は"妖葉樹林"を攻略していきたいと思います」
コメント
・変わった迷宮らしいね
・森系かー
・攻略者いまだゼロ
・ボス見かけないとか
「らしいですね。もっとも詳しいことまでは分からないみたいですが」
一応ちょこっと情報収集したのだが……いかんせん量も質も不足している。ここが出現したばかりで攻略挑戦者そのものが少ないため、ろくに情報が出揃っていないためでもある。
だがそもそもダンジョンの総数が非常に多い。加えてWiki編集をしてくれる有志の数は限られている。
攻略情報が豊富にある有名ダンジョンの裏で、誰からも見向きもされず攻略情報がゼロに等しいダンジョンはごまんと存在しているのだ。
そのうえダンジョンは内部構造が不定期的に変わる。魔物の種類や罠・宝箱の傾向まで以前とまるで違うこともしばしばだ。ガッツリ下調べを行ったとしても翌日にはもう古い情報となっていることなど珍しくない。
さらには既存のダンジョンに新たな魔物や罠が配置されることだってある。それが既出のものであれば情報も使える。だが実際にはまったく未確認の魔物&罠が日々追加され続けている。それら情報が集まり、対策手段が認知されるころにはまた新たなものが発見される。
基本的な約束事などは"迷宮と試練の女神"ネリス様が教えてくれている。だが人類はいまだダンジョンを理解できていない。深海のように、あるいは外宇宙のように未知の暗闇に閉ざされている。
だからこそ探索者にとっては事前の情報収集だけでなく当意即妙の対応力が重要となる。ダンジョンはつねに出たとこ勝負、くらいの気構えがちょうどいい。
「まあネタバレなしの初見で挑めるいい機会だと受け止めておきましょう」
コメント
・ポジティブやなー
・大地ニキはネタバレ禁止派だと思ってた
・まあ事前情報抜きで挑む奴は少数派だからな
・ワクワクは大事
「まあ俺も初見ネタバレ抜きが好みではありますね。とはいえ絶対のこだわりではありませんし、下調べしたからといって探索がつまらなくなる訳でもありません」
半ばゲーム感覚でダンジョン攻略を楽しむ探索者も珍しくはないが、それでもゲームのネタバレなしとは根本的に意味合いが違う。
なにしろ攻撃を喰らえば実際に痛い目に遭う。痛覚にはある程度の抑制がかかるとはいえ辛いものは辛い。それを避けるために事前の対処方法を調べておきたいと思うのは自然なことだ。
それに探索は人によっては"生活のかかった仕事"でもある。ネタバレうんぬんなどとのんきなことを言って日々の糧を得られるほどダンジョンは甘くない。漁師が海状も見ずに船を出すだろうか? 情報を得たら漁が退屈になるだろうか?
むしろ俺たち学生は恵まれている。親のスネをかじって暮らしている立場だからこそ生活の心配もなくダンジョンを楽しむことができるのだ。さすがにそれを忘れて『自己責任!(キリッ)』などと決める面の厚さまでは持ち合わせていない。
「ともかく今回は手探りの攻略となりますね。ここで得た情報は後続のためにもガンガン共有していく所存です」
コメント
・任せとけ! 俺以外がしっかりWikiにまとめるからな!
・貴重な情報を頼むぜ
・そう言えば弧月アルテさんも配信で今日ここを攻略するみたいですよ
・そうなん?
・鳩禁止な
・伝書鳩は止めたほうがいい
「すみませんが伝書鳩行為は控えていただけると助かります」
ここで言う"伝書鳩"とは他の配信者の動向や配信内での発言などをコメント欄で伝える行為のことだ。配信の流れを阻害する、空気を悪くしてしまうなどトラブルの原因となるためマナー違反である。
しかし……俺がバズるきっかけを与えてくれた恩人もここを攻略するのか。"藍晶の洞窟"の時といい、なんとも奇妙な偶然である。
もっとも向こうサイドからすれば知った話でもないだろう。俺のことは"自分のおかげでにわかに注目浴びられた運のいい人物"くらいの認識じゃなかろうか。
……いや、ひょっとしたらめっちゃ怒ってるかも。確認したアーカイブではお褒めの言葉を口にしていたし、謝罪のメールも頂いてはいるのだが……実は内心めっちゃキレてたらどうしよう。
『配信の主役は登録者数五〇万人超の天上人たるこの私だというのに、あのヒトケタ野郎が話題かっさらって行きやがった。もし直接会う機会があれば地べたを這いずるクソ雑魚ハイエナに身の程ってのを理解らせてやるわ』
……みたいな。
いやいや。さすがにそれはタチの悪い妄想だ。そんな訳があるはずない…………ないよね? ですよね?
と……とはいえ探索中にばったり遭遇、なんてことがある訳でなし。意識するだけこっちが馬鹿か。気にせず自分の探索に専念しよう。
「ではさっそく攻略開始します!」
得物の櫂杖を手に俺は開始部屋の石畳を抜け、樹木生い茂る森林地帯へと足を踏み入れた。
お読みいただきありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思われた方は下部からブックマークおよびポイント評価(☆マーク)をお願いいたします。
執筆の励みになります。




