次の攻略ダンジョン
「あ、お兄ちゃんお帰りー。お風呂沸いてるよ」
自宅玄関をくぐるとリビングから七海がひょっこり首を出した。
「ただいま、ありがとう。ほら牛乳」
「ありがと」
「で、あれでよかったのか?」
冷蔵庫へ向かう七海の背に尋ねる。
「妹ってバラしたけど。たぶん今後リスナーからネタにされまくるぞ」
「だいじょーぶだよ。私だってそんなに子供じゃありません。お兄ちゃんに迷惑かけないよう気をつけるから安心してよ」
七海は言った。
「むしろこの機会に管理者権限が欲しいくらいだよ。今後はリスナーももっと増えるだろうし、お手伝いするよ?」
つまりは俺の代わりにコメントの管理やリスナーへの各種連絡などのサポートをする権限を与えてくれ、ということである。
「それは助かるが、いいのか?」
「もちろん。それにほら、なんか格好良くない? 荒らしコメントに鉄槌を下すチャンネル影の支配者みたいな感じで」
「その言い方ですと俺も支配される側に入りませんかね?」
「えへへっ」
わあ、はにかんだように笑ってらァ。小悪魔風を装った悪魔ってこんな感じなの
か。
「……まあ任せるよ。ちょっと早いけど風呂入る」
そう言って脱衣所へと向かった。
夕食をすませて俺は次に攻略する迷宮候補の情報収集を始めた。
各ダンジョンの基本的な情報はダンジョンセンターがまとめたうえで公式サイトで公開しているし、有志による非公式wikiもある。
("凋落の地下遺跡"は比較的スタンダードなダンジョンだったし……次は趣向を変えたいところだな)
各ページを眺めながら思案する。
ちょっとした毛色の変化でリスナーを飽きさせないため、というのもある。だがなにより似たようなダンジョンばかりでは俺自身が楽しめない。
いや、ダンジョンはどこも楽しい。緊張感のある高難易度ダンジョンもすばらしいし、初心者向けダンジョンでザコ相手に無双するのもまた違った味わいがある。
中にはクソダンジョンと呼ばれるような代物もある。『なぜ生まれた』とネット民に吐き捨てられる哀しき忌み子も存在する。
例えば周囲が毒沼まみれでまともな立ち回りが不可能ななか、予兆なしで地面と壁と天井から噴き出される毒を避けつつやたら硬くて面倒くさくて当然のように毒吐いてくるうえ報酬は異様に渋い敵とばかり戦わされるダンジョンとか……お前のことだよ"瘴気の洞窟"。
それらにブチ切れながら意地で攻略してやるのもまた良し。とにかく俺はダンジョンに潜れさえすればそれでいい。
なのでひたすら同じダンジョンにだけ挑み続けるのはまったく構わない。ないのだが『なんかもったいない』と感じるのもまた事実。豪華なビュッフェを前に延々からあげだけ食ってるような感覚がするのだ。ローストビーフも食いたいしポテトも盛りたい、とにかくそんな気分なのである。
あれこれ考えながらサイトを眺めたすえ、最終的にひとつのダンジョンに目星をつけた。
名前は"妖葉樹林"。日付によるとつい先日出現したばかりのダンジョンである。
現状の攻略達成者はゼロ。つまりうまくいけば俺が初攻略者の栄誉に与れる、ということだ。名前から森林系ダンジョンと分かるし、リスナー目線でも視覚的な雰囲気が変わっていいかもしれない。
よし、じゃあここにしよう。
こうして次に攻略するダンジョンが決定した。
~~ 弧月アルテSIDE ~~
(よく分からない)敗北感を抱えながらトボトボと帰宅。
夕食後、気を取り直してスマホを開いて次の配信で攻略するダンジョン候補を見繕う。
そろそろ総戦闘力低下の呪いも抜けるころだ。これまでは戦闘勘を保つ目的で中級者向けのダンジョンを選んでいたが、元の能力に戻れば上級者向けダンジョン攻略に復帰することになる。
つまり中級者向けを攻略する機会が減ることになる(いやまあ、『すりゃいいじゃん。別に禁止されてる訳でもないし』と言われればそれまでだが。なんて言うか、実力に合ったダンジョン選ぶのが基本という観点で)。
せっかくだ。まだ攻略していない中級者向けダンジョンを選ぼう。
そう考えた結果、
(ここ、なんか気になるわ)
私は先日出現したばかりの"妖葉樹林"に目星をつけた。
現在の攻略達成者はゼロ……なのだが、数少ない情報を探ってみるとどうにも奇妙な報告を目にする。
『迷宮守がいない』
『最奥部に帰還門はあるが、ボスも宝箱も見つからなかった』
……という内容である。
どうやらかなり変わり種のダンジョンらしい。これは興味が引かれる。ぜひともその謎に挑んでみたい。
よし、じゃあここにしよう。
こうして次に攻略するダンジョンが決定した。
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