凋落の地下遺跡10
"昔日の叡智"が両腕を翼のようにバッと広げる。その動作を合図に大量の青い書物の紙片が俺の周囲で暴れ狂う。
紙片のひとつひとつから防御障壁を転用した青白い刃が伸び、次々に俺へ襲いかかった。
あるものは槍のように突き刺し、あるものは剣のように振り下ろされる。またあるものは草刈り機よろしく高速回転しながら俺の胴体へと向かってきた。
「っと!」
それら動きを丁寧に見切って回避する。いずれも光弾に比べて狙いの精度は甘い
――が、むしろそれが厄介だった。かえって動きが読みづらい。
しかも青の紙片、時々お互いにぶつかり合って軌道が盛大にズレる。単なる操作ミスの結果だろう、だがそのせいで避けたつもりの刃がこっちに向かってきた。
「〈パリィ〉!」
とっさの防御スキルで弾く。防御スキルも〈パリィ〉で防げるのか? という疑問を覚えるヒマもなかった。結果的に『防げる』という知見は得られたが喜ぶ間もなく次手を〈パリィ〉。
幽霊魔術師にとってもぶっつけ本番で行うイレギュラーな戦法なのだろう。怒りとヤケクソが入り混じった攻撃だから制御もうまくいっていない。
俺のはるか手前で空振る攻撃もある。まるで明後日の方角へ突っ込んでいく紙片もある。攻撃密度だってさっきの光弾のほうが上だ。
考えようによっては逆上して隙を見せているとも言える。
だが実態としてはこちらの計算を崩す妙手として機能してしまっている。
普段のようなギリギリ回避ではもらい事故に遭う可能性がある。必然、無駄な動作だろうが大げさに避けざるを得なかった。
「武器を奪っても油断するな、こりゃあいい勉強になった……なぁっ!!」
袈裟斬りを跳びすさって回避――したその背後に障壁刃のファランクス《やりぶすま》!
突っ込みかけるのを気合いで踏みとどまってその場に停止――したところに側面からの突き!
巧妙な連携をなんとか切り抜ける。だんだん操作が精密になってやがる。あんまり長引かせるとやられる可能性がある。
そうなると悔しいな、だけで話は終わらなくなる。つまり『防御障壁を攻撃にも転用する』新たな戦法を学習したこの個体が"凋落の地下遺跡"の迷宮守として君臨してしまうことになるのだ。
もちろん仮にそうなったら責任を持って俺が再挑戦し倒すつもりだが、それまでは後続の探索者たちの前に立ち塞がることになる。彼らにとってはえらい迷惑となるだろう。
いや、それどころかダンジョン側がこの能力を持った個体を『ええやん!』と採用し、以後この戦法を使いこなす"昔日の叡智"が標準化する――つまり倒しても元に戻らない可能性すら脳裏をよぎる。
もちろんさすがに考えすぎかも知れない。ダンジョンに出現する魔物は『女神ネリス様が元々住んでいた異世界に存在した』生物などを再現したものだ。
ここでいきなりオリジナルブレンドの魔物を生み出すとも思えない。だが絶対にあり得ないと断言できる根拠もない。
たとえ低かろうとそんな可能性を残す訳にはいかない――のでぇっ!!
「そろそろ反撃のお時間だぁぁぁ――――ッ!!」
叫ぶと同時に〈ファイアボール〉を放つ。逃げ回っているあいだに少しずつ刻んでおいた術式が発動、幽霊魔術師に向かって飛んでいく。
すぐさま数枚の紙片が防ごうとする――その直前で火球を操作、それらを掻い潜らせる。
スキル術式にはある程度アレンジを加える余地がある。使用者の技量次第で威力の強弱などの調整が可能なのである。
今回放った〈ファイアボール〉は速度を少々落とす代わりに軌道制御をしやすくしておいた。加えて元々の制御技能にだって自信はある。その程度のガードなど軽々抜けられる!
ならば、とボスは紙片を一ヶ所に集中させ火球の進行を阻止しようとする――
「おまわりさ――んっ! 落としもの拾いましたぁ――――――ッ!!」
だが俺はスキル制御しつつもこっそり移動を済ませていたのである。
さっき床へ叩き落とした赤い書物を拾い上げて"昔日の叡智"へと投げ渡した。
光弾を放つのに使う大事な書物が弧を描く。
露骨に動揺を見せる幽霊魔術師。慌てて手を伸ばし、二度三度と腕部でお手玉したすえになんとかキャッチ。
ふたたび主の手へと戻った赤い書物――いまや敵の意識はすっかりそちらへ向いていた。
完全に放置され、虚空を漂うばかりと化した青の紙片。その隙間を縫って〈ファイアボール〉は飛ぶ!
ボスに命中、爆発!
「ごめんねぇ、僕ちょ~っとばかりヤンチャに育った――……っ!!」
言いかけた口を止める。
俺に向けて数枚の青い紙片から障壁刃が射出されるのが見えた。
この短時間でそんな応用利かせるまでに熟達したか!
「うらぁぁぁ――――っ!!」
反射的に〈パリィ〉発動。我ながらベストタイム更新するんじゃないかって速度で術式を刻めた。飛来する刃を次々に弾き飛ばす。
いよいよ無視できない成長具合である。幸い敵もまだ完全には立ち直っていない、ならばいまここで決める!
決断、攻撃スキルを刻みつつ"昔日の叡智"へ全力ダッシュ。
前方には大量に待ち受ける青の紙片、だがさっき障壁刃を射出した紙片にはまだ刃が再形成されていない。つまり隙間がある。
手薄な箇所を選んで突っ込む。周囲で暴れる青い刃を躱しながら接近。
幽霊魔術師が右手を突き出す。赤い書物から光弾が放たれる。
予想の範疇だ。サイドステップで回避。後方へむなしく飛んでいく光弾。櫂杖の間合いまであと数メートルを切る。
「獲った――とあんたも思ってんだろうがっ!!」
瞬間的に身を屈める。
俺の頭上を、背後から襲撃してきた光弾が通過していく。
奴による奇襲狙いの跳弾――俺の背後へ抜け目なく配置された障壁に弾かれた光弾は、そのまま軌道を変えることなく一直線に"昔日の叡智"へと吸い込まれる。
直撃。
「〈ヒートパイル〉!!」
間髪を入れずスキル発動。
下方から鋭く突き上げるように伸びた炎の杭が魔術師の青白い胴体を貫く。
傷口から漏れ出る赤紫の煙。そのまま全身が崩れるように煙と化し、"昔日の叡智"は消滅していった。
これにて、"凋落の地下遺跡"ボス攻略完了である。
お読みいただきありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思われた方は下部からブックマークおよびポイント評価(☆マーク)をお願いいたします。
執筆の励みになります。




