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凋落の地下遺跡9

 "昔日(せきじつ)叡智(えいち)"が赤い書の紙片から光弾を乱射してくる。


 先ほどと同様に横へ駆ける――が、数発が直撃コースにあるのを見て取った。


「さっそく対応してきましたね。〈パリィ〉!」


 予想、というよりも経験済みだ。防御スキルで弾く。


 正確な偏差(へんさ)射撃である。しかも、


「っとぉ!」


 床に当たった一発がそのまま跳ねて俺に向かってきた。櫂杖(パドルロッド)で弾く。跳弾も交えてきたか。


「ザコもボスも戦っているうちに戦術を変化させます。同じ戦法が通用するとは限りませんので柔軟に対応できるよう日頃から準備しておきましょう!」


 精霊さん(カメラ)を横目に捉えつつ解説。


 優劣の差こそあれ魔物にも知能はある。戦っているうちにその戦術を変化させてくるなど日常茶飯事だ。


 ザコにせよ迷宮守(ボス)にせよ同種なら共通のセオリーはある。だがいずれは学習するしそれぞれの個体ごとに思考・行動のクセなどの差異もある。同じ手法が同じ魔物に毎回同じように有効であるという保証はないのだ。


 あるいは追い詰められて消耗を度外視した猛攻に打って出ることもある。隠し持っていた手札を切ってくることもある。油断せず、敵の行動の変化に対応することが重要なのだ。


 見れば、防御担当である青い書の紙片も配置に変化があった。


 さっきは本体の全周囲にぐるりと展開させていたのに対し、今度は俺のいる方向をより重点的に守らせている。


 いわば全包囲を一枚の壁で防いでいたのを、より危険な方角へ何重もの壁を築いて防ぐ方針に切り替えている。


『堅いが長時間持続しない』バリアを複数重ねることによって持続力を補った訳だ。


 たとえ〈火炎放射(フレイムスロワー)〉で一枚を突破したとしても、その後ろに何枚も重ねられた防御障壁に防がれる。


 力押しでの突破は時間・燃費ともに効率が悪いだろう。そのうえ相手の攻撃も最初より巧妙化している。すべての障壁を破るより先に俺が撃ち抜かれるのが早い。


 ……だがあいにくだったな。予想より対応が早かっただけで、その配置変化もとっくに想定内だ。こちとらお前に何度もブッ殺されてきた経験があるんだよ!


「来いやぁっ!!」


 叫ぶと同時に赤の紙片から無数の光弾。おおよそ半数が正確に俺を、半数が動きの阻害と跳弾を狙った乱射だ。


 複雑に入り乱れて飛ぶ光弾をギリギリで躱し続ける。一発当たればまずアウト。良ければ即死、悪けりゃなぶり殺しである。


 だが〈パリィ〉は使わない。代わりに攻撃スキル――〈ファイアボール〉より上位の火炎魔術の準備。


 飛来する光弾を左右に、前後にと避ける。跳弾狙いの弾は速度が遅い。区別の目印になる反面、タイミングを狂わされるのが厄介だ。


 前後左右で砕ける床、踊り回る跳弾。破片や光弾があちこち身体にかすめる。だが心乱さず着実に術式を刻んでいく――完了!


「〈ブレイズミサイル〉!」


 即座に発動。パドルロッドの先端から複数の火球が放たれる。


 飛来する火球の群れを遮るように配置される青い紙片――その障壁に防がれる直前で〈ブレイズミサイル〉の軌道を次々に曲げていく。


 防御が厚い? なら迂回すりゃいい! こちとら能力(ステータス)だけじゃねえ、スキル制御の技だって鍛えてんだよ!


 本体への侵攻を防ごうと青の紙片が動く。だが対応が遅い、動きも鈍い! ヌルいディフェンスを軽々とすり抜け〈ブレイズミサイル〉たちは飛ぶ!


 そのまま火球を相手の本体にシュート! 爆発炎上(ちょうエキサイティン)ッ!!


 直撃の一発にひるむ"昔日の叡智"。周囲の紙片の動きも鈍る。立て続けに直撃していく火球群。爆ぜる炎に包まれる幽霊魔術師。その間隙を突いて再接近。


「――さあフルボッコのお時間だぁっ!!」


 ただいまの挨拶代わりに全力のフルスイング。術式で強化された木製鈍器が敵幽霊魔術師の右腕を強烈に打ちつける。


 その衝撃で"昔日の叡智"の手から赤の書が取り落とされる。


 即座に思いっきり蹴り飛ばす。床の擦れる音とともに本体から離れる魔術書。


 本を足蹴にする不作法、だがあいにくお行儀のいい戦いなどなけなしの単発ガチャで期間限定SSRを引き当てる奴より希少種だ。


 赤の紙片からの光弾がピタリと止まる。同時に悲鳴とも憎悪ともつかない金切り声が"昔日の叡智"から発せられる。


 大事な書物を粗雑に扱われたことがずいぶんトサカに来たらしい。新たに繋がれる復讐の連鎖――ならばこの忌むべき螺旋、俺がスッキリ気分爽快リベンジ完了したあとで断ち切ってみせるッ!!(※外道の意見です)


「おらおらおらおらおらァッ!!」


 熱き決意を乗せた連打が幽霊魔術師を容赦なく打ちのめす。赤い書物は封じた、このまま押し切る――


 刹那、青の紙片が俺に群がってくるのが見えた。同時に青の書物を掴んだ左手が振りかぶられる。


「……!」


 これまでにない行動だ。直感的に危険を察知、即座に背後へ退避。


 次の瞬間、書と紙片から魔術障壁が伸び刃状に形成される。


 俺に向けて全方向から振るわれ、突き出される青い刃。直前に異変を察知できたおかげで辛うじて回避に成功。


「……そのパターンは初めてだなっ!!」


 どうやらあいつ、防御を捨てて攻撃に全振りするつもりらしい。


 上等だ。


 だったら打ち破ってやろうじゃないか――ッ!!

お読みいただきありがとうございます。

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