39 そして迎えた準決勝
そんな双子ちゃんのユニット名は《ダブル・トラブル》。
うん。私が教えた属性を、名前から全力で押し出してきた。
育成方針を間違えたかもしれない。
準決勝は自由演目。
自由。
実に恐ろしい言葉である。
何を選んでもいいということは、何を選んだかについて一切言い訳ができないということだ。
選曲。衣装。振付。魔法演出。
すべてがユニットの自己紹介になる。
†
――準決勝進出が決まった、その日の夜。
「お姉さま。私たちは、どの曲にするのですか?」
「フフッ、ちゃんともう決めてありますわ」
私が悪役令嬢口調で差し出した楽譜を見て、リュミエが目を丸くした。
「《好きって言うまで帰さない!》?」
可愛らしい曲名。
軽快な旋律。
恋する女の子が、振り向いてくれない相手を追いかける王道ラブソングである。
ただし歌詞をよく読むと、相手の退路が段階的に封鎖されていく。
「これ、ほぼリゼリアの歌じゃん」
「失礼ですね」
リゼリアが頬を膨らませる。
「私は、好きと言われた程度で帰したりしません」
「上位互換だった」
この曲を選んだ理由は単純。
三人それぞれにソロパートがあり、観客との掛け合いが多い。振付の難易度も、それほど高くない。
準決勝で必要なのは、芸術性の限界へ挑むことではない。
初めて私たちを見る観客に、三人の顔と名前と関係性を覚えて帰ってもらうことだ。
最高傑作は決勝に取っておく。
準決勝は、続刊予告のようなものだ。
続きを目にしたい。そう観客に思わせるのが獲得目標だ。
そうして私たちは、何度も歌い、振付を直し、観客との掛け合いを磨いた。
†
そして迎えた、準決勝当日。
だが、その前に舞台へ立った《ダブル・トラブル》が、想像以上に強かった。
「おにーさん、おねーさんたちー! ちゃんとウチらに奉光してくれるよねー?」
「他の子に入れたらぁ――」
二人が揃って、悪戯っぽく笑う。
「「ざぁこ♡ だぞっ!」」
大礼拝堂が、揺れた。
歓声で。
私は頭を抱えた。
誰だ。
あの子たちにメスガキ属性を吹き込んだのは。
私だ。
双子というだけで強い。ギャルというだけでも強い。それが同じ顔、同じ声で左右から観客を煽ってくる。
需要しかない。
しかも、以前は互いの動きを気にして小さくまとまっていたのに、いまは完全に開き直っている。
二人で一つではない。
二人とも、自分が一番可愛いと思っている。
その自信が、双子ならではの完璧な同期と両立していた。
バトル漫画でいうと完全覚醒した直後のボーナスタイムだ。
「これちょっと強すぎて緊張感なくすリスクあるんで、何かしらの制約つけません?」
とか担当に言われて後付で制約が作られるやつ。
残念ながらその制約は今の双子ちゃんたちにはない。
決勝に残るのは難しい、そうミーナ教官に話した自分の見立てが無責任な他人事のように思えてくる。
「……ミリ様。あれに勝てんの?」
「勝つよ」
「即答だねぇ」
「プロデュースした人間が、一番弱点を知ってるからね」
《ダブル・トラブル》の強みは、二人の世界が完成していること。
ならば私たちは、その世界へ観客ごと踏み込む。
舞台に上がった瞬間、私は客席へ向かって微笑んだ。
「皆様。少しだけ、私たちの恋にお付き合いくださいませ」
悲鳴に近い歓声が返ってきた。
よし。
まず、私が掴む。
リュミエが距離を縮める。
そして最後に、リゼリアが逃げ道を塞ぐ。
リュミエは客席の一人一人へ話しかけるように歌った。手を振れば振り返し、声を求めれば、倍の声が返ってくる。
私は、全体を支配する。
光を広げ、視線を集め、それを二人へ受け渡す。
二番の終わり。
リゼリアのソロパート。
彼女は胸元で両手を組み、天使のように微笑んだ。
「――どこへ逃げても、見つけます♪」
客席から、今日最大の歓声が上がった。
歌詞通り。
振付通り。
なのに、リゼリアが歌うと冗談に聞こえない。
本物は強い。
最後は三人で客席を指差し、声を重ねる。
「好きって言うまで――帰さない!」
無数の奉光が、一斉に私たちへ注がれた。
準決勝第二試合。
《Seraphic†Night》、勝利。
そこそこの僅差だった。
たぶん運営の操作票もありそうだけど、危ないところだった。
舞台を降りた私たちを、双子ちゃんが待っていた。
「ミリ様、ズルくない?」
「リゼリアのあれ、演技じゃないじゃん!」
「使えるものは何でも使うのがプロってもんだからね」
「次は絶対勝つから!」
「ざぁこって言って泣かすから!」
悔しそうではあるけれど、二人とも笑っていた。
その顔を見て、少し安心する。
「うん。次を楽しみにしてるよ」
双子ちゃんの頭を一度ずつ撫でてから、第一試合の結果を確認する。
見るまでもなかった。
《Rosary†Chain》、勝利。
しかも、大差。
自由演目として彼女たちが選んだのは、転生者によって持ち込まれた幻想戦記アニメの主題歌《星葬のレクイエム》。
エリュシアの歌唱。
ルフェリアの剣舞。
セレフィーの奉舞。
三つの神前芸能は、現代曲の背骨を奪うことなく、その上へ新しい形の祈りを築き上げた。
それはもう、商品ではなく、作品だった。
そして、決勝進出ユニットの名が、祭壇上の水晶盤へ並んだ。
《Seraphic†Night》。
《Rosary†Chain》。
客席が、その二つの名を叫ぶ。
舞台の反対側で、ルフェリアが眼鏡を押し上げた。エリュシアは静かに私たちを見つめ、セレフィーは深緑の髪を結び直している。
私は三人へ、笑みを返した。
王道すぎる。
捻りもない。
結成直後から意識していた二組が、それぞれ反対側の山を勝ち上がり、決勝でぶつかる。
あまりにもベタ。
だからいい。
――ベタな対戦カードほど、売れる。




