30 後光が差せば、依怙贔屓も神の思し召し
私が選んだ選択肢は、④。
――ベタでゴメン。一捻りする余裕なかったわ。
フッと、ほんの一瞬だけ身体の力を抜いて、聖女人格を召喚する。
本物の聖女。
しがらみに雁字搦めになって、最後はコールゴッドで自らの魂を人々のために消失させた銀翼の聖女。
余談だけど……貴方はさ「これで良いのです」って納得ずくの顔して逝ったけどさ、私はまだ許してないからね?
世界にとっては大団円のトゥルーエンドかもだけど、あんなの貴方にとってはバットエンドじゃなかったの?
そんな正真正銘世界を救ったマジモンの聖女が目を開く。
スッと背筋を伸ばしたその姿は、一瞬前の私――完全以上に完璧なトップアイドルのミリエルとは明らかに違った。
純度100%、神性属性マシマシの別人格。
「フフ、覗き見とは感心しませんね。……シスターミーナ」
もちろんミーナは教官であって、修道女ではない。
わかってる。これは演出。“それっぽい違和感”を演出する、カムフラージュ。こういうの大事。
「故あって、私が何者なのかは開示できません。
……この世界の理では、神秘の開示はその消失に直結してしまうようですから」
ハッタリである。大嘘。でも、そう言っておけば追及は回避できる。
“存在に触れてはいけない”というフレーズが持つ力は、いつの時代も強い。
念のため、「ほんまかいな?」という疑念を根絶しておくべく、聖女の波動だけ全開でチラ見せしておく。
聖女職の名刺代わり。初回特典。めっちゃキラキラして後光が差してるやつ。
うん、「信じさせる」ってのは、演出と物証の掛け算でできてるからね。
……って、なんかミーナ教官、涙こらえてるけど?
情緒、だいじょうぶ??
ミリエルに戻ったら相談のろうか?
「ですが……何か、事情があるようですね、シスターミーナ?」
カンスト済のスキル《聖女の慈愛》。
単なるスマイルだけど、それでいい。
コストゼロのくせに効果は抜群。
某バーガー屋で廃止された無料スマイルと違って、こっちはちゃんと神聖効果付き。
最高コスパ。
ミーナの目が赤い。いや、赤くなりかけている。
声を出せば、崩れてしまうとでも言うように、ただ、こくんと頷いた。
†
さて。
この手の神秘体験初心者あるあるで、要領を得ないヒアリングが続いたけど――
最終的にミーナ教官から引き出した情報は、こういう内容だった。
・この神殿の現・大聖女は、ミーナが現役だった頃のセンター
・絶対的エースすぎて誰にも代わられないまま、いまだに大聖女職を降りられず、メンタルが限界寸前
・ミーナはずっと、彼女を引退させるために後進育成に全力を注いできたが、大聖女の交代には至らなかった
・そろそろマジで実家からの“結婚しろ”圧も限界
・だからミリエルに、せめて今年度中にノーマル聖女になってもらって、いずれは大聖女になってほしい
・たとえ自分が実家圧力に屈して裏方辞めることになっても、「この子なら託せる」と思えれば安心できる
――と。
なんかこう、“特殊な事情”がある場合のあるあるで、ミーナは全体的に歯切れが悪かったけど、わかる。わかるよ。
私、元・本職だから。
そういう“関係”だったワケでしょ。
ていうか、リゼリアが他の子から借りてきた「当時のセンター×ミーナ百合同人誌」も、すごく尊かったし。
みなまで言うな。わかるから。
君がどんな立ち位置で、どんな気持ちでドアの間からあんな顔芸してたかも察するよ。
……そりゃ、必死にもなるわけだ。
いきなり大聖女っていうハードル、まあまあバグってるけど、どうせいつかは飛び越える壁だ。
教官の後押しがあるなら、むしろ近道かもしれない。
それに――
私には、前前前世で“お返しチョコを渡せなかったかもしれない”義理がある。チョコだけに。
このしがらみは、悪くない。
「事情は、理解しました。善処しましょう。
仕える神は違えど、手を差し伸べるべき子羊には違いはありません」
「ただ、ミリエル本人は、私の存在を確定的には認識していません」
一応、万が一に備えて、後からすっとぼける余地も残しておく。
神秘ってのは、逃げ道も含めて神秘。便利。
「シスターミーナ。この子を……ミリエルを導いてあげてください。
危なっかしいところはありますが、大聖女になれるだけの資質はあるはずです」
なぜこの世界の聖女でないのに、この世界の大聖女の資質を語れるのか。
そんなツッコミは野暮だ。だって後光が差してるのだから。
†
こうして私は、巫女研修生でありながら、ミーナ教官イチオシの秘蔵っ子になった。
どう見てもあからさまな依怙贔屓だが、
“貴族学院出身のふしだらボディのハイエルフ”
という圧倒的なビジュアルと肩書きにより、渋々の納得は得られるはずだ。
……ちょいちょい、実力で黙らせる必要はあるだろうけどね。
まあそれくらいは容易い。




