22 ちょいギャルエルフ、襲来
個室の鍵を引き、静かに扉を押し開ける。
タイル張りの床に微かな音が反響する
スカートの裾を整え、ハンカチを唇の先で咥えたまま手を洗う。
銀の洗面台に滴が落ちる音だけが、短い静寂の中で妙に響く。
鏡を覗き込むと、背後に三人、立っていた。
目が合った。
「ねぇ?」
制服は私と同じ。けれど、リボンの締め方がどこか雑で、笑顔の温度が低い。
「リゼリアさぁ、もうグループ決めた?」
一人が、わざとらしく肩を寄せてくる。
口調は軽い。目が笑っていない。
問うふりをして、答えを強いてくる、あの独特の“圧”。
……なるほど。囲んでるつもり、なのね。
「ごめんなさい。私はもう、ミリエルと二人でやるって決めてるから」
はっきりと言った。
曖昧にしても、距離は保てない。ここでは、輪郭を曖昧にした方が餌にされる。
何も言わず、蛇口を閉めた。
ハンカチで指先を拭きながら、鏡越しに一瞬だけ視線を返す。
感情は見せない。
返ってきたのは、やはり“なにもない笑み”だった。
「へー。あの”お姉さま”と二人で?」
無視してトイレの扉を開けて廊下にでる。
石床に足音が響く。
「えー、ちょっと塩すぎないー?」
リーダー格の声が、背中に絡みつく。
「まあ、無理にとは言わないけどさあ」
「ねー?」
「でもさー、ちょっと心配じゃない?」
「ねー!」
左右対称に髪留めをつけた双子が、揃って首を傾げる。
「ほら、ああいうキレイなお嬢様ってさ」
「ちょっと神殿の外を歩いてただけで──」
「変な男に絡まれたり?」
「しないかなー?」
脈絡もない仮定。
「うっかり攫われちゃったり……ね?」
その瞬間だった。
キィ……ン、という音が、世界の輪郭を削った。
昼休みのざわめきが遠ざかり、空気が凪ぐ。
目の奥が、発火した。
私は静かに振り向いた。
そして口を開く前に、すっと笑った。
「なー……」
その瞬間。
リーダー格の喉が、ひくりと鳴った。
ふざけた調子で言葉を続けようとした口が、わずかに開いたまま止まる。
野生動物が、何かの気配を察したように。
「あの人に手を出すなら、
ちゃんとお祈りをしてからにしてね」
「……お祈り?」
「うん。
“生きて帰れますように”って」




