16 二人目の眼鏡エルフと推しの前で壊れてただけの幼馴染
「ルフェリア・アルディス。レイピアの演舞をやってました」
さらりとした口調。飾り気はない。
神殿巫女用の制服も、彼女が着るとどこか“道具”に見える。
見せるための身体じゃない。
使うために鍛えられ、削ぎ落とされた身体。
……ああ、これは。
客席に向かって微笑むタイプじゃない。
拍手が鳴る場所で、黙って結果を残してきた人の立ち方。
ただ立っているだけで空気が変わる。重心の据え方、指先の角度、視線の抜き方──その一挙手一投足が、舞台のように洗練されていた。
「去年の演武祭で大陸2位の本物ですよ……」
リゼリアがそっと耳元で囁いて教えてくれる。
納得の経歴。
……と思った瞬間、爆弾が投下された。
「あー、さっきのエリュシアとは腐れ縁で小さい頃から一緒にいるんですけど」
「あの子、昔から超絶ファンだったミーナ教官を前にしてテンパって変なキャラ付けしちゃっただけなんで、勘違いしないであげてくださーい」
教室、どっと沸く。
私は思わず吹き出しそうになる。
──え? あの“神の声”の自己紹介、キャラ作ってたの!?
「ちょっ!ちょっとやめてよー! ひどいよールフェリアー!」
真っ赤な顔で抗議するエリュシア。さっきまでの凛とした佇まいはどこへやら、完全に“秘密を暴露された小学生”である。
うわー想像とちがうー。
聖歌をBGMに異教徒を斬り捨ててそうな信仰心MAXの暗殺者系アイドルかと思ったら、ただの推し活ガチ勢だったの!?
しかも、テンパると盛りすぎちゃうタイプの!!
「いやいや、あとでフォローするこっちの身にもなってもらっていい? あの自己紹介はやりすぎだっての」
ルフェリアは眼鏡をクイッと上げながら、ため息。
でも、口元には微かな笑み──幼馴染スマイルともいうべき、慣れた笑みが滲んでいた。
「てなわけでよろしくおねがいしまーす」
そう締めて、さっさとエリュシアの隣に腰を下ろす。
レイピア演舞の大陸2位とは思えない、気さくで飄々とした雰囲気。
自然と教室に拍手が湧き起こった。
私も拍手しながら、なんだか急に親近感が湧いてくる。
──そして。
「私のファンだなんて嬉しいね。」
にこやかに、しかし逃げ道を完全に塞ぐような笑顔で、ミーナ教官が言った。
その瞳の奥に、ちらりと悪戯っぽい光が宿る。
「んじゃエリュシア、もっかい自己紹介してみようか?」
この眼鏡エルフ、ドSか?
これから始まる公開処刑を楽しみにしてるような笑顔浮かべてるぞ?
なら私の言う事聞けるよね?って、そういう。
「え、あ、あの……」
憧れのミーナ教官のご指名に逆らえるわけもなく、エリュシアが立ち上がる。さっきの堂々たる姿は跡形もなく、耳の先まで真っ赤。
「エ、エ、エ、エリュシア・アルヴァレアです……その……歌と、踊りが好きで……」
焦点の合わない目線は床。声は小動物。
──見てるこっちが恥ずかしくなるレベルだ。
「ミーナ教官の、その、ファンで……オルセレの頃から、応援してて……」
──ああああ可愛い。
さっきの「神の声を聴きました」の人と同一人物!?
このギャップ、反則でしょ。
「で、でも! 歌は本当に頑張ります! よ、よろしくお願いします!」
最後だけ背筋を伸ばして声を張って、ぺこりと頭を下げる。
温かな拍手が教室に広がった。
エリュシアは顔を真っ赤にしたまま、ルフェリアの肩をぽかぽか叩いている。
……なにこれ。尊さの糖分過剰摂取しそう。




