11 一緒に旅に出る小動物的なアレ
わかってる。可愛い。
ちょっと恥じらってるのが、特にずるい。
その小さな声に、どれだけの勇気が詰まってるかも、全部わかってる。
「……まあ、とりあえず隣に座れば?」
無碍にするわけにもいかないので、お姉さま仕草でエスコートする。優雅に。笑顔で。
でもな、今じゃないんだよなぁ〜〜。
新人の頃に担当した作家のことを思い出す。 愛妻家でね。ポーズじゃなくて、本気で嫁ラブだった。
でも一度だけ、取材名目で評判のメイド喫茶に連れて行ったことがある。 観光客向けじゃない、同僚オススメの“通好み”のとこ。 もちろん会社の経費で。
その作家が、「旅に出る相棒の小動物的なアレ」を 三つの属性から選んで「君に決めた!」って宣言しがちな少年のような目でメイドさんのチェキを注文しようとした―― その瞬間、スマホがピロン。嫁からメッセージ。
テンションがしゅるしゅる……って下がる音が聞こえた。
たぶん、今の私も同じ顔してる。
ちなみにその時の領収書、編集長のハンコまで貰ったのに、なぜか経理に通らなかったんだよね。
小一時間バトった挙げ句、数日後に社内の経費マニュアルに「メイド喫茶関連経費の取り扱いに関する注記」が追加された。
――それからしばらくの間、社内での私の二つ名が「あのメイドの」になった。
くそっ、思い出すだけで腹立つ。あの経理。
「はーい、みんな席についてー」
ぱん、と手を叩いて入ってきたのは、 社会人歴5年くらいのオーラをまとったお姉さんエルフ。
眼鏡クイッ、姿勢ピシッ。 これぞ“できる教官”って雰囲気だった。
「そこー、リゼリア、ミリエル。巫女同士の恋愛は一応ご法度だからなー。いちゃつくなら、私の見えないところでやってくれよー」
リゼリア。そうだ、名前リゼリアだった。 「リ」から始まって、100均ショップみたいな響きって覚えておこう。
てか初対面なのにもう顔と名前が一致してるの、すごすぎない?
当然のように私の隣に座ってきたリゼリアが、こそっと囁いてくる。
「『オルセレ』のミーナが教官なんて、私たち、めっちゃラッキーですよね」
“オルセレ”こと《Ordo Selenis》は、今はなき伝説の正統派神殿アイドルグループ。 ミーナ――そう、かつての総選挙17位。
現役時代はいわゆる「メガネ外すと美人枠」で、 “惜しまれた上位よりの中堅”としていまだに語り継がれてる。らしい。
そんなミーナは、まさしく。
私好みの、眼鏡エルフだった。




