9/14
器と記憶 ②
土色の器。少し歪な輪郭。
まるで、大地を掬い取って焼いたような土器風の鉢に、
銀杏の黄金色が沈むように並べられていた。
「これは、“記憶の食材”です」と鷹野が語る。
「銀杏、里芋、干し椎茸。
すべて、保存され、記憶され、
いったん“眠った”ものばかり。
でも、時間が経つほど味が深くなる。
記憶と似ていますよね」
神谷は箸をとった。
ほろりとほどける里芋に、椎茸出汁の陰影。
銀杏は、噛むたびにわずかに苦みが滲む。
懐かしさが、言葉になる前に喉をつまらせた。
「この器は、“土還”という名がついています」
美咲が、そっと補足する。
「信楽の職人が、裏山の崖土を使って焼いたもの。
ほとんど釉薬は使わず、
土の“記憶”をそのまま残す焼き方なんです」
神谷は器を裏返す。
ザラついた質感。釉薬のひび。
微かに土の香りすら残っている気がした。
「焼きムラも、変形も、この器では“意図”なんです。
過去に刻まれた傷や揺らぎを否定しない。
だからこそ、料理が“物語”になる」
美咲の声は、まるで土の中から語りかけるようだった。




