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器と記憶 ③
神谷は、器に触れながら、祖父の台所を思い出していた。
ふかした里芋の湯気。
木のまな板にこぼれた銀杏の皮。
湯呑の底に沈んだ茶葉のかけら。
そして、何も語らなかった祖父の手。
「…そうか、
“目で飲む”という言葉は、
“記憶を食う”ということだったのかもしれない」
合理性とスピードばかりを追っていた自分には、
欠けていたものがある。
それは、時間とともに深まる“情”だったのではないか。
食後、席に戻った神谷の元に、鷹野が小さな陶片を差し出した。
「これは、割れた“土還”の器の一部です。
どうぞ、持ち帰ってください。
器も、壊れた後にこそ、
本当の記憶を残すことがあります」
神谷は、破片をそっと受け取る。
小さな破片に、なぜか胸が熱くなった。
その夜、神谷は決めた。
もう一度、自分の食の原点を探しに行こう。
祖父の家、記憶の場所。
理屈ではなく、“香り”と“器”が教えてくれる何かを。
神谷のデスクの片隅には、
USBやガジェットに紛れ、小さな土の陶片が置かれている。
パソコンの光が、それをうっすらと照らしていた。




