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器に宿る余白 ④
夜風に当たりながら、神谷は「饗」の石畳をあとにする。
さきほど口にした苦味が、いまだに口の奥にやさしく残っていた。
「こんなに非効率で、こんなに満ち足りた食事があるなんて…」
合理性の中では「無駄」とされるものの中に、
確かに何か“核心”のようなものがある。
その正体はまだ言葉にならない。
だが神谷は、はっきりと、自分の世界が音もなく広がり始めていることを感じていた。
月が浮かぶ夜空と、それを映したような瑠璃の器。
そこに残る、木の芽一葉。
神谷は、その緑を指先で見つめながら、ふと、ある言葉を思い出していた。
「未完の美こそ、心に残る」
その夜、彼は初めて夢を見た。
静かな茶室。器の中に舞う、風のような何か——




