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器に宿る余白 ③
美咲が、瑠璃の椀に指を添える。
「この椀は、“空”を写すように作られています。
京都・修学院の陶工、野見山碧堂の作」
神谷は器をそっと手に取る。底にかけて濃くなる藍の色が、確かに空の深度を感じさせる。
「この瑠璃色には“間”があるんです。
完璧な発色を避け、ほんのわずかに
鉄分の濁りを残している。
それが、味を引き立てる“余白”になる」
「器に、余白…?」
「ええ。“完成されたもの”には、誰も触れられません。
でも、ほんの少しの隙があると、人はそこに自分の感情や記憶を重ねる。
器が語りかけてくるのは、むしろ沈黙の部分なんです」
神谷は、一瞬、息を呑んだ。
合理性の中にいなかった「余白」という概念が、自分のどこか深いところで響いていた。




