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一刀の香 ②
まもなく若き料理人・鷹野陸が姿を見せ、一皿を運ぶ。藁で炙った厚切りの初鰹。その上に、極細の大葉と土佐酢のジュレが淡く光る。ほのかに立ち上る香ばしさと柑橘の香りが、神谷の鼻をくすぐった。
「香りの刃を通しただけです」
鷹野の静かな言葉に、神谷は目を見張る。
一口、口に運ぶ。
驚きが先に来た。外は香ばしく、中はまるで海の記憶そのもの。刺すような鋭さがなく、柔らかく、心にしみこむような旨味。
「これは……火入れというより、香りを刻んだような……」
神谷が思わず漏らすと、美咲が傍らで解説を始める。
「鰹の筋繊維は、温度の暴力にとても弱いんです。藁焼きは約900度。短時間で香りを封じ、旨味は逃さない。和食は“香りの火入れ”と、“音のない主張”が勝負所です」
「この静けさが、味なのか…」神谷は静かに頷いた。
「音のない主張」――それは、彼の価値観とは正反対のものだった。




