フドゥマ使い
カンッ。キンッ。
アリフは毎日のように、レイフに稽古をつけてもらっていた。
「よし。休憩にしよう」
「……はい」
乱れる息を整え、深呼吸して水を飲んだ。
祭祀宮の裏庭。
庭と呼べるほど手入れはされていないが、稽古にはちょうどよかった。
「……ダール様は、また王に謁見を? 」
「ああ。官吏たちとも話し合いをしている」
(大変そうだな……)
ふと、空を影が横切った。
「あ……鳥。ブーマかな」
「……いや。フドゥマだが、ブーマじゃないな」
鳥は弧を描き、外れにある塔のてっぺんへ向かっていった。
「……ラスールだ」
「ラスール? 」
「フドゥマ使いだよ。アナ・ラーハ様の弟だ」
「それ、何? 」
「フドゥマを伝書鳥として訓練する人のことだよ。行ってみよう」
フドゥマは、王城のあちこちで使われている。
だが、訓練している者は限られている。
レイフは、アリフを塔へ連れて行った。
裏庭から入れる入り口があり、螺旋階段を上っていった。
「ラスール、いるかい? 突然すまない。レイフだ」
コツコツとノックしながらレイフは言った。
……ゴツッ、ガサゴソ。
部屋の中で物音がした。
「え、レイフ……? ほんとに……? 」
呟き声が聞こえて、ガチャッとドアが開いた。
クセの強いボサボサ髪をひとつにまとめた、ひょろっと背の高い男だった。
丸い目をさらに見開いている。
「ああ……レイフだ。あ、そうか。帰ってくるって言ってたっけ」
「久しぶりだな。挨拶が遅れて悪かった」
「そんな、いいよ。そんなことは。……えっと、こちらは? 」
「アリフだよ。アナ・ラーハ様から聞いてないか」
「え、ああ。そうだった。そうか、この子が……」
「アリフです」
「ラスールだよ。よろしく」
にこっと笑いながらラスールは手を差し出した。
アリフはその手を握った。
温かい手だった。
「ラスール、もし良ければ、入っていいかい?
アリフに、フドゥマのことを教えたいんだ」
「ああ、そうだね。気がつかなくて悪かった。どうぞ入って」
がらんとした部屋だった。
窓がいくつかあり、その向こうに外の木々の葉が揺れていた。
壁際には仕切られた小部屋がいくつもあり、それぞれにフドゥマが一羽ずついた。
(やっぱり、可愛い……)
アリフはフドゥマを見て、くすぐったい気持ちになった。
見上げると、天井が高い。
上に、横木が何本も渡してある。
「ここはフドゥマの訓練室だよ。汚くてごめんね」
床にはフドゥマのフンやエサが散らばっている。
「レイフ。プトは元気? 」
「ああ。問題ない」
「プトって? 」
「レイフのフドゥマだよ」
「え、レイフもフドゥマ飼ってるの? 」
「ああ。旅のときも、一緒にいたぞ」
「ええ? 気づかなかった」
「人見知りするやつだから、いつも隠れてるんだ」
「へえ」
「フドゥマはとても賢いんだ。伝書鳥として飼ってる人は多いよ。
たまーに、懐かない人もいるけどね」
「ふうん」
アリフの目は、フドゥマに注がれる。
「この子たちは、まだ訓練中だから、飼い主はいないんだ」
ラスールが言った。
「へえ……」
「そばに寄ってみてもいいよ。
柵から指をいれたりしないで。つっつく子もいるから」
アリフはブーマを思い出した。
「もうつっつかれた」
「え」
ラスールはきょとんとしたが、レイフは笑った。
(毛がふわふわだ)
同じフドゥマでも、よく見るとみんな違う。
顔立ちや体つき。
この子も、この子も、違う。
アリフがフドゥマを見ているあいだに、レイフとラスールは何やら話をしていた。
「アリフ。ラスールと相談したんだけど、アリフもフドゥマの世話をしてみないか? 」
「え、俺が? ……できるかな」
すると、ラスールが言った。
「できるかどうか、じゃないよ。やるか、やらないかじゃないか?」
——あ。
「……わかった。やる」




