巡礼の途中
(アリフはどうしてるかな)
サッドは今、聖都への巡礼のちょうど中間地点の街にいた。
聖都までの巡礼は、いくつもの街を経由する。
そのたびに聖堂へ参拝し、巡礼者用の宿へ泊まる。
宿へ荷物を置き、巡礼がすんだら、あとは自由行動だ。
(この街も、商売で来たことがあったな)
カフェでティーを飲み、夕食をすませた。
市場へ行き、携帯食や必要なものを見繕いながら、ぶらぶらしていた。
「おい……サッド? 」
——すっ、とみぞおちが冷えた。
(俺は今、ラヒドだ)
フードを目深にかぶり、聞こえない振りをして、その場を去ろうとした。
「おい、サッドだろ」
背後から肩に手をかけられ、体がビクッと震えた。
「ああ、やっぱり。久しぶりだな」
商売で馴染の店の店主だった。
「いや、俺は……」
「最近どうだ? ここへ来る頻度は少し落とすって話だったな。
だが、あんたんとこのスパイスは……」
サッドは思わず、すっと唇に手を当てた。
店主は「ん? 」という顔をして、話をやめた。
「すまない。俺はラヒドだ。人違いだろう」
「……え? あ、そうか? すまなかった。知り合いによく似てたもんで……」
「いや……」
なおもまじまじと顔を覗こうとする店主に背を向け、立ち去った。
——誰にも見られなかったか。聞かれなかったか。
歩きながらサッドの心臓はバクバクと波打った。
急いで宿へと駆け込んだ。
宿の入口には、ジャスミンの花をかたどった小さな看板がかかっている。
(大丈夫。大丈夫だ)
サッドは自分に言い聞かせた。
ちらりと背後を振り返る。
誰もいない。……はずだ。
「よお、ラヒド」
宿のホールにあるテーブルに、シドが座って酒を飲んでいた。
サッドはビクッと足をとめた。
「慌ててるみたいだけど、どうした? 」
サッドの心臓は、まだバクバクと鳴っていた。
なんとか平静な声を装って、言った。
「……いや、何でもない」




