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砂漠の聖都  作者: 神代奈々
第3章 旅立ち
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巡礼の途中



(アリフはどうしてるかな)


 サッドは今、聖都への巡礼のちょうど中間地点の街にいた。



 聖都までの巡礼は、いくつもの街を経由する。

 そのたびに聖堂へ参拝し、巡礼者用の宿へ泊まる。

 

 宿へ荷物を置き、巡礼がすんだら、あとは自由行動だ。



(この街も、商売で来たことがあったな)



 カフェでティーを飲み、夕食をすませた。


 市場へ行き、携帯食や必要なものを見繕いながら、ぶらぶらしていた。




「おい……サッド? 」

 

 ——すっ、とみぞおちが冷えた。


(俺は今、ラヒドだ)



 フードを目深にかぶり、聞こえない振りをして、その場を去ろうとした。



「おい、サッドだろ」


 背後から肩に手をかけられ、体がビクッと震えた。



「ああ、やっぱり。久しぶりだな」


 商売で馴染の店の店主だった。



「いや、俺は……」


「最近どうだ? ここへ来る頻度は少し落とすって話だったな。

 だが、あんたんとこのスパイスは……」



 サッドは思わず、すっと唇に手を当てた。


 店主は「ん? 」という顔をして、話をやめた。



「すまない。俺はラヒドだ。人違いだろう」


「……え? あ、そうか? すまなかった。知り合いによく似てたもんで……」


「いや……」



 なおもまじまじと顔を覗こうとする店主に背を向け、立ち去った。




 ——誰にも見られなかったか。聞かれなかったか。



 歩きながらサッドの心臓はバクバクと波打った。



 急いで宿へと駆け込んだ。

 宿の入口には、ジャスミンの花をかたどった小さな看板がかかっている。

 



(大丈夫。大丈夫だ)


 サッドは自分に言い聞かせた。



 ちらりと背後を振り返る。

 誰もいない。……はずだ。




「よお、ラヒド」


 宿のホールにあるテーブルに、シドが座って酒を飲んでいた。

 サッドはビクッと足をとめた。



「慌ててるみたいだけど、どうした? 」



 サッドの心臓は、まだバクバクと鳴っていた。


 なんとか平静な声を装って、言った。




「……いや、何でもない」



 


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