夜の旅立ち
……なんで、夜なんだ?
「……実は、私をつけ狙う者がいるんだ」
——!
……いきなり、きな臭くなった。
旅立ちのことは口止めされた。アリフも誰にも言う気はなかった。
消灯してから、アリフはこっそりダールの部屋へ向かった。
荷物は前もって置いてある。
といっても、大したものはないけれど。
ダールの部屋には、いつも通り灯りがついていた。
「アリフ、よく来た。では、行こうか」
奥の部屋の窓へと向かった。
アリフはこくりと頷いた。
裏の林に、パギリングと従者が待っている。
(ダール様はパギリングが使えるのか……)
「灯りはつけておく。私はいつも、もう少し遅くまで起きているから…」
ダールが窓へ手をかけようとした。
——途端。
窓から黒装束の者が飛び込んできた。
ダールはすんでのところで、身をかわした。
敵は床を転がり、態勢を整え、再びダールへ襲いかかった。
「うわあああッ!! 」
アリフは反射的に敵へ体当たりした。
その隙に、ダールの短剣が敵をかすめた。
そのとき、窓から何かが飛び込んできた。
「グッ…! 」
敵はうめき声を出しのけぞった。
——小さな鳥。
飛び回り、威嚇している。
「何者だ。名乗れば相応に扱う」
「……」
敵は、応えない。
身を翻し、反対側の入口から飛び降りた。
鳥が追った。
「今のうちだ」
ダールとともに窓から裏の林へ出た。
「走れ」
木の葉をかき分け、走った。
「ダール様!」
男の声がした。
少し拓けた木々のあいだに、パギリング2頭と、従者がひとり待っていた。
「行くぞ」
ダールと従者は素早く支度をした。
アリフは命綱をつけられ、ひょいと抱えて乗せられた。
ダールが先に、パギリングを操り、ふわりと空へ駆けあがった。
従者は、アリフのうしろに跨ると、ダールのあとを追った。
(……う……わっ)
なんともいえない浮遊感。
木々をすり抜け、森がみるみる眼下へ遠ざかった。
「……はっ」
アリフはようやく、自分が息をしていることに気づいた。
胸は強く波打っている。
「アリフ。大丈夫か」
ダールが聞いてきた。
「あ……」
うまく答えられない。
「よい。そのままで。レイフ、頼んだぞ」
アリフのうしろで、従者はこくりと頷いた。
ピィィィーーーッ。
ダールが口笛を吹いた。
どこからともなく、飛んできた。
さっきの鳥だ。
この夜、ワーフを離れた。




