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第5話 桜


 極寒の中腹を乗り越え、王に遣わされた我らは山の頂上に辿り着いた。


「……これは」


 そして同時に、言葉を失った。

 

 目の前に広がる光景に、ただ圧倒されてしまった。

 積もった雪と、吹雪に何度も足を止められたが、ここまで来た事に後悔などなかった。


「……これは、夢なのか?」


 雪に覆われた山の頂点には、緑の草原に幾本もの木々が並んでいる。


 下で見た白銀の世界には不釣り合いなほど、その木々は美しかった。


 淡い色の花を咲かせた木々が、山頂を取り囲むように広がっている。


「こんな植物、見たことがない……」


 誰もその花の名前を知らない。


 ただ、美しい。


 それだけは、この場にいる全員が理解していた。


「見ろ!」


 隊員の一人が声を上げた。

 木々の奥には、雪に縁取られた小さな池がある。


 そのさらに先。


「……建物?」


 古びた木造の寺院のようなものが、静かに佇んでいた。


 周囲の木々の葉だろうか、桃色に飾り付けられたそれは不思議なほど綺麗だった。

 まるで、誰かが毎日欠かさず整備しているかのように。


「王令にあった場所は、ここで間違いないようだな」


「調査を始めよう」


 慎重に寺院へ近づき、内部へ足を踏み入れる。

 中は驚くほど静かだった。


 何かを祀るための場所なのだろう。


 そして――。


「……あった」


 静かに、そして荘厳とした祭壇の上。

 そこには、一つの古びた巻き物が置かれていた。


「これが、王の言っていた《巻き物》か」


 誰も触れようとはしなかった。

 命令された物と特徴が一致している。


 ならば、間違いなくこれが目的の品だ。


「発見したことを、すぐに王へ伝えるぞ」


 隊員たちは頷いた。

 その時、誰も知らなかった。


 この美しい山頂に眠っていたものが、後に国の運命を大きく変えることになるなど――。



    ◇◆◇



 そして、シンが王国を支配した、その隣国。

 そこにもまた、一人の『プレイヤー』がいた。


 国民からは、女神様と呼ばれる少女。


 彼女もまた、シンと同じように、この世界へ転生した者だった。


 そんな彼女の目の前に、見慣れた文字が浮かび上がる。


──────────────


【システムメッセージ】


 全てのプレイヤーが国家を入手しました。

 これより、ゲームの開始を宣言します。


 ――PANTHEON SOVEREIGN運営



──────────────



「……やっと、始まるんだ」


 少女は玉座から立ち上がり、窓の外へ視線を向ける。


 その先にあるのは、隣国。

 つい数日前まで、何の変哲もなかったNPCの国。


 だが今は――


「隣国の王女様ねぇ……」


 隣国から亡国してきたという王族の人間。

 彼女らが言うには、国王は殺され、国は知らぬ間に悪魔の手に渡ってしまったとのこと。


 少女はまだ知らない。自らの国が、最大の危機にある事に。

 恐らくは自分と同じような、プレイヤーの仕業だと考えていた。


 だが一つ、理不尽にも仕方ない”仕様“があった。

 PANTHEON SOVEREIGNのマッチング方式に、レート制というものは存在しない。


 同じゲームを好きになり、同じ世界に転生した2人。

 

 ただ一つの違い、やり込んだ密度の差。

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