色欲の使徒
その日、ある男は間違いを冒した。
1人の小さな悪魔を、王国に招き入れてしまったのだ。
「……申し訳ないと感じるんだけどなぁ」
「ご主人様、どうかいたしましたか?」
かの者の瞳は、全てを飲み込む深淵であり、全てを包み込む温もりだった。
「何でもないですよ、えっとぉミンティさん?」
「はい、貴方様のミンティです」
頬を赤らめ、立っているのがやっとなのか、足を震わせている。
その悪魔は、配下に最上の快楽を与えると言われている。
「〈魅了〉、実際目の当たりにするとチートだな」
小さな悪魔は笑い、ただ満足そうに配下を見た。
「ライトさん? は宿まで案内してください、他は……」
桃色の瞳を細め、悪魔は柔らかに口角を上げる。
「権能の付与……これもちゃんとできんのか。皆さん。どんどん仲間を増やしてください、バレない範囲で」
それぞれが王に会釈し、迷う事なく命を果たす。
ほんの少し、ほんの少しずつ……
その国は、色欲に包まれていく。
王都が侵されていく中、色欲を司りし魔王は、静かに眠りについた。
◇
「うんうん、いい朝だ」
少し霧がかっているのか、窓からの景色はお世辞にも良いとは言えなかった。
でも、朝の控えめな日と、冷たい空気が心地よい。
「てことで、見るか。楽しみだったんだよなぁ」
そういえば、メニューってどうやって出すんだろ。
念じる系か?
色々考えて、虚をスワイプしたりタップしたり、最終的にメニューって言ったら出てきた。
「……メニュー見るだけで一苦労だな」
──────────────
【国家情報】
国家名:アスモデウス
【領土】
0
【国民】
4 → 768
【配下】
4 → 768
【英雄】
0
【兵力】
0
【権能】
《大罪・色欲》
【使用可能な権能効果】
・対象への魅了
・配下への権能付与
・支配下にある者による勧誘
【現在進行中のイベント】
〈王国よ、揺籃に包まれろ〉
【支配率】
王都:0.9%
──────────────
……ふぅ。
「……きもちぇ」
そうそう、そう!
色欲ってのはこうじゃなきゃな!
圧倒的な侵略能力の高さ、王自身を国として扱う事ができるスタイル。
大罪の系譜は、自身の国を持たずとも活動できるという、相手からすれば極めて面倒な特性がある。
国を持たなければ勝てないが、負けることもない。取り逃せば、どこかの国でまた再建される。
「にしても、一晩でこれだけとはな」
全員休むことなく動いてくれたんだろう。恩人をこうして働かせてしまってるのは心苦しい。
あの4人はある程度したら、魅了を解こう。
「……配下の疲労度、そこら辺も気にしないとな」
疲労度は生産量に関わってくるのだが、今はあんまり気にしなくていいな。
配下も国民も、このまま増えていくはず。権能を付与した配下が増やしてくれるのは、恐らく魅了による配下だけなんだろう。
配下は国民としてカウントされるんだけど、配下としてカウントされない純粋な国民も欲しい。
大罪系は全員支配して、はい終わり。ってわけじゃない。
不満を持つ国民が必要だし、そういう国民がいるから、国民の満足度や忠誠度が存在する。
大罪系は面倒な事に、一定数配下ではない国民が必要なのだ。
「そんでもって、そろそろ欲しいよなぁ」
英雄、パンソヴを語る上で、絶対に外せない存在だ。
一体一体が強力な権能や固有能力を持ち、英雄同士の組み合わせによって戦術は無数になる。
なにより、追加された英雄が環境をひっくり返すたび、プレイヤー達は大いに盛り上がった。
この世界が最新バージョンだとするならば、恐らくver. 5.1なはず。
国を持たない今、招集は無理だし、召喚もコストが分かんないな……
──────────────
【チュートリアル】
PANTHEON SOVEREIGNへようこそ!
まずは、貴方の国を支える英雄を召喚しましょう!
【英雄召喚】
英雄は一体一体が異なる能力と個性を持つ、国家の切り札です。
英雄を召喚することで、国家運営・軍事・外交など、様々な面で大きな恩恵を得られます。
【召喚する】
──────────────
なんてこった、ご都合展開キタコレだな。
「いや、正直マジでありがたいぞ」
迷わず召喚するをタップした。
──────────────
【英雄召喚】
英雄を選択してください。
【追放のダークエルフ〈セルマ〉】
【呪われた重騎士〈ジダ〉】
【おさまらぬ空腹〈ザリア〉】
召喚コスト
必要魔力:1,000 → 0
必要人口:10 → 0
必要食料:500 → 0
必要資材:300 → 0
必要金貨:10,000 → 0
【召喚する】
──────────────
ほう、ガチャ形式ではなく選択かぁ。
……にしても、う〜ん。
チュートリアルに期待した俺が悪いが、これは酷いな。
三体とも環境どころか、今こうやって見るまで忘れていたキャラたち。
ステータスも微妙、固有能力はなし。
通常英雄や生産英雄はこんなもんか。
「……でもまぁ、使えなくはないか」
正直、現状は英雄という存在がいてくれるだけでありがたい。
ステータス微妙とか言ったけど、普通の兵士に負ける事はまず無いからな。
それに、英雄には成長要素がある。
進化や覚醒は特別な条件があるのだが、置かれた環境や実際の働きによってステータスが変動する。
要するに、時間が経てば経つほど強くなるって事だ。
だからこそ、元から強いキャラを時間かけて強くしたい奴が多い。
この要素のおかげで、推しを長らく愛用している人もいたけど。
今俺が最も求めているのは……
「俺は深く考えない主義、ならコイツかな」
メニューをタップして、英雄を選択して承認する。
部屋の床には、青く光る魔法陣の様なものが浮かび上がる。
中々ワクワクさせてくれんじゃん……!
最後に強い輝きを放ち、魔法陣は消えてしまった。
俺が目を開けた時、そこには跪く1人の女性がいた。
褐色の肌に長く尖った耳、色褪せた白い髪がよく似合う。
一目でわかるダークエルフ。
「召喚に応じ参りました。私はセルマと申します、我が王よ」
凛とした声が、静かな部屋に響いた。
心配とは裏腹に、いざ呼んでみると頼もしい限りだな。
「うん、よろしく頼むよ。セルマ」
──────────────
【国家情報】
国家名:アスモデウス
【領土】
0
【国民】
768 → 788
【配下】
768 → 788
【英雄】
0 → 1
【兵力】
0
【権能】
《大罪・色欲》
【使用可能な権能効果】
・対象への魅了
・配下への権能付与
・支配下にある者による勧誘
【所有している英雄】
【──のダークエルフ〈セルマ〉】
────────────




