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色欲の使徒


 その日、ある男は間違いを冒した。

 1人の小さな悪魔を、王国に招き入れてしまったのだ。


「……申し訳ないと感じるんだけどなぁ」


「ご主人様、どうかいたしましたか?」


 かの者の瞳は、全てを飲み込む深淵であり、全てを包み込む温もりだった。


「何でもないですよ、えっとぉミンティさん?」


「はい、貴方様のミンティです」


 頬を赤らめ、立っているのがやっとなのか、足を震わせている。

 その悪魔は、配下に最上の快楽を与えると言われている。


「〈魅了〉、実際目の当たりにするとチートだな」


 小さな悪魔は笑い、ただ満足そうに配下を見た。


「ライトさん? は宿まで案内してください、他は……」


 桃色の瞳を細め、悪魔は柔らかに口角を上げる。


「権能の付与……これもちゃんとできんのか。皆さん。どんどん仲間を増やしてください、バレない範囲で」


 それぞれが王に会釈し、迷う事なく命を果たす。


 ほんの少し、ほんの少しずつ……

 その国は、色欲に包まれていく。


 王都が侵されていく中、色欲を司りし魔王は、静かに眠りについた。





「うんうん、いい朝だ」


 少し霧がかっているのか、窓からの景色はお世辞にも良いとは言えなかった。

 でも、朝の控えめな日と、冷たい空気が心地よい。


「てことで、見るか。楽しみだったんだよなぁ」


 そういえば、メニューってどうやって出すんだろ。

 念じる系か?


 色々考えて、虚をスワイプしたりタップしたり、最終的にメニューって言ったら出てきた。


「……メニュー見るだけで一苦労だな」


──────────────


【国家情報】


国家名:アスモデウス


【領土】

0


【国民】

4 → 768


【配下】

4 → 768


【英雄】

0


【兵力】

0


【権能】

《大罪・色欲》


【使用可能な権能効果】

・対象への魅了

・配下への権能付与

・支配下にある者による勧誘


【現在進行中のイベント】


〈王国よ、揺籃に包まれろ〉


【支配率】

王都:0.9%


──────────────


 ……ふぅ。


「……きもちぇ」


 そうそう、そう!

 色欲ってのはこうじゃなきゃな!


 圧倒的な侵略能力の高さ、王自身を国として扱う事ができるスタイル。

 大罪の系譜は、自身の国を持たずとも活動できるという、相手からすれば極めて面倒な特性がある。


 国を持たなければ勝てないが、負けることもない。取り逃せば、どこかの国でまた再建される。


「にしても、一晩でこれだけとはな」


 全員休むことなく動いてくれたんだろう。恩人をこうして働かせてしまってるのは心苦しい。


 あの4人はある程度したら、魅了を解こう。


「……配下の疲労度、そこら辺も気にしないとな」


 疲労度は生産量に関わってくるのだが、今はあんまり気にしなくていいな。


 配下も国民も、このまま増えていくはず。権能を付与した配下が増やしてくれるのは、恐らく魅了による配下だけなんだろう。


 配下は国民としてカウントされるんだけど、配下としてカウントされない純粋な国民も欲しい。


 大罪系は全員支配して、はい終わり。ってわけじゃない。


 不満を持つ国民が必要だし、そういう国民がいるから、国民の満足度や忠誠度が存在する。

 大罪系は面倒な事に、一定数配下ではない国民が必要なのだ。


「そんでもって、そろそろ欲しいよなぁ」


 英雄、パンソヴを語る上で、絶対に外せない存在だ。

 一体一体が強力な権能や固有能力を持ち、英雄同士の組み合わせによって戦術は無数になる。


 なにより、追加された英雄が環境をひっくり返すたび、プレイヤー達は大いに盛り上がった。


 この世界が最新バージョンだとするならば、恐らくver. 5.1なはず。


 国を持たない今、招集は無理だし、召喚もコストが分かんないな……



──────────────

【チュートリアル】


PANTHEON SOVEREIGNへようこそ!

まずは、貴方の国を支える英雄を召喚しましょう!


【英雄召喚】


英雄は一体一体が異なる能力と個性を持つ、国家の切り札です。

英雄を召喚することで、国家運営・軍事・外交など、様々な面で大きな恩恵を得られます。


【召喚する】

──────────────



 なんてこった、ご都合展開キタコレだな。


「いや、正直マジでありがたいぞ」


 迷わず召喚するをタップした。



──────────────


【英雄召喚】


英雄を選択してください。


【追放のダークエルフ〈セルマ〉】

【呪われた重騎士〈ジダ〉】

【おさまらぬ空腹〈ザリア〉】


召喚コスト


必要魔力:1,000 → 0

必要人口:10 → 0

必要食料:500 → 0

必要資材:300 → 0

必要金貨:10,000 → 0


【召喚する】


──────────────


 ほう、ガチャ形式ではなく選択かぁ。

……にしても、う〜ん。


 チュートリアルに期待した俺が悪いが、これは酷いな。

 三体とも環境どころか、今こうやって見るまで忘れていたキャラたち。


 ステータスも微妙、固有能力はなし。

 通常英雄や生産英雄はこんなもんか。


「……でもまぁ、使えなくはないか」


 正直、現状は英雄という存在がいてくれるだけでありがたい。

 ステータス微妙とか言ったけど、普通の兵士に負ける事はまず無いからな。


 それに、英雄には成長要素がある。

 進化や覚醒は特別な条件があるのだが、置かれた環境や実際の働きによってステータスが変動する。


 要するに、時間が経てば経つほど強くなるって事だ。

 だからこそ、元から強いキャラを時間かけて強くしたい奴が多い。


 この要素のおかげで、推しを長らく愛用している人もいたけど。


 今俺が最も求めているのは……


「俺は深く考えない主義、ならコイツかな」


 メニューをタップして、英雄を選択して承認する。

 部屋の床には、青く光る魔法陣の様なものが浮かび上がる。


 中々ワクワクさせてくれんじゃん……!


 最後に強い輝きを放ち、魔法陣は消えてしまった。

 俺が目を開けた時、そこには跪く1人の女性がいた。


 褐色の肌に長く尖った耳、色褪せた白い髪がよく似合う。

 一目でわかるダークエルフ。


「召喚に応じ参りました。私はセルマと申します、我が王よ」


 凛とした声が、静かな部屋に響いた。

 心配とは裏腹に、いざ呼んでみると頼もしい限りだな。


「うん、よろしく頼むよ。セルマ」



──────────────


【国家情報】


国家名:アスモデウス


【領土】


0


【国民】


768 → 788


【配下】


768 → 788


【英雄】


0 → 1


【兵力】


0


【権能】


《大罪・色欲》


【使用可能な権能効果】


・対象への魅了


・配下への権能付与


・支配下にある者による勧誘


【所有している英雄】


【──のダークエルフ〈セルマ〉】


────────────

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