通り魔、王
俺は今、非常に悩ましい決断を迫られていた。
「……いや、ほんとどうしよ」
もうすでに小一時間は目の前のメニューと睨めっこしている。
「転生……それ自体はいいんだけどなぁ」
恐らく、いや確実に俺は転生した。
今日も今日とて、残された少ない青春を捧げようとPCを起動した──その時だった。
そこから段々意識が薄れて、それでもあのゲームを無理やり起動して……
「意識シャットダウンで起きたら転生、てか」
1人で笑ってみるが、寂しいし恥ずかしいしですぐやめた。
現状が良くなるわけでもないからな。
転生、それ自体は全然納得できる。
むしろ嬉しい。両親の事は心配だが、弟妹たちがどうにかしてくれるはずだ。
でもやはりキツい、これじゃ攻略サイトありきの無理ゲーだ。
俺が転生したのは、恐らく転生直後にも起動した、俺の愛する| PANTHEON SOVEREIGNと言うゲームだろう。
その根拠は、このメニューだ。
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【緊急メッセージ】
『PANTHEON SOVEREIGN』へようこそ。
紗凪真様、貴方は転生しました。
貴方は、ご自身に賜る神々の権能を選ぶことができます。
【神族】
【龍】
【天使】
【大罪】
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もう言っちゃってるもんね。
そんでもって、これがパンソヴの最初の選択であり、最大の決断。
陣営や権能によって、使える英雄や兵が変わってくる。
国ごとの街並みやデザインも素晴らしいのだから、それがまた葛藤の種となる。
「まぁ、やっぱり1番は権能かぁ」
神から賜るという、言わばスキルとかに似た代物。
正直、選ぶ余地がないくらい好きなのは大罪陣営の【色欲】だ。
絡め手や手数での勝負が楽しいったらもうなぁ?
でも、ここで大切なのは生き残れるかだ。
この世界がパンソヴの物であるなら、死は身近な存在。
どの権能が生存能力が高いか、それで決めるべきなんだけど……
「正直、他のを使いこなせる自信がないなぁ」
メニューを指でタップしたりスワイプしたり、俺は小一時間に渡る葛藤を終わらせた。
結局こうなるなら悩む必要はなかったな。
【大罪の系譜・色欲】
『選択しました』
「……よし」
これでいい。
何度も何度も、この権能で世界を攻略した。
軍事力は他国家に劣る。
領土も最初は狭いし、序盤の生産力だって低い。
それでも俺は、この権能が好きだった。
相手を倒す必要なんてない。相手が、《《自分からこちらを選ばせればいいのだから》》。
「……あとは、アスモデウスを選べれば――」
『選択を受理しました』
『国家を生成します』
「…………ん?」
『国家名:アスモデウス』
『初期領土:0』
『所属人口:0』
『保有英雄:0』
『保有兵力:0』
「………………よっわ」
◇
そういや【色欲】のストーリーモードは領土なしだったなぁ、と気を取り直し。
ひとまずは行動!という事で、俺は初期地であろう森を抜けようと散策中。
川とか道に出れたら、なんとかなる派なんだけど、今のところは何も無し。
「国にさえ入れば、やりようはいくらでもある」
まぁ来た瞬間分かってたけど、森のど真ん中でないことを祈る。
それからしばらく歩いた。
権能のおかげ?なのか、空腹や疲労をあまり感じなかった。
そして……
「きたぁ……!」
日も暮れて、疲労はなくも精神面で疲れてきた頃、森を抜けた。
さらに大きな外壁らしきものと、そこへ続く道が見えた。
「我が軍の大勝利だァ……!」
嬉しさのあまり、俺は膝から崩れ落ちた。
しばらく達成感を噛み締めていたが、こうしていられないと立ち上がった。
「よしっ、この国催眠するか!」
◇◆◇
「今日は稼げましたね!」
「あぁ、お前ら贅沢しすぎんなよ〜?」
その言葉で、またもや盛り上がる後続のパーティーメンバー。
俺と幼馴染のミンティが立ち上げ、規模を少し大きくして頑張ってきたパーティーだ。
冒険者としての生活は刺激と冒険に溢れ、充実したものだった。
今日も森で増え過ぎた森狼の討伐依頼をこなした帰りだ。
かなり量が多く、素材の売却金と依頼の達成報酬を合わせると良い額になるだろう。
「にしても、今日もお2人の連携は凄かったですね!」
「そ、そうかな〜?」
メンバーである獣人の少女フラにそう言われて、ミンティは照れた様子だった。
それを見ると、こちらも嬉しくなってくる。
「お前らさっさと結婚でもしたらどうだ?」
背後から、いつものように野次を飛ばしてくるのは大男のガル。
「ば、馬鹿か! 冒険者引退してからって決めてんだよ!」
言い終えてから、俺から間抜けな声が出た。
「……ライト〜?」
「ご、ごめん!言うつもりは……」
「うるさい! もう知らない!」
「あ〜あ、嫌われちったか?」
「……お前のせいでな」
後でしっかり謝ろう、そう考えていると、王都の正門に着いていた。
「マジお願いします! この通りなんで!」
「なんだあれ」
「揉めてるのかな?」
何故か高価そうな服を纏った少年が、門番に必死に頭を下げていた。
異様な光景で、非常に面倒ごとの匂いがする光景だ。
「どうかしましたか?」
「いやぁそれが、身分を証明できる物を何も持っていないのに入らせろと……」
「先っちょだけで良いんです! ほんと!」
俺たちは無視できるが、ミンティはこう言うのに弱いんだよなぁ……
「あ、あっ!もしかしてラント君? すいませんこの子私の親戚で……また家出したの!?」
ほらな、と振り返ると、誰1人として驚いてはいなかった。これがミンティだ。
「えっ? いやぁ……あっ、うんうん!そうなんだよお姉ちゃん!」
はぁ、ほんとお人好しだな。少年もミンティの思惑が伝わったのか、合わせている。
メンバーも俺も、呆れつつそれに合わせた。ミンティは言っても止まらないからな。
門番は最後まで疑ったが、俺達パーティーの総意でミンティの親戚と言うことになり入国した。
「はぁ、本当に助かりましたよ。ありがとうございます」
「本当だぜ、何してんだよ」
「ちょっと、そんな言い方可哀想でしょ?」
まずはコイツがアホな密入国者ではと疑うことも大切だと思う。
とりあえずギルドまで一緒に歩くことになった。
少年は言動から諸々軽い印象だったのだが、意外と礼節はあって、美しい容姿をしていた。
名前はサナギ・シンと言うらしく、あまり聞いた事のない響きだ。
「苗字ってことは貴族!?」
「いえ全然、少し特殊な国出身で」
そう笑う彼は、やはり怪しくて……やはり美しいと思ってしまった。
メンバーの1人が褒めると、「やっぱりか」と1人で呟いているのが聞こえた。
かなりのナルシストか?
だが俺は最後まで、コイツを好きにはなれなかった。
「この路地を抜ければギルドだ」
「……う〜ん、やっぱりこの人らで良いかな」
振り返ると、1番後ろで立ち尽くす少年がいた。その淡い桃色の瞳が、俺達の意識を引き摺り込むように光っていた。
「……あっ?」
俺たちは、これからもっと活躍するパーティーになるはずだった。
俺は、ミンティと一緒に多くの冒険をして、金を稼ぎまくったら引退して、田舎で結婚するはずだった。
すまないミンティ、メンバーのみんな。
すまない、王国の民よ。
最初から最後まで意味の分からない事だった。《《ソレ》》は、まさしく王であった。
「あっ、あぁ……」
言葉を発する余裕もなく、それぞれが体を打ち震わせ、倒れていく。
「……ラ…イト、」
俺はミンティの手を握った。それすらも、《《王》》からすれば、虫の抱擁だったんだろう。
「マジで申し訳ないんだけど、やっぱり────だよなぁ」
今一度謝罪しよう。
国の民よ、俺は招き入れてしまったんだ。
この化け物を……
だからもう、手遅れなんだ。
せめて、我が王の糧となってくれ。




