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第二話 夜詣り

本日一挙公開の第2話です!因習村、到着です。

 人の形をした“それ”は地面の黒い染みとなった。

 潤は深く息を一つ吐いた。

 

「よし!」


 潤は手をパンと一つ叩きクルッとこちらに向き直り、大幣を肩に担いで歩いてきた。

 大幣を荷台に戻し、運転席のドアを開ける。


「ケータイ取って」


 唐突に言われ、混乱がおさまっていないながらもナビとしてつけていた潤のスマホを取って渡した。

 するとツカツカと黒い水たまりの側まで歩いて行き、パシャパシャと写真を撮り始めた。

 一通り写真を撮ったら今度はスマホを高速でいじり始めた。

 私はさっきまでのありえない状況の処理が追いついておらず、その様子をぼーっと眺めているしかできなかった。

 作業が終わったのかパッとスマホから顔をあげ、ルンルン顔で軽トラに乗り込んできた。


「よし、これで特別手当申請完了っと。窓拭いたら出発するぞー」


 と、さっきまでの異常が、日常のようなテンションで私に言いながら、汚い雑巾を投げてよこした。

 大人しく一緒に窓を吹き上げ車に戻るとまた走り始めた。


「今の、なに?」

「あぁ、あれ?初めてだった?」

「よくいるの?」

「いや、街ではあんまり居ないけど、こういうトンネルとかだとたまに、ね」


 まるでデカい虫を見つけたくらいのテンションで答える潤。

 あまりのことでそれ以上の言葉が出ない私をおいて、ボロい軽トラはトンネルを抜け地鎮祭を依頼された村へと入っていった。



************


 トンネルから10分ほど走ると脇に民家が見え始め、一際大きな公民館の様な建物の前に人だかりができていた。

 遠目からでも全員が老人だとわかる。きっと最年少でもおじさんとおじいさんの境目くらいだろう。そんな老人たちが元気に手を振って出迎えてくれる様子が可笑しいのと可愛いのとでつい頬が緩んでしまった。

 元気な老人たちの輪の中に軽トラを止め歓迎の挨拶を受けた。


「こげなちっさい村にわざわざ来てくれてありがとうね」

「若い子見るだけで元気になるわ」


 と口々に歓迎してくれる。

 すると話の中から背筋が伸びた初老の老人が前に出てきた。


「村の仕切りをやっとります、黒沢武彦と申します。遠路はるばるありがとうございます」


と言いながら深くお辞儀をする。


「今回は村に廃棄物処理場を作るということで、村の再興の為の大事な工事となるますけ、どうぞよろしくお願いします」

「聞いていますよ。無事に建てられる様、私も全力で臨ませていただきますね」


 潤がいつもと全く違う最早異様とも思えるくらいの爽やかさで応えていた。

 両手はガッチリ黒沢という人を掴み、政治家のような握手をしている。

 私はあんな爽やかな笑顔見たことがない。いつもその顔しておけばいいのに。


「地鎮祭は明日ですから、僕らは荷物をおろして事前に現地を見てみたいのですがよろしいですか?」

 爽やかに潤が言うと、黒沢は少し困った顔をしたが何かを思いついたように頷きながら提案をし始めた。

「もちろんみてもらう分は構わんのですが、いかんせん場所が入り組んどりまして・・・・・・。ですが今夜地元で家建てるときに必ずやる“夜詣り(よまいり)”をしますけ、それに一緒に参加してもらうのかどうでしょう?」

「夜詣り、ですか?」

「そうです。今回はおっきい工事なんで普通の地鎮祭をせんと外の会社は建ててくれませんが、ここいらの家はぜーんぶこの夜詣りして建っとるんです」

「ほう、それは珍しいですね。こちらの地域の地鎮祭、ということですね」


 黒沢は満足そうに頷いた。


「ではせっかくですし僕らも参加させてもらいます」

「ありがとうございます。では時間になるまで旅館でゆっくりしてください。使いの者に呼びに行かせますけ」


 そうして挨拶もひと段落し、私たちは旅館へ車を走らせた。

 村といってもちゃんと道は舗装されており、高い建物もなく、見晴らしのいい山の麓という雰囲気がすごくいい場所だった。

 旅館に着いてからも、中居さんも良くしてくれて夜まで時間があるからと入った温泉は本当に気持ちが良く、道中の大変さはすっかり洗い流された。


 夕方になり、黒沢の使いという井上という男が尋ねてきた。


「そろそろ夜詣りに行きますけ、準備お願いします」

「あ、もうそんな時間ですか。いやぁ本当にここはいい場所ですね」


 潤は返事と一緒に揉み手でおべっかも返しているが、いい場所なのは完全に同意だ。

 特に荷物はいらないとのことだったので、私も潤もそのまま手ぶらで夜詣りに行くことにした。


 旅館を出ると、そこには出迎えてくれた面々が提灯に灯りを入れて集合していた。

 「夜にこれから山を軽く登るらしいが大丈夫か?」と思ったが、皆笑顔なので大丈夫なのだろう。

 そう思いながらしげしげとご老人の嬉しそうな様子を遠巻きに眺めていると、急に後ろから老婆に声をかけられた。


「お嬢ちゃんも夜詣り行くんけ?」

「はい!山に登るって聞いたんですが結構大変ですか?

「うんにゃ、わしみたいなもんでも登れるけ、お嬢ちゃんなら全然大丈夫」

「おばあちゃん達はよく行くの?」

「うんにゃ、夜詣りは閏年の7月だけさね」

「あれ?地鎮祭みたいなものでしょ?」

「あ?……あぁ、そん時もいくさね」

「?」


 そんな話をしていると「行くぞー」と井上の号令がかかり、みんなゆっくりと歩き始めた。

 提灯が等間隔に並び一本の列をなして山を登っていく様子はなんだか幻想的だった。


 緩やかな山道をみんなで登ると、急に広く開けた場所にでて行列は止まった。

 山道の最後に鳥居が立っており、そこから小学校の校庭ほどの丸い原っぱが広がっている。その原っぱの真ん中にポツンと祠が立っていた。

 祠にはしめ縄がついており、鎖が祠をぐるりと一周巻かれ、南京錠で止めている。扉は閉まっているので中は見えない。

 そして祠の前に賽銭箱の代わりに大きな石の盃が鎮座している。

 提灯の灯りを頼りに周りの様子を確かめていると風がびゅーと頬を撫でた。


「わー、風が通って気持ちい場所ですね」

「昔ここは湖だったから高い木もなくてよー風が通るんよ」

「そんなに古くからあるんですか?」

「祠は割と新しいけんど、この場所にはずーっとあるけ」

「けどここが廃棄物処理場になっちゃうんですね」

「ま、そういうことになっとうね」

「?」


「おーい!御影さんら!“どおんけ様”に挨拶にいくけ、こっちにおいで」


 潤と一緒に呼ばれたので鳥居の先頭にいき、提灯を持った黒沢に連れられて祠に向かった。

 歩きながら潤が質問をする。


「“どおんけ様”ってこの辺の神様ですか?」

「おん、ここいらはみーんな信じとるよ」

「へー。信仰に厚くいらっしゃるんですね。最近の僕の周りでは全然そんな人いなくて」

「はっはっはっ。この辺はジジババばっかりだからね。地元にずーっと住んどるけん山の恵みに日々助けられとる。どおんけ様に感謝しとかんとバチが当たるんよ」

「バチ、ですか」


 そういうと潤は祠の方に視線を向け、急に難しい顔をした。


「ほれ、着いた」


 黒沢が言った。

 近くでみると祠は私の身長くらいはあって思ったより大きくてびっくりした。

 祠を満遍なく見ていると、しめ縄が逆に着いていることに気がついた。


「あの、このしめ縄逆についていません?」


すると黒沢はにっこりしながら


「お嬢ちゃんよう気がついたね。これは左綯え(ひだりなえ)と言って、ここから先は神聖な場所なんだよ。って結び方なんだよ」

「へー!勉強になります」

「ささ、それじゃぁ2人とも、どおんけ様に挨拶しようか」


そういうとポケットから小さなナイフを取り出した。


「な、なにを!」

「ごめんごめん、びっくりさせるつもりはなかったんだが」


そういうと黒沢は申し訳なさそうに頭をかいた。


「外の人が来た時に、どおんけ様に血を一滴捧げにゃならんのよ……」

「痛くせんけん従ってくれんかの?」


すごく申し訳なさそうに言う黒沢と潤の顔を交互に見比べた。

私の不安そうな表情を察してか、潤は私に向かって少し微笑みかけ


「ひな、大丈夫だ。指先をちょっと切ってやればいい。ですよね?黒沢さん」

「そうそう。ほんのちょっとでいいんだ。針で軽く刺すみたいなもんだ」


 そう言われると私だって子供じゃないんだから、と2人に舐められないように了承した。

すると潤が「ひなは偉いなぁ。」と子供をあやすように頭を撫でてきた。

それが恥ずかしくて「やめてよ。」と手をはらい退けようとした時、潤が真面目な顔で唇に指を当て「しゃべるな」のポーズをとってきた。

意味はわからないが大事な事な気がしてそのままこくりと頷いた。


 指先を軽く切った時に思ったよりも痛かったが、我慢し、指先に溜まった血を黒沢に言われるまま石の盃に一滴落とした。


 すると盃が少しだけ発光した様に見えたが、どうやら雲から月が出てきただけの様だった。

 こうして私たちの夜詣りは終わり、いよいよ明日は地鎮祭本番となる。


 




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