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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
93/180

準備



 佐藤と鈴木を中心に集まりつつあるモンスター達を遠巻きに見ながら、カミュはベンヌの肩にそっと手を乗せる。

 大多数のモンスターは彼等の行動に一切の興味を示さず、引くでもなく攻めるでもなく周囲をただうろついているだけだ。

 それとは対照的に、極少数のモンスター達は見えない何かに誘導されるように、中心へと向かって混乱することなく静かに歩み寄っている。

 そこはかとない知性を感じさせるその表情と行動に、通常のモンスターとは一線を画す何かをカミュは見つけた。


「ベンヌ、先ほども説明したが、彼等をエスタブリッシュへと送り届けてくれ」


「かしこまりました。わらわにお任せ下さい!」


 優しく微笑むカミュを見上げて、ベンヌは頬を染めながら目を潤ませる。


「彼等は我々と同等の知性を備えている。人間と同じようなものだと考えれば間違いないだろう」


「そんな下等生物と一緒にされるのですか? 上げてから落とされるとは……流石はカミュ様ですね」


「? そ、そうか?」


「はい!」


 何に感心したのかはサッパリ判らないが、ベンヌが潤んだ瞳を更に輝かせた。

 我々と人間は頭脳的に同列の存在ではないのか? カミュの脳裏をそんな疑問が過るが、余計なことを言って面倒な疑いを持たれるのを恐れて、それ以上を口にすることは無かった。


「しかし油断は禁物だぞ? 確かにお前から見れば脆弱な生き物だろう。だがもしかすると、私を窮地に追い込むことが可能な、危険な存在かもしれないぞ?」


「あれらがですか? そうは見えませんが……」


「直接的な戦闘力だけが力のすべてではない、と言いたいだけだ。彼等はモンスターの戦闘力と人間の知恵を持ち合わせている。何が切っ掛けとなり力を得るかなんて、誰にも判らないからな」


「であれば、今すぐ殺しましょうか?」


 小首を傾げていたベンヌが、その紫色に光る瞳へと険を宿す。


「い、いや! そう短絡的に結論を出すこともないだろう。お前が危険と判断するなら、彼等の排除も検討すべきだろう。だが今は特に大きな問題は感じられない。警戒は必要だが今直ぐの排除は……うん、やり過ぎだな」


「そうですか? であれば、危険と判断するまでは警戒に留めます」


「うん、そうだな。それが良いだろう」


 何処かのネジが足りないのだろうか? ベンヌが直線的でぶっ飛んだ思考をカミュへと披露する。

 そして彼女の判断は、実は魔族として真に正しい。だがそんなこと、常識に欠けたカミュには判らない。彼が唯一判ったのは、人間の世界で押し通すにはかなり癖の強い判断であるということだけだ。

 そんな混乱に陥ったカミュが慌てて彼女との話をぶった切るが、直情型のベンヌには何故主君が焦りを見せているのかは判らない。


「もし仮にですが、カミュ様にとって非常に危険な存在と判断したら、即座に排除してもよろしいですか?」


「あぁ、その時は仕方ないだろう。だが判断は慎重に行うんだぞ?」


「承知しました。お任せ下さい!」


 目を輝かせて口端を上げるベンヌに、カミュは一抹の不安を覚える。


「……キャラケンダも同行させるか」


「え? 何か仰いましたか?」


「ん? あぁ、ベンヌだけでは大変かと思ってな。キャラケンダも同行させた方が良いだろうか?」


「ご配慮ありがとうございます。キャラケンダであれば助かります」


 キャラケンダではなくお前の方にだいぶ問題があるのでは? そんな言葉がカミュの脳裏を過ぎるがそれ以前に、言外にサリアを拒否していることにハタと気付く。

 取り敢えず何か言っておくべきか悩むカミュだったが、触らぬ神になんとやらで余計な一言はグッと飲み込んでおく。

 こう見えても彼女は魔国の中枢を成す存在なのだ。あまりにも度を越した指摘や侮辱は、身の破滅に繋がりかねない。そう危惧したカミュは、そのままベンヌへと引き攣った微笑みを贈った。


「そ、そろそろ集まったようだな。では彼等の所へ行くか」


「はい。ですがキャラケンダを呼ばないのですか?」


「そうだったな。だがサリアだけを残すのも可哀相だ。全員此方へ呼ぼう」


「サリアなぞ不要では? 放っておきましょう」


 子供のようなベンヌの提案に、カミュが苦笑を浮かべる。


「そういう訳にもいくまい。だが彼女達までだいぶ距離があるな。魔法で呼ぶか……」


「魔法で、ですか?」


「あぁ、彼女達はかなり強いんだよな? だったら下級の魔法をぶつけてもダメージは通らないだろ?」


「あ、そういうことですか。下級魔法なら大丈夫ですね。サリアだけは特別に、ダメージが全く感じられない程度の、微妙な威力のふわっとした魔法をぶつけましょう!」


 純粋無垢な瞳でベンヌが首を傾げる。キャラケンダだけに気付かせて、サリアは放置する作戦なのだろう。


「いや、流石にそれは……愛が足りないだろう。私は平等だからな」


「では最大化した上位魔法をもって、一撃で沈めては如何でしょうか?」


 言っていることは邪道で最悪なのだが、彼女の表情には一切の躊躇も悪意も見られない。

 本当の邪悪とはこういう存在を言うのだろう。カミュは今後襲い掛かるであろう理不尽に備えるべく、不用意な発言を絶対に控えようと深く心に刻んだ。


「いや、それは愛が強すぎるだろう。流石に彼女だけを贔屓するのは……ちょっとな」


「そ、そうですね! ならば溢れる愛はこのベンヌ・オシリスだけにお願いします」


「あ、あぁ……一考はしておこう」


 更に輝きを増すベンヌの恍惚とした表情に気圧されながらも、カミュは残った矜持で後ろへの一歩をグッと堪える。

 暴力的なアプローチがそれ即ち愛。なんと煽情的で破滅的な思想なのだろう。

 ベンヌの変態的で病的な性癖から目を背けて、カミュは両手を突き出して詠唱を始めた。


「<狙撃(スナイプ)><光の矢(マジックアロー)>」


 両手の先に魔法陣を出現させて、カミュは遠く離れた配下へと魔法を放つ。

 狙うはサリアの可愛らしい顔と、キャラケンダの仮面の下で謎に包まれる顔。

 狙撃(スナイプ)により必中となった光の矢は、一直線に飛び去って彼女達の顔面へと直撃する。


「な!? 何故……アイツ等は避けないんだ?」


「カミュ様の愛を避けるなど、以ての外ですから」


「え? そうなのか? あ、いや……そ、そうだな」


「はい。わらわも早く、あのような激しくも優しい愛に包まれたいです」


 語尾にハートマークが付きそうなほどの勢いで、危ない思想を全開に押し出すベンヌ・オシリス。

 両手を組んでウットリとしている彼女を放置したカミュは、此方に向かって勢いよく駆け出した二人へと大きく手を上げる。


「カミュ……シューベルト様、お呼びですか!?」


 額にちょっとだけ赤みを残したサリアが笑顔で駆け寄った。

 コードネームを忘れて全部言ってしまっている気がしないでもないが、カミュは気にすることなく彼女の笑顔を優しく迎え入れる。


「あぁ、これからのことを伝えようと思ってな。ところで、キャラケンダはどうしたんだ?」


 <光の矢(マジックアロー)>を受けた直後より、彼女は両手で顔を覆ったままだ。

 もしかしてダメージが残ってしまったのか? そんなカミュの心配を余所に、サリアは淡々と事実を伝えてくる。


「先ほどのお呼び出しで割れたようです」


「なに!? 額が割れたのか?」


「いえ、仮面です」


「あぁ……そうか。だが何故避けなかったんだ?」


 指の隙間から此方を覗き見るキャラケンダへ、カミュは率直な疑問をぶつけた。

 何故そこまで必死に顔を隠すのか。やはり言葉では言い表せないほどアレ過ぎる顔なのだろうか。

 そんな不安に苛まれるカミュに対して、キャラケンダは恐々と顔を上げながら答える。


「仮面を付けていることを、失念しておりました」


「それは仮面が無ければ常に……いや、何でもない。だがそのままでは窮屈だろう。手を外して普通にしてくれ」


「ですが、仮面の常時装着はアスラ様からのご命令ですので……」


「私からの命令だ。気にせず素顔を晒すがいい」


 暫く悩んでいたキャラケンダが「はい」とか細く同意して、カミュの前に初めてその素顔を晒した。


「ほぉ……予想以上の美人じゃないか。素顔を隠すなんて勿体ないぞ?」


「え? あ、いえ、わたしなんてアスラ様に比べれば全然……」


 フルーレティにも引けを取らないその美貌。カミュが素直に感嘆の声を上げると、真っ赤になったキャラケンダがすぐさま顔を下げる。


「それは好みの問題ではないか? まぁいい。では今後の行動方針を伝える。ベンヌ、サリア、余所見をしていないで此方を向け」


「「あ! も、申し訳ございません」」


 これ以上は話の進展が望めそうにないと判断したカミュは、彼女達をこの場へ呼んだ理由を説明しようとするが、キャラケンダ以外の二名が猛烈な勢いで彼女を睨んでいることに気付いた。

 それはもう、親の仇を見るような厳しさで。

 キャラケンダを褒めたことに嫉妬したのだろうか? 趣味趣向によっては彼女達の方が美しいと感じる男性も居るだろう。

 カミュはバディスの姿を思い出しながら、微妙な表情で並び立つ三名へと向かって今後の方針を伝えた。


「ベンヌとキャラケンダには、彼等をエスタブリッシュへと引率して貰う。移動方法は徒歩、帰りはお前達に任せる」


「畏まりました。彼等を住民として迎え入れる、との解釈でよろしいですか?」


「概ねその通りだ。だが彼等が我々に協力的なのかそうでないのかは、今の段階では正直に言って判らない。もし危険と判断したなら、ベンヌと協議して対処してくれ」


「承知しました」


 大きく一礼したキャラケンダに頷くと、カミュは何か言いたそうにしているサリアへと視線を移した。


「わ、我は何をすればよろしいのですか?」


「サリアには私と一緒に仕事をして貰うつもりだ」


「仕事……夜の方でしょうか?」


「やっぱりお前は馬鹿かしら」


「ベンヌ、止せ」


「あ、はい」


 何を想像したのか判らないが、サリアが頬を赤く染めてモジモジっと下を向く。

 そして当然のようにベンヌから厳しい指摘が入る。

 内心ではベンヌに強く同意するカミュだったが、これ以上の不毛な議論を避けるべくそっとベンヌを制した。


「サリア、仕事は此処に集まっていないモンスター達の殲滅だ。彼等が移動してもなお此処に残る者が居れば、種族を問わず悉く葬り去る予定だ」


「あ、そういうことですか。ですがそのようなことでカミュ様のお手を煩わせてしまうのは心苦しいのですが……」


 サリアから出た意外にも殊勝な言葉にカミュは驚きを隠せない。


「ふむ……では誰か応援を呼ぶか?」


「それでしたら、我の配下に居るカルラを呼びたいと思いますが」


「カルラには索敵能力はあるのか? 流石に隠れている奴を全て見つけるのは面倒だしな」


「索敵能力であれば、アスタロト配下のネビロスを呼ばれては如何でしょうか?」


 カルラにネビロス。正直に言うと、カミュはどちらの配下も全く知らない。

 だが此処で「誰それ?」などと聞けるはずもなく、カミュは溢れる好奇心をぐっと飲み込んだ。


「ではアスタロトには私から伝えよう。カルラはお前が呼んでくれ」


「はい。直ちに呼び出します」


「うむ。私も早速アスタロトに念話するか……」


 右手を蟀谷(こめかみ)に当てながら、カミュは北西へと視線を向ける。

 エルビス? 違う、ネビロス、そうネビロスだ。などと考えながら、とても元気良く念話に応じたアスタロトへとネビロスの召喚を伝えて暫し待つ。

 そして数分後、目の前の空間が歪み何時もの光景が繰り出される。空間の歪みは当初無色透明だったが、次第に青から紫、そして漆黒へと変化し、最後に厚みが一切ない直径三メートルの円になる。

 それから数秒が経過した後、漆黒の円から息を切らせた二名の女性が飛び出して来た。


「ハァ、ッハァ……お、お待たせして申し訳御座いません」


「ハァ……ふぅ。申し訳ありません」


「う、うむ……ご苦労。よく来てくれた」


 最初に謝罪を申し出たのは、紫に輝く瞳で愛らしい顔を引き立たせる、ウェーブロングの黒髪から山羊の角を覗かせた少女。

 だがその背中には蝙蝠らしき一対の羽が生えており、その可愛いお尻には悪魔が持つような尻尾が生えている。カミュの持つ知識で例えるなら、彼女はまさに小悪魔(インプ)そのもの。

 レースの黒いローブで身長百六十cmの細い体を包み込み、前合わせの部分を下まで大きく開けた彼女は、光沢のある黒のハイレグと腿まで達する黒いロングブーツに皺を寄せながら片膝を付いて頭を垂れた。

 続いて片膝を付き頭を垂れたのは、帯以外が紫に透けるシースルーの和服が艶めかしい、黒髪をレイアーヘアーに纏めながら濡れる瞳を青、金の二十輪郭に光らせる身長百五十cmの女性だ。残念ながら外見から種族までは判らない。


「ネビロス……そしてカルラだな?」


 なるべく視線を彷徨わせないように気を付けながら、ネビロスとカルラの名をゆっくりと誰何する。

 先にインプが「はい」とゆっくり頷き、続いて和服の女性が「そうです」と頷く。

 パラス達とは違い素晴らしく個性的な外見をしている為、間違う恐れはないとカミュは密かに安堵した。


「随分息を切らせているようだが、此処までダッシュで来たのか?」


「だっしゅう……で御座いますか?」

「臭いへの対策は特に取っておりませんが……不快でしょうか?」


「い、いや……それは脱臭だろう。そうではなく、急いで此処まで来たのか? と聞いている」


 表情の抜け落ちた二名が、漸く勘違いに気付いて顔を赤らめる。


「は、はい。アスタロト様から"可及的速やかに"と言付かりましたので」


「そうか。急がせたようで悪かったな」


「い、いえ! そのようなお気遣い、勿体のうございます」


「口調が随分……いや、何でもない。それよりも私の配下は本当に美人揃いだな」


 目を見開いてポカンと口を開ける二名が、無言のまま暫く固まった後、真っ赤になって下を向く。


「ど、どうかしたのか?」


「あ、その……手前共のことを、び、美人だなんて……」


「わらわに仰ったかしら」

「いや、我に仰ったのじゃろう」


「……個人を特定した訳ではない。私は皆のことを美人だと思っているぞ」


 なるべくベンヌとサリアに視線を合わせないようにして、カミュは素直な想いをネビロス、そしてカルラへと語りかけた。

 ベンヌとサリアは当然とばかりにウンウンと頷き、キャラケンダは両手で口を押えながら驚愕の表情を貼り付けている。

 片膝を付いたままのネビロスとカルラは、頬を真っ赤に染めながらも奇麗な瞳を潤ませている。


「それよりも、先ずは立ってくれないか?」


「よ、よろしいのでしょうか?」


「あぁ、問題ないぞカルラ。ネビロス、お前も気にせず立つんだ」


「は、はい」


 一々許可を与えないと行動を起こさない配下に内心で辟易しながらも、カミュは優しい眼差しで二名を促す。

 そしてカミュは、立ち上がる二名を見つめながらふと大事なことに気付いた。もしかして今やっと、説明のスタートラインに立てたのではないか? と。

 多少の疲労を感じつつもカミュは眉間に手を当てた後で、配下達へと精一杯の想いで欺瞞に溢れる爽やかな笑顔を贈りつけた。


「では今後の行動について説明する。先ほどの繰り返しになるが、ベンヌとキャラケンダは一部のモンスターをエスタブリッシュへと引率してくれ。残るサリア、ネビロス、そしてカルラは、この場に居残ったモンスターを一匹残らず殲滅するのだ」


「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「なんだ? カルラ」


「モンスターの殲滅に、最大化した上級魔法を使用してよろしいでしょうか?」


 襟元を大きく開けたゆったりとしたセーターが似合いそうなカルラが、真剣な眼差しでカミュへと質問する。

 だが残念ながら、カミュは配下の使える魔法が全く判らない。

 一瞬、聞くか流すか悩むカミュであったが、聞かなければ何も始まらないと気付いて配下達を順番に確認していく。


「サリアの使える最大の攻撃魔法は確か……」


「我の使える最大の攻撃魔法は<氷の槍(アイスランス)>です」


「そうだったな。で、ネビロスとカルラは……」


「ウチも<氷の槍(アイスランス)>を使えますが、ネビロスは攻撃魔法が使えません」


「……え? あ、いや、そうだったな。それでお前達の属性とスキルは確か……」


 カミュは一瞬だけ目を点にするがそれも束の間、彼は凍り付いた空気を切り裂くように、即座にサリアへと質問を切り返す。


「我の属性は水と闇で、スキルは<魅了(チャーム)>です」


「手前の属性は闇。保有スキルは<蘇生(リバイブ)>です」


「ウチの属性は水で、スキルは<幻覚(ハルシネイション)ですね」


「そそ、そうだった。うん、そうだったな。確かに水と闇だ……」


 何故自分は広域殲滅能力が欠如している者だけを集めてしまったのか。もしかしなくても人選を間違えたのではないだろうか?

 思わず口を突きそうになった愚痴を必死に心へと繋ぎ止めて、カミュは可哀相なものを見るような目で配下達を見守った。


「だが武器を用いた直接的な戦闘能力は高いのだろう?」


「ご心配は無用にございます。我等であればいくら油断していようとも、マンティコア如きに遅れを取るようなことは万に一つもございません!」


 自身の戦闘力に自信を漲らせるサリアが、無い胸を張って実力差を断言する。

 彼女の言う通り、彼女達とマンティコアには実力的に超えられない壁があるのだろう。

 であれば殲滅については彼女達に任せるべき。だがカミュには一つだけ気になることがあった。


「その通りだろう。だがサリア、お前とカルラが魔法で殲滅すると、ネビロスが戦闘に参加出来なくなるよな?」


「それはそうですが……」


「それに大規模な魔法を行使した結果、我々の正体が明らかになるのは私の望むところではない」


「あ、そういうことですか。であれば、直接戦闘だけで殲滅いたします」


 カミュの言わんとしていることに気付いたサリアが、目を輝かせて同意を伝える。

 方針は決まり、あとは決行するだけだ。

 集まり終えたモンスターを遠目に見ながら、カミュは大きく息を吸って配下達へ強い眼差しを送る。


「では行くか。お前達、気を引き締めろ。これから挑むのは、長くも爽快な……殺戮の(とき)だ」


 配下達からモンスターへと視線を移したカミュの口端は、配下達が気付けぬほどほんの僅かだけ喜悦に歪められていた。






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