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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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挟撃



 集まっているのは十数体のマンティコアと数十体のオーガ、そしてその他大勢を構成する数百体のコボルト。

 知性あるモンスターが集まり終えたと判断したカミュは、五名の配下を伴って佐藤の下へと歩み寄った。

 此方をジッと見据えるマンティコアにオーガ、そしてコボルトの目には、確かに一定以上の知性が宿ってるように見える。


「準備は出来たか?」


「こっちは問題ない。……それよりも、さっきより人数が増えていないか?」


「あぁ、よく気が付いたな。彼女達を呼んだ理由は、残ったモンスターの殲滅要員としてだ」


「呼んだ? あの奇妙な馬車の中にでも残っていたのか?」


 一旦馬車へと視線を移すカミュだったが、直ぐに顔を戻すと、ライオンヘッドを傾げながら目を点にする佐藤へと苦笑を溢した。


「まぁそんなところだ。ではお前達をエスタブリッシュへと案内する者を紹介しよう」


 その直後、二名の女性がカミュの横へと進み出る。


「この女性がプリクラ魔神マークⅡ、そしてこっちが石斛(セッコク)だ」


「す、凄い名前だな。それって本名なのか?」


「いや。普通に偽名だ」


「そ、そうだよな。それが本名なら親の正気が疑われるレベルだよな」


 カミュを真似た佐藤の発言に、ベンヌの方眉がピクリと上がる。


「フフッ、まぁそうだな」


「それにしてもセッコクか……。ちなみに命名の由来は?」


「英語で花の名前を付けたんだが、どうも気に入らなかったようでな。だから取り敢えず和名にしてみた」


 カミュの右隣に立つキャラケンダが首を竦める。


「セッコク……ん? もしかしてデンドロビウムのことか?」


「ほぉ、随分察しが良いな。もしかして元ネタを知っているのか?」


「ああ、世代じゃないが一応は観たからな。後はゼフィ……いや、玉簾(たますだれ)鬼灯ほおずきだろ?」


「そうだ。それと花車(はなぐるま)だ」


 カミュと佐藤はお互いに笑いあう。

 平穏だった世界からつい半月前に無理やり引き剥がされ、不本意な再構築の末に生まれ変わったこの二名。

 彼等は全く異なる状況に置かれながらも、何処か遠くで感じる何かに想いを馳せていた。


「先ほどのは撤回しよう。良い名前だ。そう、とても……な」


「そうか。では改めて歓迎しよう、佐藤。我がエスタブリッシュへようこそ!」


 キャラケンダを褒めるような佐藤の発言に、ベンヌの方眉が更に跳ね上がる。

 彼女の眉はこれ以上ないほどに上ずっており、その異常性は美女としてギリギリの危険な水域へと達している。

 だがカミュの視線がベンヌへと移った瞬間、彼女の顔には可愛らしい笑顔が戻っていた。


「ではベンヌ、後は頼んだぞ」


「はい! お任せ下さい。エスタブリッシュへの引率、完璧に遂行します!」


「フフッ……完璧か。懐かしい響きだ。璧を(まっと)うして帰る、か。面白い」


 機嫌を良くしたカミュが、右足から璧を外してベンヌへと手渡した。


「え? えぇ!?」


「壁を(まっと)うして帰るんだろ? であれば、その璧は絶対に持ち帰れ」


「は……はい! あ、あぁ……」


 表情をウットリとさせたベンヌが、壁を胸に抱き締めながら全身をブルッと震わせる。

 そしてカミュの鼻腔へと独特の臭いが徐々に漂ってくるが、彼にはその正体が全く思い当たらない。

 そんな困惑に包まれる主君を余所に、ベンヌへとそっと歩み寄ったサリアが呆れ顔で、恍惚とした表情を醸し出している幼女へと冷ややかな視線を送った。


「プリクラ……貴様、イッたな?」


「な、なんのことなのよ? 何を言っているのか全く判らないかしら」


「貴様、発情期の動物みたいな臭いがするのじゃ! 臭いのじゃ! なんでそんなに内股なんじゃあ!!」


 勢いよく目を泳がせたベンヌが、猛烈な勢いでサリアから顔を背ける。そんなベンヌの胸倉を掴んだサリアは、彼女の小さな胸をその頭ごと大きく揺さぶった。

 その勢いでガクガクと頭を揺らされるベンヌ。視線が定まらないながらも、無表情を一貫する彼女の顔が微妙に怖い。

 そんな二名を横目に、何が? とは聞けないカミュは、瞑想するように静かに目を閉じた。このあまりにも下らない空気が漂う辟易とした状況に、カミュは大きく溜息を吐いて無難に無視を決め込んだ。

 そしてカミュは思い出す。佐藤から質問されて未回答だった件があることを。


「そういえば、白旗の説明が未だだったな」


「……え? あ、ああ。それよりも、その二人は大丈夫なのか?」


 ベンヌとサリアが今にもキスしそうな距離を保って、お互いの胸倉を掴みながら互いの小さな頭を揺すっている。

 そんなにシェイクすると皺の少ない脳ミソが溶けてしまうのでは? と、密かに心配するカミュと佐藤だったが、当の本人達は今も元気に相手を揺さぶり続けていた。


「もう放っておけ。暫くすれば飽きるだろう」


「それで良いのか?」


「あぁ、構わん。それで白旗だが、この世界ではお前が思っているような意味を持っていない。ただの白い旗、それだけだ」


「なに!? そう……なのか? 俺の行動は全くの無意味だったのか?」


 ガックリと項垂れた佐藤が、自嘲気味に鼻を鳴らして下を向く。


「白い旗が意味を持つようになったのは、お前の知っている世界でもだいぶ最近のことだからな。まぁ例えるなら、商店街の(のぼり)を持ってこの場に立っていた。そんなところだろう」


「そ、そうか……教えてくれてありがとう」


 弱々しく顔を上げた佐藤が、弱々しく微笑んだ。


「あぁ、そうそう。話は変わるがリザードマンを見掛けなかったか?」


「ん? リザードマン? それは人型の爬虫類のことか?」


「そうだ。たぶんお前のイメージ通りの姿で間違いないだろう」


「いや、俺達は見ていない。アイツ等に聞けば判るかもしれないが、なにせ意思疎通がなぁ……」


 周囲に散開している多くのモンスターを見ながら、佐藤はその凶悪な顔に諦観を浮かべた。

 この世界に生まれてからまだ半月。佐藤には世界情勢の一端すら掴めていないのだ。


「流石に無理だろうな。筆談か手話でも出来れば話は別だが、そもそもアレらには知性が無いんだろ?」


「断言は出来ないが、まあ間違いないだろうな」


「知性は顔、或いは(ホー)に出ると言うからな」


 美味いことを言ったと自慢げなカミュが、ドヤ顔でフフンッと鼻を鳴らす。


「……ホーって何だ?」


「ん? あぁ、麻雀の捨牌を置くところだ」


「あー……確かに。捨牌は知性というか性格が出易いよな」


「お前も、字牌は先に切りたい派だろ?」


「そうだな。幺九牌は嫌いだ」


 肩を竦めたカミュが思い出を自嘲するかのように、過去へと視線を彷徨わせた佐藤に苦笑を送った。


「さて……ネビロス、カルラ。今すぐに阿呆共を呼び戻せ。何なら後頭部を叩いても構わん」


「え!? ですが……」


「カルラ、私の命だ。思いっ切りやっても良いぞ?」


「は、はい……」


 恐々という表情でお互いの顔を見つめ合ったネビロスとカルラが、いまだに胸倉を掴んで押し問答を続ける二名の背後へと移動する。

 そして未だに何かを叫び合っている二名の後頭部を思いっきり叩いた。


 パァン! ガチッ!


 それはもう、そこまで強くなくても良いんじゃないか? とカミュが思うほどの勢いだった。

 そして少女と幼女はお互いの唇と歯を重ね合わせながら目を見開く。

 愛よりも憎しみが勝る同輩を凝視すると、二名はやっと現実を受け止めて大きく飛び退いた。


「う、うげぇー!! ぺっ! ぺっ!! き、汚いかしら! 不潔なのよ!!」


「な、何を言うのじゃ! 我の方こそ耐えられんわ! この阿呆が!! 死んで詫びるのじゃ!!」


「お前達、静かにしろ……。接吻で愛も深まっただろう? もう少し仲良くしないか」


「で、ですが、馬鹿と唇を重ねさせるなんて酷いですぅ」


 首を竦めたベンヌが抗議の視線を投げ掛ける。


「だ、誰が馬鹿なのじゃ! この阿呆が!! わ、我の唇は穢れてしまいました。カミュ……シューベルト様のその唇で消毒して頂かなければなりません!」


「お前……天才かしら! わ、わらわの唇もカミュ……シューベルト様のその美味しそうな唇で清めて下さいぃ!」


「……石斛(セッコク)。実に酷な命令になってしまうが、お前の唇で彼女達の唇を清めて――」


「「間に合ってます!!」」


 驚きに目を見開くキャラケンダを遮るように、息ピッタリの二名が声を揃えて辞退を申し出た。

 それはカミュに驚きを与えるほどの見事なシンクロだった。やはり、唇を重ねると仲が良くなるのだろう。

 そんなことを考えながら、カミュは呆然と佇む佐藤へと振り返った。


「さて、待たせたな。ではお互いに行動を開始しよう」


「あ、ああ。そっちの準備は良いのか? ……色んな意味で」


「心配させてしまったが、此方は問題ない。食糧も既に渡してあるし、足りなければ彼女達が狩ってくれるだろう」


「そうか。何から何まで悪いな。この恩は必ず返す」


 真剣な眼差しの佐藤が、姿勢を正して大きく一礼する。

 カミュ達の様子を呆れ顔で見ていた鈴木も、佐藤に倣って小さな一礼を見せた。


「礼などいらん。気にするな。ではプリクラ、そして石斛(セッコク)。彼等の案内を頼んだぞ」


「承知しました。必ずや無事に璧を持ち帰ります」


「うむ、気を付けてな。石斛(セッコク)、色んな意味で大変だろうが、よろしく頼むぞ」


「畏まりました。プリクラ様のことはお任せ下さい」


 うむ、と大きく頷いたカミュへと大きく一礼して、ベンヌとキャラケンダはモンスター達と共に行動を始めた。

 カミュへと大きく手を振る佐藤。その横でベンヌとキャラケンダを怪訝そうに見つめる鈴木。そして彼等に続く知性あるモンスター達。

 彼等はベンヌの後を追い駆けるように、一路北西を目指して歩みを進めて行った。



 その場に残ったのは、カミュとサリア、それにネビロスとカルラの四名。更にはその場に放置されて右往左往する大量のモンスターの姿だ。

 不安気な表情でベンヌ達を見送ったカミュは、改めて三名へと振り向き今後の方針を伝える。


「では、お前達には周囲に散開するモンスターを駆逐して貰う。勿論判っていると思うが、目的は殲滅。そう皆殺しだ」


「お任せ下さい」


 怪しげな瞳でニヤリと口端を上げたサリアが、胸を張ってその自信のほどを披露した。


「それと、余計な一言かもしれないが……」


「な、なんでしょうか?」


「もう少しお淑やかにしないと、胸が大きくならないぞ?」


「……え"!?」


 目を見開いたサリアが、困り顔のカミュへググッと近寄る。


「ほ、本当ですか? それは本当にございますか!?」


「お、落ち着けサリア、落ち着くんだ。よく考えてみろ。私には胸が無い、だがお前達にはある。それが何故だか解るか?」


「そ、それは……我々が女性だからでしょうか?」


「そうだな、その通りだ。では男には無く女性にだけあるものとは何か……そう、それは女性らしさだ!」


 カミュの堂々とした断言を聞いて、サリアの頭上に幻の落雷が直撃する。

 目と口を大きく開けたサリアは一歩だけ後退り、ワナワナと震えながらカミュの表情を伺った。


「で、では……ネビロスやカルラの方が我よりもお淑やかだと言われるのですか? だから我よりも胸が微妙に膨らんでいる……と?」


「では逆に聞きたいのだが、ネビロスとカルラはお前よりも荒々しいか?」


「いえ……それはありません」


「ではそういうことだな」


 サリアから視線を移したカミュが、ネビロスとカルラの胸を気付かれぬようにそっと伺う。

 そして言葉には出さずに、彼女達の胸の大きさを脳内でそっと呟いた。それは小さ過ぎず大き過ぎず、手の平にすっぽりと収まる大きさであり、例えるなら可も無く不可もなくといった無難なもの。

 だがそのサイレント視姦も無駄な努力に終わる。エロオヤジの下卑た視線など、女性達には全てお見通しなのだ。


「で、では、お淑やかにしていれば、キャラケンダのようにバインバインに成れるのですか!?」


「可能性はゼロではないし希望もある。夢は持ち続けるべきだ!」


「は、はい! これでベンヌに大きな顔は……」


 目を輝かせたサリアが、悪い顔で独り言を呟く。

 最後の方は声が小さ過ぎて何を言っているのか判らなかったが、まぁ考えているのは間違いなく下らないことだろう。

 そう断定したカミュは即座に話題を切り替える。


「では話を戻すぞ。おそらくだが我々が攻撃を仕掛ければ、モンスター達は逃げることなく反撃してくるだろう」


 胸に手を当て続けるサリア以外の二名が、カミュの言葉にウンウンと頷く。


「だが我々が全てを倒してしまっては、人間達も面白くは思わないだろう」


「そうなのでしょうか? だとしても、人間如きに御身が気を遣われる必要はないかと……」


「まぁカルラの言うことは尤もだ。だが彼等は面子というものに非常に拘る。彼等が無能だと証明するのは、この場面では無いということだ」


「そ、そうでしたか。浅慮でのお耳汚し、申し訳御座いません」


 カルラのいつも溌剌とした笑顔が鳴りを潜める。そして自身の不明を詫びるように大きな一礼を見せた。


「気にするな。あくまでも私個人の考えであり、お前が間違っていると言う話ではない」


「はい。ありがとうございます」


「では各々の持ち場についてだ。この南門をサリア、東門をネビロス、そして西門をカルラが担当しろ。北門は放置で良いぞ」


「カミュ様はどちらでお待ちになられるのですか?」


 やっと現実に戻って来たサリアが小首を傾げる。

 いつもよりちょっと内股気味に見えるのはカミュの気のせいだろうか?

 そんなサリアに視線を定めたまま、カミュは親指を立てて後ろ向きに城を指差した。


「私は城に戻って挟撃の話を進めてくる。その後は馬車で待機だな。では魔族諸君、殲滅の時間だ」


「「「はい!」」」


 片方の口端を上げて喜悦を滲ませるカミュを前に、女性三名が敬意に溢れた大きな一礼を見せる。そしてそのまま振り返ると、迷いの無い歩みで目的地へと向かって行った。

 サリアと別れ東西へと歩みを進めるネビロスとカルラだったが、彼女達の歩く姿が何故か女性らしさに溢れている。

 だがカミュには何故そう見えるのか全く判らない。暫く首を傾げていた彼であったが、思考を諦めたのか城へと振り返って歩みを進め始めた。


「あははっ! 死ね! ゴミども!」


 カミュが城門へ到着すると同時に、サリアの狂声が辺り一帯に響き渡る。

 彼女の周りでは鮮血が飛び交い、剣戟が木霊し、そしてモンスターの首が宙を舞っていた。


「責任者は居るか!?」


 城壁の上へと視線を移したカミュが、名前も知らぬ青年へと大声で呼び掛ける。

 剣戟は今や東と西からも聞こえ始めていた。此処からは見えないが、おそらく東門と西門でも戦闘が始まったのだろう。

 そんな中、少年の声に反応した兵士が、城壁から顔を除かせて首を捻りながら少年を誰何した。


「お前は誰だ!? というか、責任者とは誰のことだ!?」


「私の名前はシューベルト! 責任者とは青白い優男のことだ!」


「青白い優男? ……それって――」


「――ホイスディンク殿のことだろう。シューベルトよ、約束は守られたということか?」


 偉そうな中年男性が兵士を遮って一歩前に進み出る。


「如何にも。それで、お前は誰だ?」


「私はこの団の副団長だ。というかお前が約束したのは、モンスターとの話し合いじゃなかったか? 何故戦闘が始まっているんだ?」


「知性のあるモンスターは隔離してある。今、あの場に残っているのは、ただの烏合の衆だ」


 腕組みをして堂々と答える少年に、副団長は目を丸くする。

 数千のモンスターを烏合の衆と断言するあたり、彼の思考はやはり常軌を逸しているのだろう。

 そんな残念そうな視線を送る副団長の横から、件の青年が顔を覗かせた。


「――どうしました? 副団長」


「あ、ホイスディンク殿。そこにシューベルトが来ているぞ」


 副団長の横からひょっこり顔を出したローレンツが、カミュの無事な姿を視認して目を見開く。


「シューベルト、無事だったか!」


「別に戦闘をした訳ではないからな。特に問題はない」


「だが君の仲間は戦闘に入ったようだぞ? 彼女達は大丈夫なのか?」


「それも問題は……いや、今は問題無いが、時間の経過とともに窮地に立たされるかもしれないな」


 ローレンツが心配そうに訊ねてくるが、それはカミュを心配したものではないだろう。

 それはつまり戦闘に入った女性達への心配であり、その真意とは彼女達の敗北が自分達に危険を齎す可能性があることを憂うもの。

 そんな予想通りの彼の表情と感情に、カミュは用意していた回答をそっと送っていた。


「きゅ、窮地!? 倒されるのではなく、窮地に立つだけで済むのか!?」


「まぁ、死にはしないだろう。だがお前達が手伝ってくれれば、モンスターの殲滅は容易だろうな」


「手伝うとは?」


「一言で言うなら挟撃だ。北門以外の三つの門から、騎兵を軸とした機動部隊を出撃させてくれ」


 少年から出された作戦は、あまりにも大胆であまりにも身勝手なもの。

 ローレンツは更に目を見開いて大きく身を乗り出した。


「その作戦に勝機はあるのか!?」


「ある! 完璧な勝利だ。フフッ……そう、完璧なものだ。それに我々だけでモンスターを殲滅してしまっては、お前達にとって都合が悪いだろう?」


「……一考の価値はある、か? うーむ、だがなぁ……」


 顎に手を乗せたローレンツが、眉根を寄せながら戦闘中の三箇所を順次視界に納める。

 モンスターの首は血飛沫とともに、今も順調に胴から飛び虚空を舞っている状態だ。

 その様子を視認しながら彼は、眉間に皺を寄せて城へと振り返った。


「そんなに時間的な余裕はないぞ? 判断までの時間が長ければ長いほど、戦闘への参加は限定的なものになるだろう」


 だがカミュはローレンツが思考に必要な時間を与えない。


「くっ……! 副団長! 今すぐにバイエルン閣下の下へ――いや! 今すぐオルトロスと騎馬隊の準備を!!」


「何!? ホイスディンク殿は独断専行で団を動かすというのか!?」


「閣下への事後報告は私が直接行います! どうせ私は戦闘では役に立たない! 副団長は彼女達と共にモンスターを殲滅して下さい!!」


 魂を震わせるようなローレンツの叫びを聞いてもまだ、副団長はその表情に迷いの色を浮かべる。

 勝ちさえすれば何の問題もない。だがそれが困難であることは、経験豊かな彼こそが一番判っているのだ。


「幸運の女神にも、勝利の女神にも後ろ髪は無いぞ? 決断するべき時に決断してこその男。そうは思わないか?」


「ぐっ……小僧に諭されるとはな。判った! オルトロス、及び騎馬隊にて三つの門から突撃を敢行する! 閣下への説明は頼んだぞ!」


「ご承諾ありがとうございます! では私は今直ぐに閣下の下へと向かいます!」


「シューベルト! 我々の勝利で間違いないのだな!?」


 鬼気迫る表情の副団長が、不安を解消すべくカミュへと熱い視線を送る。


「心配するな! お前達の勝利と栄光は既に確定している!」


「判った! 従獣士にオルトロスの準備を! そして騎馬隊に城門前での待機を伝えよ!」


 カミュから兵士達へと視線を移した副団長が、未だ不安に苛まれる配下達へと力強く戦闘準備の命令を下した。

 その様子を見守っていたカミュは、副団長がすぐさま城壁の上から姿を消すのを見届けると、馬車からバイコーンを切り離して北へと向かわせた。

 勿論、風の範囲魔法の行使を容認した上で、だ。


 それから四半刻後、犬のような狼のような紫の体躯に獅子の頭を乗せたオルトロスが城門から飛び出すと、それに続いて甲冑に身を包んだ騎馬隊が三つの門から同時に吶喊を開始した。

 目指すは女性達が戦闘を続ける城外の戦場。これから手にするのは自身のプライドと勝利の栄光。

 気炎を上げ続けるそんな彼等を、カミュは客車のみとなった馬車の、最奥の席から一人で鑑賞していた。吶喊により混乱に陥るモンスター、必死に敵を分断する騎馬隊、そしてそれを指揮する副団長の懸命な姿を。






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