身請けでございます
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AUTHOR:投稿後に前話を見て気付いたんですが……すいません、どうやら投稿日を一日間違えていたようです。痛恨のミス。
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夕食を平らげた後、全員で奴隷商人の店へと足を運ぶ。
既に日が落ちているので、大通りはともかく、狭い路地裏などはカンテラの明かりを頼りに歩くしかない。夜間とはいえ、大手を振って光煌魔法を使うわけにも行かないからな。
シルバーレストの近くにある店で二つほどカンテラを買い、四姉妹と奴隷組で一つずつ持って進む。俺には『梟の目』というスキルがあるので、闇の中でも視界が確保されていた。
(店の場所は、南側の貧困区か……)
チワ達の話とレーダーに表示されている奴隷商人の位置。それを合わせて考えれれば、店自体の特定は容易だ。
合法とはいえ奴隷の扱いというものはやましい部類に入るらしく、その場所はレガル外周に近い貧困区、つまりスラム街に位置していた。治安が悪く、正直なことを言えば、四姉妹を連れて歩きたくない場所だ。
実際に行ってみて、廃墟のような家々が並ぶ小道を目の当たりにすれば尚更だった。
「臭いわね……」
「まぁ、そういう生活水準なんだろうな」
泥酔から(俺の魔法スキルで物理的に)復帰したアリサが、心底嫌そうに顔をしかめる。
臭いもさることながら、色々なところから粘つくような視線が向けられてくるのがうっとおしい。
狭い路地裏を進むたびに視線の数が増えている。どうやら家屋の中や屋根の上からも見られているらしいな。
「おっと」
歩き続けていると、前方から痩せた少年が走ってきた。身なりも貧相だ。
わざと当たる気満々の動きだったので、おそらくスリ目的だろう。俺がギリギリで回避すると、勢い余った少年が転倒した。
四姉妹とチワ達も狙いが掴めているらしく、誰も助け起こしたりなどはしない。
「すまない。次は気をつけてくれよ」
「少年、体捌きがなっていないぞ」
実際にスられたわけでもないので見逃してやろうか。
そう思いながら横を通り過ぎた瞬間、転んだ少年が大きな悲鳴を上げる。
「いってええええぇ!!」
溜息をついて振り返れば、少年が膝を押さえて蹲っていた。
まるで骨折したかのような叫びだが、彼の体力は1たりとも減っていない。
無傷でこれだけの悲鳴が出せるのなら、スリではなく役者として生きられたんじゃないだろうか。
「アッシュ! てめぇ、何しやがった!」
叫びを聞きつけたのか、近くの路地から汚い身なりの大男が姿を現す。
後へ続くように、道の両脇に立ち並ぶ薄汚れた家からも数人の子どもが出てきた。姿から察するに、一番年上でも十二か十三歳程度の年齢だろう。
全員が少し前のチワ達のような服装をしているあたり、彼らの生活レベルは推して知るべきか。
「何しやがったって……俺達は何もしていないよ。そこの少年が勝手に転んだだけだ」
「嘘つくんじゃねぇ! あんなに痛がってんじゃねぇか!」
「いてえええぇ! 兄貴ぃ、いてぇよぉ!!」
まさか異世界に来てまで当たり屋に遭遇するとは思わなかったな。
さて、どうしようか。
「そんなに言うなら治癒魔法で治すよ。足を出してくれ」
「「えっ!?」」
大男と少年の呆けたような声が聞こえる。
元より数十人に一人という割合の魔法師。その中でも治癒属性の魔法スキルを扱えるとなれば、さらに人数は絞られてくる。
ゆえに希少価値が高く、多少の修練を積んだ治癒魔法師は職に困ることなどない。それこそ、自らがスラムに顔を出すことなく使いを走らせる程度には豊かな生活ができるらしい。
というよりも、貴重な治癒魔法師に危険な真似をさせないよう、国や職場が多めの給金を支払っているのだ。
そういった背景がある以上、治癒魔法師がスラム街を歩くというのは予想できないことなのだろう。
少年と男の顔が引きつるのも無理はない。
「遠慮するなよ。足を折ったんだろ?」
「……大丈夫。リュウさんは、凄腕の治癒魔法師。骨折は数秒で治る。治らない病気も無い」
フォローするベルン。その口元が少しだけニヤついていた。
ベルンの言葉を聞いて、後ろの獣娘達がウンウンと頷いている。彼女らは『ヴィーナス・ヒール』を見た事がないはずだが、俺なら何でもできると思っている節があるからな。俺に向けて神様仏様とかトンデモ発言をするくらいだし。
などと至極どうでもいいことを考えていると、目の前で動きがあった。
薄汚れた大男が我に返り、俺に怒声を浴びせる。
「そ、そんなこと言って誤魔化す気なんだろう!」
「そうだそうだ!」「早く金を出せ!」「痛い目見るぞ!」
大男に続き、子ども達からも怒声が聞こえてくる。
俺達を取り囲んだ彼らは、木製の小さな棍棒を持っていた。
「女を置いて行け!」「折られた骨の仇だ!」
外見からして十歳程度の男の子が女を求めるとは、何ともまぁ教育のなっていないことで。
それと、そこの転倒少年。普通に立ち上がるんかい。骨折って設定はどこへ消えた。
「あらあら~、治してもらわなくてもいいのですか~?」
「うるせぇ!!」
シェリスさんが心配そうな顔(もちろん演技)をして少年に問いかけると、返ってきたのは怒声だった。
お粗末な設定にも程があるだろう。滑稽すぎて俺も笑いが出てきたぞ。
そもそも最終的に暴力で脅すなら、別に建前を作らなくても良かっただろうに。
設定や策が甘いのは初犯だからか、それとも教育レベルが低いからか。
スラム街で生活すると子ども達までこんなことをしなければ食っていけないのだろうか、と欝な気分になる。
「へへっ。どうせ殺っちまえば問題ねぇんだ! おいお前ら。この男を始末して、女どもは楽しんでから売り払うぞ!」
「「「はい!」」」
……もっとも、今の一言で同情する気はゼロになったがな。
「リュウ、待って」
どいつから玉を潰してやろうかと思案する俺。その隣に、アリサが進み出てくる。
背後ではツバキさんが腰に差した剣をチラつかせることで左右を牽制し、チワ達が後ろの子ども達へと睨みを利かせていた。
「何だアリサ。悪いが、今の俺に余裕はないぞ」
四姉妹やチワ達に手を出すと宣言されたのだ。
相手が生活に困った人間、かつ光物を出していないから強姦未遂の仕置きで済まそうとしているのだが、黒い感情が湧き上ってきてしまえばどうなるか分からない。
緋色の風や山賊の件を含め、俺はまだ殺人を犯したことはない。が、実際に手を出されてしまえば迷うことなく首をへし折るだろう。子どもであろうが例外なく命を奪ってしまうかもしれない。
「それだけ大切に想ってくれるのは嬉しいけどね。あたし達だって、ただ守られるだけのお姫様じゃないわ。それに……」
隣に立つアリサの顔を見る。
彼女の瞳は真紅に輝き、炎のような怒りに燃えていた。
こころなしか、背中に陽炎のような揺らめきまで見える。
「チワとシャム、キキに手を出そうとした下種野郎が相手よ。怒っているのはリュウだけじゃないの」
そう言いながら、アリサが大きく一歩を踏み出した。
危険だ。今の彼女は焔精霊装を発動していない。
俺は諌めるべく口を開くが、シェリスさんに肩を掴まれた。
「あの姉様は止められません。それに、わたしも止める気はありませんので」
よく見れば、シェリスさんの額に青筋が浮かんでいる。
笑顔なのに変わりはないが、普段のぽわぽわしたものではなく、どこか薄ら寒い恐怖を感じるような笑みだった。
彼女に気をとられている数秒の間で、アリサは汚い身なりの大男へと近づいていく。
「お? 姉ちゃん、わざわざ自分から俺の相手をしてくれるってのか? なら、」
「うるさい」
アリサが怒りを感じさせる声を出した直後、大男の腹部に拳が突き刺さる。
メキメキと耳障りな音を立てて体内が破壊され、アリサの倍近くある身体が数軒先の家屋まで吹き飛んでいく。
地面のゴミを巻き込みながら土埃をあげ、最後には轟音を発して壁にぶち当たった。
「一応だけど手加減はしておいたから。一週間は流動食しか食べられない身体だけどね」
右腕を突き出して残心をとりながら、アリサはそう言った。
そりゃ十メートル以上も吹き飛ばされれば、そうなってもおかしくないだろう。
いや、その程度でよく耐えたというべきか。普通なら生命が危ぶまれる。
「命に別状は無いわ。そういう殴り方をしたもの」
「まぁ、それなら……」
どういう理屈かは分からないが、近接格闘のスペシャリストが言うのなら大丈夫なのだろう。
よく目を凝らしてみれば、ピクピクと痙攣する程度だが生きてはいた。焔精霊装を起動していたら手加減ができず、間違いなく死んでいただろう。
そういえば、腹部へ衝撃を受けたというのに胃液を吐いていない。もはや技術とかそんなレベルではない気がする。
「「「…………」」」
さて、残るは子ども達だ。
屋根の上にいる気配を計上すれば、人数は十五か。
アリサの剛拳を見て、恐怖のあまり硬直しているらしい。
「ほら、来なさい。あんた達の方が人数は上なのよ」
アリサが挑発しても、動く気配はない。
たとえ人数では勝っていようが、彼女に殴られれば致命傷に近い傷を負うことになる。
食うにも困る身が怪我の治療をする余裕などあるはずもなく、幾人かは取り返しのつかない事態を生むかもしれない。
そうなる確率が一番高いのは尖兵であり、誰しもが犠牲者となるのを嫌がった。
「殴られたくなければ、今すぐに武器を置きなさい。女だと思って甘く見ていると……死ぬわよ?」
その言葉に従わない者は、誰一人としていなかった。
結局、襲ってきた子ども達に少しばかりの銀貨を与えてから逃がすことにした。
彼らのような子どもは、アリサが殴り飛ばした男がいたからこそ徒党を組めたのであって、普段はスリやタカリ程度の度胸しかなかったらしい。最初は脅されて協力していたのだが、奪った金銭を分けてもらう内に興が乗ったのだとか。
しかし、どんな理由があろうとも甘い汁を吸っていたのに変わりはなく、多少の罰は必要だと思ったところで、シェリスさんから待ったがかかった。
「ここは、あえて恩を売りましょう。彼らを味方につけるのです」
主な怒り成分は、煽動していた大男をアリサが殴り飛ばしたことで解消されたらしい。
彼女の言うところによれば、裏の情報が集まるスラムだからこそ利用できるとの見立てだ。
その言葉に一理あったらしく、女性陣は概ね賛成派だった。
となれば、俺の心情はどうあれ反対することなどできない。好き好んで子どもの将来(繁殖的な意味で)を奪いたくはないしな。
この判断が悪手となって返ってこないことを祈るとしようか。
□
少年達を解放してから数分後。
相変わらず粘つくような視線はあるのだが、この程度ならギルドや街中と変わりない。
そのため、先ほどの一件以降は問題もなく店へと到着した。
「……ここで間違いないのか?」
「はいなのです」
「知らなかったら誰も来ないよねぇ」
俺と四姉妹は、目の前にある建物を見上げた。
そこは周囲と変わらない廃墟のような一軒家であり、言われなければ気付かずに通り過ぎていた可能性が大きい。明かりがついているので、辛うじて人が住んでいると分かる程度だ。
確かに『カデリウス奴隷商会第二支店』という看板を掲げてはいたものの、文字がほぼ消えかかっている。一見しただけでは何の変哲もない木の板程度にしか思わないだろう。
「後ろめたい商売ってのは分かるけどね」
「……ん」
「ふむ。仕方のないことなのだろう」
「ですね~」
そう言いながら、ガタつく扉を開けて普通に入っていく四姉妹。
お前ら度胸ありすぎだろう。幽霊には怯えるくせに。
「大丈夫ニャ。ご主人しゃまもついて来るのニャ」
「あ、ああ……」
外観からして不安だが、後ずさってもいられない。
俺も後に続いて入っていくと、小さな居間に数人の男が待機していた。
光源が俺達のカンテラと小さな蝋燭しかないので分かりづらいのだが、全員揃って目つきが鋭い。鷹かと見紛うほどだ。
「カデリウス奴隷商店第二支店へようこそ。何の御用件でしょうか」
男達の一人が近づいてくる。
言葉遣いは丁寧なのに、鋭い目つきで台無しだ。
俺が人事担当なら即行で配置換えをするだろう。できれば美人の女性がいい。
「奴隷の購入に来たのよ。はい、これギルドカードね」
余計なことを考えているうちに、アリサがギルドカードを渡していた。
全員の身分証明が必要らしく、彼女に続いて全員がカードの提出を求められる。
チワ達にもカードの提出を求め、奴隷用の首輪を見て驚いた一幕もあった。
「……ほうほう。なるほど」
男は各々のギルドカードを見ながら頷き、特に俺のカードを凝視してから返却した。
やめろ。尻に悪寒が走る。
「入店は問題ない。ついて来い」
そう言って案内されたのは、トイレマークが描かれた扉。
ますますもって尻穴の危機を感じる。背後をとられないよう気をつけなければ。
「……つん」
悪戯っ子のベルンが何かを感じ取ったのか、魔女帽子の先で俺の臀部を突いてきた。
おいおい、危うく本気で神聖魔法をぶっ放すところだったぞ。
緊張感を取り払ってくれたお返しに、小さな身体を捏ね繰り回すことにしよう。
「……ふにゅぶぎゅうにゅにゅにゅ」
柔っこいな。
「何やってんの。早く行くわよ」
「うむ。うらやま……ではなかった、けしからん」
ベルンを抱きかかえて撫で回していると、アリサとツバキさんが半眼で睨んできた。
シェリスさんはうふふ~と笑い、獣娘達はベルンを羨望(?)の眼差しで見つめている。
そんなこと言われてもな。
「ここトイレ……じゃない、のか」
扉の中にあったのは、地下へと続く石造りの階段だった。入り口が狭いだけで、階段自体は数人が横に並べる程度の広さがある。
偽装にしては稚拙すぎるから、単純に家屋の改築費用を惜しんだのだろうか?
商売については、迷宮前で奴隷の貸し借りをしているのだし隠す意味もないだろう。非合法なら非合法なりに最初から最後まで全部裏で取り行うはずだ。
「あえて中途半端にすることで、逆に疑いを晴らしているのかもしれませんね~」
「そういうもんなのか?」
「そうですよ~。完全に隠しきっては疑われ、表に出しすぎても要らないちょっかいをかけられますからね~。虚構を織り交ぜた上でどっちつかずなのが、実は一番対処に困るのですよ~」
石造りの階段を下りながら、シェリスさんが小声で言った。
その辺の駆け引きは、付け焼刃スキルセットの俺よりも上だろう。微妙な知識であれこれ考えても仕方がない。
そう思いつつ階段を下りていくと、小奇麗な扉に突き当たった。
「いらっしゃいませ。本日は奴隷の購入で当店を利用されるとの話ですが……どのような人物を御所望ですかな?」
扉を開け、地下牢と応接室を足して二で割ったような場所に入ると、中央で向かい合うようにして設置されたソファには一人の男が座っていた。
先日の中年奴隷商とは別の人物だったが、商店を一人で回しているはずもないので当然といえば当然だ。
壁の照明(おそらく迷宮の休憩部屋にもあったライト鉱石)に照らされた容姿を見たところ、歳は四十後半あたりか。清潔にしてはいるが、好色そうな目つきでアリサ達を見ているため不快感が強い。
舐める様な視線に仕事柄も加えると、あまり良い印象は抱けない男だった。口には出さないけどな。
それに、元より奴隷を買いに来た人間がとやかく言える身ではない。心の中で愚痴をきく程度なら許されるだろう。
俺達をソファへ案内している間も、相手の目つきは変わらない。
男の視線に晒されている時間を少しでも短くしようと、ツバキさんが率先して口を開いた。
「購入に関してなのだが……以前貸与された、この三人を買いたい」
その言葉で奴隷商がチワ達に視線を移して、すぐさま目を丸くした。
綺麗に整えられた三人は、まるで良い所のお嬢様であるかのように可愛らしいからな。首にある鉄の枷を除外すれば、奴隷であるとは思えないだろう。
貸し出した商店側ですら、奴隷であることに気付かなかったほどだ。
つまり何が言いたいかと聞かれると、返答は「ビバ美幼女」の一言に尽きるのだ。照れてる獣娘達がカワユスギル。
「これはまた、随分と入れ込んでいるようですな」
チワ達の首輪を確認し、手元の書類と照合させながら奴隷商が言った。
ふふふ、そうだろうそうだろう。
やはり女の子は着飾ってこそだ。鉄の首輪も消えたら完璧になるだろう。
「ふむぅ……これだけの逸材となれば……」
おっと、奴隷商が何やら悩み始めたぞ。
チワ達が不安がっているし、話がマイナス方向に進まないよう修正するとしようか。
俺は身を乗り出して、奴隷商の思考を遮るように話しかける。
いくつか世間話を挟んでから本題に入った。
「それで、白金貨何枚なら売ってくれますかね?」
交流スキル『口八丁』の出番だ。
ポイントを使って最大スキルレベルにまで強化しているため、ある程度なら話題の誘導が効く。完全に主導権を握るのは無理だろう。おそらく奴隷商の『口八丁』レベルも高い。
「そうですな。白金貨で済めばいいのですが……なにぶん奴隷を買う方は容姿を基準にする者が多いのです。競争が激しくなるかもしれません」
つまり、チワ達の可愛らしさを盾にして値段を吊り上げる気なのか。
これは否定できない。三人が可愛いのは事実だからだ。
「まぁそれには同感ですね。今まで三人をぞんざいに扱っていた者の発言とは思えませんが」
スキルに従って舌を動かすが、これで良いのか不安になってくるな。
どう考えても挑発だ。こんなもん、奴隷商の眉が歪むに決まっているだろう。
「これは痛いところを突かれますな。しかし、私共も商人ですので。気付いたのであれば利用しなければなりません」
「へぇ。この子達の魅力が利用できると? 俺が思うに、あなたでは絶対無理でしょうね」
「……それはどういう意味ですかな?」
怪訝に思う奴隷商へ、俺はニヤリと笑いかける。
「この子達は……奴隷として三食の飯と寝床を貰ったところで、その魅力が顔を覗かせることは絶対にない。あなたの下に戻った瞬間、この子達の笑顔は曇り、家族と引き離された絶望で痩せこけるでしょう」
そう言って、隣に座ったチワのフワフワモフモフ犬耳を撫でる。
彼女は恍惚とした表情で小さく「家族……」と呟いているが、それは後回しだ。
「で、最初の質問に戻りますけど、白金貨何枚なら売ってくれますかね?」
俺はもう一度、奴隷商に問いかける。
相手はまだ頭を捻っていたが、俺も同じだ。口八丁スキルの意図が分からん。
「そ、そうですな。売るとすれば……一人あたり虹金貨二枚かと」
奴隷商の言葉を聞いて、チワ達だけでなく四姉妹の顔も歪む。
予想外の金額に、誰かが小さく舌打ちをした。
<これは、マズいわね……。大丈夫なの?>
<大丈夫だと思うんだけどな。俺も少し不安になってきたよ>
アリサから『エンゲージ・シンパシー』による会話が届く。
俺達の所持金は、今日の昼までであれば虹金貨三枚にギリギリ届かない程度だ。一人に虹金貨一枚以上の値をつけられてしまうと、三人を購入することができない。
「奴隷の相場は、素材運搬用が白金貨二枚だったと記憶しているが?」
山賊退治前に色々と事前情報を集めた際、奴隷に関することも調べていた。
聞いた限りでは、素材運搬の獣人奴隷が一番安く、高くても白金貨二枚程度。戦闘用の獣人奴隷は実力にもよるが、白金貨五枚から虹金貨数枚までと幅広いので除外する。
そして最後。性奴隷としての獣人が、虹金貨一枚からだったはずだ。
「つまり、そういった需要があると?」
「無いとは言えないでしょうな」
奴隷商は、おめかししたチワ達を見やる。やめろ、三人が震えているだろ。
飾り立てた事がマイナスに出たわけだが、別に後悔などはない。予想できたことだ。
女性が着飾るための金をケチるくらいなら、陰でいくらでも稼いでやるさ。
ましてや今日は三人の門出。元より金を惜しむ気はゼロだ。
「うーん。今日はひとまず先約しておいて、後日に金ができたら支払うというのは?」
「できなくはありませんが……より高い金額で買取られる方がいれば、そちらを優先させていただくことになるかと」
つまり、今すぐここで支払う以外の術はないということだ。
高い金額で買い取る人間がいないというパターンも有り得るが、俺はその可能性を即行で否定する。
こんな可愛らしいチワ達が売れないわけがない。性奴隷の美幼女が売れないはずがない。
「じゃあ……買い取るなら、今すぐ虹金貨二枚の即金で払うしかないってことですか? 合計虹金貨六枚から増えもしないが、減りもしないと」
「その通り。当然ですな、骨貨一枚たりとて値引きはできません。貸し出し期間の残り一日分を手数料としてサービスさせていただく程度です。即金が用意できれば、すぐに売って差し上げるのですが……」
奴隷商の言葉で、四姉妹が項垂れる。
必要金額は日本円にして六百万だ。所持金が足りない以上、どうあがいても買うことはできない。
奴隷商は厭らしい表情を浮かべ、四姉妹とチワ達の表情が沈む。
だが、俺だけは違った。
獲物が罠にかかったのだから、笑うに決まっている。
「分かりました。なら、今すぐ虹金貨六枚を支払いましょう」
アイテムボックスから虹金貨六枚を取り出し、ローテーブルの上に置く。
それを見て、チワ達はおろか四姉妹まで驚愕に目を見開いた。
奴隷商? 驚きすぎて顎が落ちているよ。
「ちょっ、あ、あんた……何で……!?」
おお、アリサが三日ぶりの『あんた』呼び。
それだけ動揺しているということか。
まぁ今はチワ達の売約が先。説明は後回しだ。
「さて、つい先ほど言いましたよね。合計虹金貨六枚から増えもしないが減りもせず、即金が用意できれば売って差し上げると」
「……くっ」
奴隷商が正気を取り戻し、俺の言葉を聞いて顔をしかめる。
先ほどまでのやり取りは全て、この結末を迎えるための布石。やるじゃん、口八丁さんよ。
あえて白金貨と貨幣単位を口に出すことで、そもそも「売らない」という選択肢を潰す。スキル補正つきの挑発で判断を鈍らせる。アリサ達には金を稼いでいたことを黙っておき、目に見える形で動揺を伝える。そして、最後に確約を引き出させる。
値段を吊り上げようにも言質を取ってしまっては不可能であり、言葉通り金を用意した俺達に売る以外の選択肢は無い。
嘘をつこうにも、真偽官を召喚されてしまえば否定することができない。
何より、こういった商売で前言を撤回することは、自らの信用を削り取るに等しいのだ。
嫌々ながらも契約書を用意する奴隷商を尻目にしつつ。
俺は獣娘三人を腕の中に引き寄せ、柔らかい耳を撫でた。
「これで、三人は今日から家族だ。奴隷だ主人だので遠慮することはない。何があっても死ぬまで一緒だからな?」
チワ達は腕の中で目を白黒させていたが、状況を理解すると俺の胸に顔を埋める。
静かに鼻を啜る音は聞こえなかったことにしてやろう。例えそれが嬉し泣きであってもだ。
女の子は笑顔でいるのが一番だからな。
「リュウ様。どういうことか説明してもらいましょうか?」
「あたし達が納得するまで、その虹金貨の出所を吐いてもらうからね」
「今はまだ待つべきだ姉上。ベッドの中で寝物語に聞けば良いだろう」
「……逃がさない」
奴隷商人よりも手ごわそうな相手を忘れてた。どうしたもんかね……。
せめて、チワ達を身請けした日に腹上死といった事態は回避するとしようか。
そう思いながら、俺は手中のぬくもりを感じていたのだった。
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AUTHOR:作中の4日間に40話かける超絶的な進みの遅さ。それが私クオリティ。
それと、80000PV(投稿時点で79800だったのは些細な問題。いいね?)、10000ユニーク、200ブックマーク達成しました。当初は、月にユニーク100人いければ上出来かなと思っていたのですが……。こんな稚拙な文にお付き合いいただいている方、本当にありがとうございます。エタらないように頑張ります! まぁここまで続けてきて今更エタれないというのが本音ですけどね。
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