最初の晩餐でございます
浦風の浴衣姿がストライクゾーン過ぎて、見るたびに息の根が止まる作者です。
確実にチワ達を仲間にするため、少しばかり金稼ぎした後。
俺が冒険者ギルドに山賊達を連行し、窓口のクレアさんに「山賊団を捕まえてきたから後処理はヨロシクねー」と伝えたところ、
「リュウタロウ氏、少々お時間よろしいですね」
すぐさま某エルフの怖い人が出てきて彼女の執務室へと引っ張り込まれた。疑問文でないあたり、強制連行する気満々ですね。
前と同じようにクッキーと紅茶を出してくれたものの、ミストさんの表情が険しい。
どうにも思ったより大事だったみたいだ。せいぜい数百人程度の犯罪者を捕まえただけ……うん? 自分で言っておいて何か違和感あるな。
「俺としては金以外の手柄とかどうでもいいので、全部ミストさんが捕まえたってことになりませんかね? 誰がやったか公開されて、それが高ランク冒険者ならともかく駆け出しだったら間違いなく面倒になると思うんですよ」
「…………」
転移魔法とかを隠しながら一通りの説明を終えると、ギルド長が淹れてくれた紅茶を一口すする。
おかしいな。熱い紅茶なのに、ティーカップの縁には霜が降りている。
「質問します。それで私が納得すると、本気で思っているのですか?」
霜の発生源は、対面のソファーに座ったミストさんの視線だった。
しかし何故に眉を顰めるのだろうか。
山賊達を捕まえる実力に関しては、ノーライフキングを倒したのだし今更突っ込まれることもないだろう。
他の原因といえば……いきなりギルドの敷地内に馬車が現れたのだから、防犯上はその理由を聞いておく必要があるのだろうか。
かといって、転移魔法を一人で使いましたなんて簡単に喋ってしまうと、弱みを握られかねない。ミストさんがそういうことする人には見えないが、どこに耳があるかも分からないし黙っておこう。
「納得するとは思っていませんけど、俺にだって隠したい事は色々とあるんですよねー」
俺は乾いた笑いを出しながら、ミストさんの執務室に開いている小さな窓を見やった。
犯罪者に狙われることを防ぐためか、ほんの少ししか開かないように細工された窓からは、忙しそうな声が聞こえてくる。
位置的に、窓の下はちょうど冒険者ギルドの裏口付近にあたるはずだ。裏口は大人数の冒険者パーティーが馬車を率いて魔石や素材を持ち込むための出入り口であり、馬車や使い魔を繋いでおくスペースが併設されていた。
現在、そこには俺の持ち込んだ馬車が数十台ほど停めてあり、中には大量の山賊達が縄で縛られて詰め込まれている。ちなみに縄は事前に用意したが、馬車自体は山賊が盗んだらしき品の中にあったので借りた。
ミストさんから聞いたところ、今はギルドの職員を総動員して馬車の中身を検めている最中らしい。
「一部はチップということで、懸賞金の中から常識的な範囲でかっぱらってください。ギルドの職員方も色々と大変みたいじゃないですか」
「拒否します。金銭的な問題はどうでもいいのです。山賊団を見つけ出した手段も、ここまで連れてきた方法も、百歩譲って目を瞑りましょう」
俺の言葉を聞いて、ミストさんが首を横に振った。
黙ってくれるなら対価として持ってってよ、という意味を暗に含ませたのだが……むべにもなく断られたな。
転移魔法に深くは突っ込まないなら、いったい何が問題になるのだろうか。
「説明します。通常であれば、山賊団を鎮圧する場合には大規模なレイドを編成する必要があります。質だけではなく、本来なら数が必要なのです。しかし当然の話ですが、レガル近郊の大きい山賊団を鎮圧するような強襲クエストが簡単に発行されるはずもなく、それでいて数百人の山賊が犯罪者奴隷として売り払われることになった場合、流通元である私が問い詰められることになるでしょう。つまり私が捕まえたと誤魔化したところで、最終的にはリュウタロウ氏の仕業であると露見します」
ミストさんが深い溜息をつく。
なるほど、その話か。真偽官が存在する以上は嘘が言えないから替え玉も効かないんだったな。
(うーむ。あまり話が大きくなると面倒事が降りかかるだろうし、何か手はないものだろうか)
頭の中で「既に大事になっているのではないか?」という突っ込みが入ったが、そこはスルー。
「じゃあ、ミストさんのお抱え冒険者が少数精鋭で討伐に向かい、全員を捕縛した。というシナリオはどうでしょう」
「……黙考します」
顎に手を当て、ミストさんが押し黙る。
テキトーな案なら速攻で拒否するところだろうが、考え込むだけの余地があったということだ。
この案なら嘘は言っていない。
お抱えかどうかはミストさんの意思ひとつでどうとでもなるし、少数には一人も含まれているのだから、真偽官も偽とは判断しないはずだ。
それに、これならお抱え冒険者が誰かと聞かれた際も黙っておくことができる。万が一山賊を捕り逃していたら命を狙われる危険性もある、とギルド長から言われれば余程のお偉方以外は二の句が継げないだろう。元よりギルド自体が国からの影響を受けにくい独立した機関らしく、そういった圧力をかけられる事は滅多に無いそうだ。
黙ってもらえないのなら、黙ってもらえるように仕向ければいい。
しかも俺の提案したシナリオは、ミストさん本人にも利点がある。
「ギルド長が抱えているのは山賊団を一夜にして壊滅させた冒険者。その噂、色々と使い道はあるんじゃないですか?」
「…………」
その考えには、俺よりも早く行き着いているのだろう。
俺は噂が広まることなく金を受け取ることができ、ミストさんはナマハゲを得る。両方が損しない素晴らしい案だ(自画自賛)。
「承諾します。私にとっては利点しかありませんし、リュウタロウ氏の保身も当然の話です。そのシナリオを受け入れましょう。しかし普通の冒険者は平穏よりも名声を選ぶ気がするのですけれど……氏は変わった人間です」
「まぁ、そこは自覚がありますよ」
苦笑するミストさんに、同じく苦笑を返す。
俺も男だし名声が欲しくないわけでもないが、既に四人の美女美少女と許婚関係になっているうえ、俺自身にその自覚はないものの勇者としての立ち位置まで得ているらしいからな。現時点でもお腹いっぱいです。
また、今回の件に関しては「俺が捕まえたんだー」と自慢することはできるが、ミストさんのように「で、どうやって見つけたの? どうやってここに連れてきたの?」と聞かれてしまえば黙り込むことしかできない。真偽官に「捕らえたのは君かな?」と問われてYESと返答できても、その他では言えない事の方が多いだろう。そんな不確かな事が名声になるとも思えない。
「一応ながら迷惑をかけている自覚はあるので、何かあったら遠慮なく依頼を持ち込んで下さい。お抱えの裏づけになりますからね。まぁ、あくまで俺一人で何とかできる規模になりますけど……」
「感謝します。しかしながら、氏でも太刀打ちできない天災が頻繁に起こっては困ります。体面上は目をかけていると周囲から思われる程度に指名させていただきますが、あまり機会には恵まれないと思ってください」
そう言って、ミストさんは紅茶を一口含む。
聞き間違いじゃなければ、今この人は依頼じゃなくて天災って言ったよね。完全に化け物扱いされてる。
「質問します。何ゆえ今回はお一人で賞金稼ぎを?」
紅茶を置いてから尋ねるミストさん。
アリサ達がいないことに疑問を持ったらしい。
色々と誤魔化した負い目もあるし、これくらいは正直に言っていいだろう。
「実は近いうちに奴隷を購入する予定なんですけど、目的の奴隷商を確認するついでに山賊狩りをして資金調達をと、」
「…………」
俺が笑いながらクッキーを摘むと、ミストさんの頬が引きつった。
はて、まだ全部言い切っていないのだが。
もしかすると、このチョコクッキーは彼女が狙っていたものなのかもしれない。悪いことをしてしまった。
「同情します。自業自得と言えど、おまけ扱いで壊滅させられるとは……。それで、氏のハーレムメンバーがいない理由は何故でしょうか?」
ハーレム言うな。
「全員、今頃は買い物の最中ですよ。彼女達も休みが欲しいでしょうし、俺が一緒だと買いにくい品だってあるじゃないですか。あとは、女が見ていないところで働くのも男の役目かなーと思ったから、俺だけが単独で金稼ぎしているってわけですね」
「きょ、驚嘆に値します。リュウタロウ氏がそのような甲斐性を持ち合わせていたとは……」
おいコラ。俺がいつまでも大人しい男だと思うなよ。
ミストさんに反論すべく身を乗り出そうとすると、その直前で執務室の扉がノックされた。
「ギルド長ー。リュウタロウさんが捕まえてきた山賊の懸賞金と盗品返還の謝礼金、集計が終わりました。入ってもええですか?」
聴いたことのある声が、扉の外から届く。
えーと、誰だっけ……。モ、モニ……思い出せない。
「許可します。モニカ、お尻は大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃありませんよ。あんなもん挿入されて、自分でもよく生きてたと思っとるくらいです」
執務室に入ってきた姿を見て、ようやく思い出した。も、モ……シリカさんか。
何故かは知らないが、今日の朝に出会ったときよりも白髪がボサボサになっているし、目元には疲れたような跡が見える。
こころなしか、臀部を庇うような歩き方をしている気もするな。
「どうも。こんばんは、シリカさん」
「……わざと言っとるんですか?」
シリカさんの目が半眼になった。
何のことだろうか。
「うちはこれでも査定役なんよ? リュウタロウさんが捕らえた山賊の懸賞金が合計銅貨一枚でしたって判定することもできるんよ?」
そう言い切ったシリカさんの目は、これ以上ないほど完全に据わっていた。
ギルド長の前で堂々と不正を宣言しているあたり、不退転の決意が見てとれる。
ふと脳裏に「職務怠慢でお仕置きされたのは自分のせいだろ」という文章が浮かんだが、意味がよく分からない。とりあえずジャンピング土下座をしておこう。
女の子がキレている時は、男が謝れば全てが解決するはずだ。多分。
「……その姿勢の意味はよく分からんけど、ひとまず一階のカウンターまで連れて行きます。ええですか?」
「首肯します。こちらの確認も終わったところです。後は任せます」
上司の返事を受け取り、シリカさんが一礼してから退室する。
彼女に襟首を掴まれて引きずられながら、俺はミストさんへ手を振った。
「じゃ、じゃあ、またよろしくお願いします」
ドナドナされていく俺に、ミストさんは軽く頭を下げる。
執務室の扉が閉じられる直前、中から部屋主の独り言が聞こえてきた。
「苦笑します。少々多いような気もしますが、これだけの人数を抱える山賊団はホエル団だけです。分かりきった調査に時間がかかるとは、やはりもう少し鍛えねばならないようです」
かすかに漏れる声を捉えた直後、俺は何となしに思った。
(そういえば、三つの山賊団を全部鎮圧したとは一言も伝えてなかったな……)
まぁ大丈夫だろう。
せいぜいミストさんの処理する書類が三倍になる程度だ。何の問題もない。
「あの、シリカさん。階段から蹴落とすのは、さすがに……」
「うちの尻穴の仇やから。恨まんといて」
むしろ俺の生命維持に問題があるかもしれない。
□
時刻は午後五時半。
ギルドから何とか生きて戻り、アリサ達との集合場所であるバイキングレストラン『シルバーレスト』へ足を運ぶ。
早めの夕食を兼ねて、チワ達にも色々と説明する手はずなのだ。
中央通りの人ごみを抜け、待ち合わせの数分前くらいにシルバーレストへ到着すると……
「わぅ。みんなチワ達を見ているのです……」
「きっと、奴隷風情がこんな良い服を着ているから怒っているのニャ」
「ふえぇぇ……間違って破ったらどうしよぅ……」
そこには『天使』がいた。それも三人も。
夕方ということもあって中央通りは多くの人々で賑わっているのだが、その付近だけは人の歩みが遅くなる。
皆が皆、一瞬だけ見惚れ、直後に慌てて歩幅を戻すからだ。
「あっ! ご主人しゃまなのです!」
銀髪の天使が、俺の名前を呼ぶ。
すぐさま三人揃ってトテテテと近づいてくる様は、心臓へのダメージが大きすぎてヤバイ。もう死んでもいいわ。
チワは活動的な服装。シャムは髪との対比の為か、白で統一されたラフな格好。キキは、ゆったりと言うか、もっさりと言うか、それでいて本人の魅力を損なわない居姿をしている。
高価なシルクやレースをふんだんにあしらった装いは、以前の三人とは見違えるような愛らしさを撒き散らしていた。
過酷な奴隷生活を行っていたために失われていたのだが、元よりチワ達の容姿は非常に整っている。
それがキチンと身体を洗い、かつ服装も改善されたのだから、誰しもが思わず頬を緩めるほどの姿となるのは必然としか言いようがない。
美幼女バンザイ\(^q^)/
「ふふん。あたしの目に狂いはなかったでしょ?」
チワ達の後ろから、四姉妹も近づいてくる。
口ぶりから察するに、どうやら服装を選定したのはアリサのようだ。
そういえばシェリスさんが言っていたな。年長の彼女は衣服を集めるのが好きだと。
「三人の服をイチから仕立てるのは時間的に無理だったけどね。そこそこ高い古着屋なら悪くない品が多いし、色々と見て回ってからあたしのセンスで選んだの」
アリサが満足そうにチワ達を見やる。
四姉妹は普段着に変わりはないが、首にネックレスや手にブレスレットだったりと小物が増えていた。
周囲の視線における半分以上は、間違いなく四人にも向けられているだろう。決して下品にならない程度に飾り立てられているので、今まで以上に目が集まる。チワ達三人を可愛いと評するなら、四姉妹は綺麗と表現するのが妥当だ。
さすが王族。良い物を見極める目は確かなんだな。
「当然よ。年季が違うわ」
「アリサ姉様は自分用の衣装室、それも特大のお部屋をお持ちでしたからね~」
「衣服にかけて姉上の右に出るものは居ないな」
「……姉さんの作品が、母さんの礼服として採用されたこともある」
コミケとかにいる自作レイヤーみたいなこともしていたのか。
もっとも、ソニア女王の目に留まる時点でアマチュアどころの話ではないが。
「男物の服はまだ勉強中なんだけどね。色々と力をつけたら、あたし達の服だけじゃなくてリュウの服も仕立ててあげるわ」
「ほう、そりゃ楽しみだな。期待して待っとくよ」
俺が驚嘆を露にしつつ言うと、アリサは任せなさいとばかりに頷いた。
そこで雑談は終わり、全員揃ってシルバーレストの扉を開ける。
「予約に関しては、事前にリュウ殿がやってくれたのだったか?」
「ああ。皆と別れた後にな」
ツバキさんの確認に、俺は首肯を返す。
金策に走って山賊の情報を集めていたとき、ついでに予約と先払いもしておいたのだ。
俺達だけ事前予約制というところに面倒臭さを覚えるが、前回の利用における惨状を考えれば当然か。
前もって伝えておかなければ食料庫が空になるのだろう。それは飲食店として致命的だ。
店内に入ると、以前と同じ舞踏会のホールが視界に映った。
その光景に奴隷組が見とれている中、入り口横の受付から見知った顔が出てくる。
「ようこそおいでくださいました、リュウタロウさん」
「どうも、二日ぶりです」
二日前にもお世話になったオッサンの知り合い、エーデルだ。
相変わらず老紳士然とした彼に会うと、何故か妙に落ち着くんだよな。
「お嬢様方も今日は御ゆっくりお楽しみください。事前にお酒とお料理は用意しておりますので」
「あらあら~。それは嬉しいですね~」
エーデルが静かに頭を下げる。
どうやら前回の教訓を踏まえて待ち構えていたらしい。
彼だけでなく、受付奥、厨房の入り口からも視線を感じる。そこにいる妙に高いコック帽を被った人物は、どうやらベルンを見つめているようだった。
「……ククク」
ベルンが含み笑いを漏らし、それに対するコック帽の人物の返答は、口端を上げて鼻で笑うということだった。
この友情はよく分からないが、ひとつ確実なのはシルバーレストの経理担当が号泣する未来だろう。
不適に笑うベルンの横では、チワ達が漸く我に帰ったらしく、小さくプルプルと震えていた。
「あ、あわわわ。こ、こんなところに食べに来ていいのですか……?」
「いったい、いくらするのニャ……」
「ふええええぇぇ……」
どう見ても完全に萎縮している。
まぁ彼女の言うとおり俺達は全員が獣人料金なので、金銭的な負担は相当なものになった。
一人あたり金貨四枚、全員合わせて白金貨三枚と金貨二枚だ。日本円になおすと約三十二万円。
よほどのセレブでもない限り、一食としては馬鹿げた金額だな。
「そこは気にするな。今日はめでたい門出になるはずだから、その前祝いってやつだ」
ハテナマークを浮かべる三人の背を押して、俺は四姉妹と共に歩き出す。
今回エーデルに案内された席は、厨房から程近い八人がけのテーブルだったのだが、
「おぉう。これはこれは……」
「至れり尽くせりね……」
俺とアリサが苦笑するのも無理はない。
既にテーブルの上に数十人分の料理が置かれ、近くのワゴンは砂糖菓子が山のように積まれているのだから。ここバイキングだよな?
壁際にはワイン樽も設置されているあたり、迎撃態勢はこれ以上ないほどに万全となっている。
どうにもここは食卓という名の戦場だったらしい。
「あらあら~。これは嬉しい配慮ですね~」
「私に勝負を挑むとは笑止千万。目に物を見せてくれよう」
「……美味しそうな前菜」
笑止千万とか言っちゃってるけど気にしない。
ハートが震えて燃え尽きるほどヒートしそうな方々がいるけど気にしない。
気にしたら負けだ。
「じゃあ、食べるか」
「そうね……」
俺とアリサは諦めた顔で席に着き、食前の祈りをしてから、料理へと手をつけ始めた。チワ達も恐る恐る料理を取り、その味に顔をほころばせる。
残る三人は食事ではない。狩りが始まるのだ。
「以前に来た時とはフレーバーが違いますね~。少しだけ質が落ちています~」
そりゃ樽四つを飲み干せば金貨四枚でも釣り合わないだろうからな。
「ふむ、実に良い。このパイは絶品だ。まだまだ行けるぞ」
文庫本サイズのパイを三桁も食ってまだ行けるのか。
「……次」
厨房が火の海になってるから勘弁してあげなさい。
「うにゅぅ……」
アリサ、お前は酒に弱いんだから無理するな。
「じ、地獄なのです……」
俺達が店に入って一時間後。
離れたテーブルから、チワが的確に表現してくれた。
ピラフっぽい料理をつついているシャムとキキも、間違いなく同じ感想を抱いていることだろう。
三人の食育に悪いと考えた俺は、機を見計らい、チワ達を連れて近くにあった別テーブルへと避難している。
もっとも、テーブルを移した理由としては、静かな場所を選んで三人と話したいという意味が大部分なのだが。
(そろそろ切り出しておくか……)
ちょうどよく腹も膨れただろうし、話すなら今がチャンスだ。
「よし、食いながら聞け。チワ、シャム、キキ」
三人がフォークを置いたタイミングを狙って、俺は真剣な表情で切り出す。
おそらく、今から俺が話す内容こそが本題であると気付いたのだろう。
誰からともなく聞こえた嚥下する音は、肉を租借して飲み込んだ音か、はたまた唾だけを飲み下した音か。
「今日これから、お前達を奴隷商人から購入しようと思っている。その為に、お前達の意見を聞きたい」
「えっ、えっ? ど、どういうことなのです!?」
「か、買ってくれるのぉ!?」
「何で……し、シャムは……」
前半の言葉で目を白黒させ、後半の言葉で信じられないといった顔をするチワ達。その手も小刻みに震えている。
それはそうだろう。戦闘どころか素材運搬ですら役に立たず、タダ飯食らい同然となっていた自分達を買うわけがない。さらには購入予定の奴隷に意見を聞くなんて、普通に考えてもありえない。
三人の反応は至極当然といえる。
だが、これは事前に聞かねばならない。
間違いなく、獣娘達の運命を大きく変えてしまうからだ。
「俺は三人を購入する予定だが、その前に話しておきたいことがある」
「話しておきたいこと……なのですか?」
チワの問いに頷いてから、俺は先を続ける。
周囲を見渡し、人が居ないことを確認してから小さい声で説明を始めた。
「今まで見た通り、俺達のパーティーは異常な力を持っている。これから先、間違いなく何かに目をつけられるはずだ。大商人や貴族ならまだマシな部類。下手すりゃ国を相手にするかもしれん」
「それは、まぁ、そうかもしれないニャ……」
虚空を見つめながら、シャムは今日までの光景を反芻しているのだろう。
幻想魔法を一人で扱い、迷宮の壁に容易く穴を開け、ボスモンスターすら単騎で屠る後ろ姿を。
「となれば、お前達にも半端な強さでいてもらう気はない。それこそ血反吐を吐くような特訓をすることになるし、死の危険だって数え切れないほど潜り抜けてもらうことになる」
俺がいったん言葉を切ると、キキのごくりと唾を飲む音が響く。
彼女らは獣人だ。下手をすれば死んだほうがマシな目に遭うのだろう、と本能的に察したからか。
「俺達と一緒に生きたい奴だけ、返事をしてくれ。そうすれば虹金貨何十枚かかっても、お前達を買い取ってやる。相応の給金だって払うし、死ぬまで面倒見てやる。底辺の奴隷だと一生お目にかかれないほどの豪華な食事を食わせてやる。暖かくて柔らかい寝床にありつかせてやる。俺達と一緒に、この世界を見せてやる」
そこまで言って一息つき、俺は順々に三人の目を見つめた。
恩着せがましい言い方だが、これくらい言わないとチワ達は遠慮するだろう。
今ここで覚悟を決めろと念を押し、再び口を開く。
「だが、命の保障はできない。だから、自分の身を守る為に、武器を手にとって戦ってくれ。……チワ、シャム、キキ。お前達は、それでも俺についてきたいと思うか?」
それだけ言って、三人の返事を待つように押し黙った。
本来なら問答無用で買い取ることもできただろうが、何故か、そんなことはしたくなかった。だから、三人の言葉を聞こうと思ったのだ。
俺達と共に行動すれば、今までの奴隷稼業よりも遥かに危険な旅になる。
黒白迷宮で力尽きるなんざ、まだマシな方だろう。ノーライフキングのようなモンスターに襲われれば、人型を留めない化け物にされる可能性だってあり得る。それは俺達なら容易く跳ね返せるだろうが、いつでも傍にいるなんてことはできない。四姉妹と違ってエンゲージが適応されないのだから、俺の守れないタイミングは絶対に出てくる。
チワ達がそんな目に遭うのは許容できないし、許容させる気もない。俺達についてくるなら、本気で努力させるしかないのだ。
この理屈が身勝手なのは分かっている。それでも、俺は聞いておきたかった。
「「「…………」」」
その言葉を聞いて、チワ達は数分ほど押し黙っていた。
だが最終的には……三人揃って大きく息を吐くと、確かに頷いた。
「……いいんだな? 死ぬかもしれないんだぞ?」
「「「ん!」」」
もう一度だけ確認しても、三人の想いは変わらない。
「ご主人しゃまは、チワ達の檻の外……世界を見せてくれるって言ったのです。檻の中で死ぬなんて絶対嫌なのです!」
「奴隷のシャム達に初めて、温かいご飯とお風呂をくれたのニャ。どうせならご主人しゃまの盾になって死にたいのニャ」
「迷宮のあの時からずっと、ご主人しゃまみたいになりたいって思ってたの……。そのためなら何だってする!」
三人の決意は変わらない。
何が待ち受けても乗り越えてみせると、その目は語っていた。
「……分かったよ」
なら、何が何でも買い取ってやるべきだろう。
そのための秘策は既に打ってある。心配することなど、何一つない。
「話に聞いたところ、奴隷の売買ってのは夜にやっているらしい。それじゃ、皆が食べ終わったら商人のところに行こうか」
そう言った直後の三人を、俺は生涯忘れないだろう。
新たな家族は、今まで見たことがないほどの笑顔の花を咲かせたのだから。
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AUTHOR:次は21日投稿でごじゃい。
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