↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チートで姫様達と婚前旅行。  作者: 富士ヶ麓久遠
トランディア王国・迷宮都市レガル編
34/42

お屋敷でございます

 

 都市レガルの生活レベルは、大きく三つの層に分けられていた。

 具体的には、中心地である領主の館からドーナツ状に、貴族街、庶民街、貧困街で広がっている。外周部に行けば行くほど生活レベルが低くなり、中心に近づけば近づくほど治安が良くなる。

 なかにはモノホンの爵位を与えられた貴族しか入れない場所も存在し、その区画では塵一つ落ちておらず、日夜屈強な衛兵が守っているらしい。


 そんな貴族街と庶民街の間に位置する一軒の屋敷。

 レガルの中では南の区画にあたり、中央から近くもなく遠くもない場所。

 朝市や衣服店、民間医療機関などが近隣にあるため、非常に生活の便がよい。

 そこにある豪邸には多種多様な人が住もうとしていたが、何故か皆が一日と経たず住居を移し、現在では誰も住んでいない。


 はずだった……。


「おぉう。これはこれは、また……」


 南中央通りから西側に延びる路地の一つ、馬車が二台入れるかといった道を進んだところ。

 昼間なのに薄暗く、人通りが少ない一角。問題の屋敷の前に、俺達は立っていた。


「ずいぶんと雰囲気が出ているもんだな……」

「雰囲気だけなら誰もが楽しめるだろう。しかし、ここには本物が出るのだよ」


 俺の横にいるターブさんは、苦々しい表情をしている。

 彼の視線の先にある正門は真っ白な鉄格子で囲まれていた。

 触ってみたところ、鉄格子は俺の指が回らないほど太く、その防犯性能はかなりのものだと思われる。上にはネズミ返しだってついているし、薔薇の棘を模した装飾だってあるから美的センスも悪くない。

 しかし、今はその鉄格子に蔦が巻きつき、まったく手入れされていない気配がうかがえる。ところどころにはコケも生えているから、これは買ったら掃除しないとな。

 その鉄格子の間を覗いてみると、奥にはレンガ建ての屋敷があった。門からは数十メートルの距離があるというのに、かなり大きく見える。


「取り壊すとかは考えなかったんですか?」

「考えたさ。しかし、敷地内に入ったり建物に手を出そうとすると、作業員が意識不明の状態になる。それに数日はうなされるようになるから、手がつけられないのだよ」

「それはまた手の込んだことで。光煌魔法師を雇ったりは?」

「したが、教会でもお手上げだそうだ。正直、どうすればいいか分からない状態なのだよ」


 え。教会がお手上げって、結構ヤバくないか? 

 レガルが迷宮都市である以上、宗教国家には及ばないにしても腕利きは数多くいることだろうし。うーん。意外と面倒な相手なのかもしれないな。

 おそらく、倒れた作業員はあの屋敷に住んでいる何かにバッドステータスの状態異常を付与されたのだろう。


(まぁ、俺達なら『エンゲージ・フローレスハート』で防げるからな。問題ない)


 内心でそう思いながら、俺は自分の左右を見やる。


「それで……アリサ、シェリスさん。俺の腕に掴まって何してる?」

「ち、ちちち違うのよ、これは! その、ね? リュウが怖いんじゃないかって思ったから、あ、あああたしが手をつないであげようと!」

「そ、そうなのですよ~。決して、ええと、自分が怖いというわけではなくてですね~……」


 分かりやすい嘘をありがとう。

 そんな震えた声で両脇を固められら、いくらなんでも分かってしまうぞ。


「ベルン、さすがに抱きつかれると重いんだが……」

「……ゃ」


 正面からガッチリとだいしゅきホールドしているベルン。もう完全にコアラと化していた。

 時折トンガリ帽子が視界を遮るため、非常にうっとおしい。いざとなったときに動けないな、これ……。

 ちなみに、アリサの腕の中にはシャム、シェリスさんの腕の中にはチワが抱えあげられていた。残るキキはというと、俺の背中にしがみついている。

 さすがに六人に密着されると超絶暑苦しい。獣娘達と触れ合っているというのに全然嬉しくない。

 この光景を見て「そこ代われ!」と叫んだあなたも、どうぞこの立場を交換してあげますので早くここに来なさいマジ重くて暑苦しいんですホント勘弁してください何この美少女アーマー。

 

「姉と妹がこの惨状なのに、ツバキさんだけは平気そうだな」

「うむ。何が待っているのか、楽しみで仕方がないのだ!」


 スキルセットで『筋力増加』にポイントを振りながらチラ見すると、ツバキさんは実に嬉しそうだった。

 この人は違う意味で大丈夫じゃないな。腰の剣を抜きたくてウズウズしてるよ。

 彼女は業物を持てば霊体をも切れるらしいが、今は相変わらずの粗悪品なので出来ない。せいぜい行動不能に出来るかどうかなんだとさ。本当にトンデモ性能の物理(笑)だな。

 

「それじゃあターブさん、ちょっと幽霊退治してきます。約束の方は……」

「ああ。虹金貨五枚だったな。むしろ在庫を抱えていたようなものだから構わないのだよ。気をつけてな」


 そう言って、ターブさんは来た道を戻る。

 俺達がアンデッドを倒している間に、彼は戻って契約書などを纏める手はずになっていた。俺がこっそり光煌魔法を使えると伝えたところ、できるならということで任せてもらった。

 フハハハ。幽霊退治を成功させれば五百万で豪邸が手に入るのだ。腕が鳴るぜよ。


「よし。行くか」

「だ、大丈夫よ。あたしが守ってあげるからね。だから、ぜ、絶対この手は、はは離しちゃ駄目よ!?」

「ひぃ~ん、正直に言います~。わたし、すっごく怖がりなんですよ~……」


 シェリスさんが陥落した。

 いつもの余裕を持ったぽわぽわが崩れているので、今の彼女は少し新鮮だ。こういうのもイイな。

 反対側にいるアリサは、まだ意地を張っている。

 本人も似たり寄ったりの存在なのに、怨霊相手は駄目なのか……。


「そんなに無理なら、宿屋か不動産屋で待っておけばいいじゃないか」

「それも嫌っ!」

「それは嫌です~……」

「嫌なのです!」

「嫌なのニャ!」

「嫌なのぉ」

「……怨霊は縁者にも影響を及ぼす。離れるのは深刻で重大な危険の恐れが極めて危ない」

「あー、何か、つまり相当ヤバイのか」


 必死なベルンの解説によると、一般的に怨霊といわれるアストラルモンスターを倒す時は、できるだけ全員固まって行動した方がいいらしい。

 細かい違いだが、いったん死んだ者が生き返ってモンスター化するのがアンデッド。死んだまま霊体となってモンスター化するのがアストラルだ。

 アンデッドが魔石で動く実体があるモンスターに対し、アストラルは精神エネルギーの集合体である為、物理攻撃が(一部を除いて)完全に無効化される。しかも、日光にも強く、光煌魔法でしか倒せない。脅威度合いでいえばアンデッドよりも上だろう。

 更に面倒な事に、この敵は人の心を覗き、その者が印象に残っている人物にも襲い掛かる。要はアストラルモンスターの討伐に失敗した場合、仲間や恋人や家族まで巻き添えになる可能性があるのだ。

 大切な人がどんなに遠くにいようが物理法則を無視して一瞬で移動し、ホラー映画のようなビックリタイプの襲い方をする。それは必然的に奇襲となり、厄介極まりない。

 ならば、少なくとも自分の目の届くところで討伐してくれたほうがまだ安心できる。皆がそう思うのも無理はないってことか。

 

「ま、安心しろ。敷地内に入らなくてもモンスター倒せるし」

「「「「「「「えっ?」」」」」」」


 何その反応。

 

「で、できるの……?」

「できるぞ」


 アリサへ肯定を返してから、俺は足元にあった適当な石をいくつか拾い上げる。


「……ぶぎゅる」


 かがんだ時にベルンの口から潰れた蛙のような声が聞こえたけど、気にしないことにしよう。


「また石を使うのですか~?」

「またって何だ、またって。まぁいいけど。これをこうやって……」


 シェリスさんの目の前で、石に魔方陣を刻み込む。

 そのまま、門の向こうに見える家屋に次から次へと石を投げ続ける。美少女アーマーのせいで大リーグボール養成ギプスを着ているかのごとく超絶的に投げにくかったが、事前に『筋力増加』スキルで強化していたため、手首のスナップだけで数十メートル以上飛ばせるようになっていた。

 右上のレーダーを見てみると、正確に屋敷の近くへ落ちているようだ。人がいないので、石を投げたところで誰にも当たらない。いや、幽霊には当たってるのかもしれん。

 なお、投げた石に刻んだのは、このスキルだ。 




===========================================

天獄聖界イノセント・サンクチュアリ (光煌属性)】

RANK:SS

前提スキル:幻想級光煌魔法師、特級結界士、エレメンタルサモナー、ライトロードジェイル、バリアバースト、アンデッドスレイヤー、ゴーストバスター、聖神の加護、天獄の導き手、シールドプロテクションⅢ[+20]、広域回復魔法効果範囲拡大Ⅲ[+20]、闇哭魔法被ダメージ軽減3%Ⅱ[+20]、ワイドサポート

持続時間:4s

消費魔力:100000(Active)

穢れなき精霊によって邪法を滅する極技。固有の魔方陣を刻んだ座標から半径30mの球状に、高出力聖域結界を展開する。聖域結界内ではアンデッド属性およびアストラル属性を持つ敵性個体のステータス値が全て0になり、Sランク以下の闇哭あんこく属性魔法が無効化される。

===========================================



 

 要するに『オバケエネミーは全員消えろ結界』である。

 魔力不足で使うことはできなかったが、ノーライフキングの時もコレを撃ち込めば瞬殺だったはずだ。 

 今朝の教訓を踏まえて強化系スキルに振りまくった結果、今の魔力は【275000/275000】と表示されているため、これからは問題なく展開することができる。ちなみに秒間回復魔力は34000ほど。

 現時点であっても『連鎖魔界エターナル・ウィッシュ』と魔法合戦でタメを張ることはできない(ベルンのは威力と弾幕数がヤバすぎる)が、その代わりに幻想魔法でも軽々と起動できるようになったのだ。

 いやはや、チート様々です。


「この結界を屋敷周辺で起動しまくったからな。索敵してみた結果は全滅しているぞ」

「そ、そうなの? べ、別に怖くなんか無かったけど、これで一安心ね!」

「はぁ~。よかったです~……」

「……さすがリュウさん」

「ご主人しゃまは幻想魔法まで使えたのかニャ……」

「やっぱり人間じゃなかったのです……神しゃまだったのです……」

「神しゃま仏しゃまご主人しゃまぁ……」


 フハハハ。もっと褒め称えるがよい。


「チッ」

「露骨な舌打ち!?」


 美少女アーマーの面々が胸を撫で下ろしている中、ものっすごく残念そうにする浴衣美人もいた。

 この人、実は四姉妹で一番個性的なんじゃないだろうか。

 ま、まぁ今は我慢してもらおう。迷宮で存分に暴れてくれればいいし。


「念のため、俺自身でも『天獄聖界イノセント・サンクチュアリ』を起動しとく。だから、敷地内に入っても離れないでくれ」


 そう言って俺は美少女アーマー達を身体から離すと、自分の掌に魔方陣を刻む。

 発動した結界が周囲を包み込み、暖かく優しい風が頬を撫でる。路地裏で人通りが無いからバンバン使っていけるのが幸いした。

 結界は城で見たものと同じような虹色の膜で覆われており、その内部では雪のように白い光があちらこちらで踊っている。おそらく、これが光の精霊なのだろう。一部がアリサ達の傍で浮遊し、つかず離れずの距離でじゃれついて遊んでいた。


「あははっ、こら、ちょっ、くすぐったいってば」

「やぁん~。谷間に入り込まないでください~」


 おい、そこの精霊ども。おっさん臭い真似するな。

 うらやまけしからん。


「早く行くぞ。念には念を入れて、半径三十メートル以上離れるなよ」


 ターブさんから預かっていた鍵を門に差し込みながら、アリサ達に向かって声をかける。

 約一名ほど「つまり、離れれば戦えるかもしれないのか!?」と言っている脳筋がいたが、もう放っておく。迷宮に放置してきたほうが幸せなのではと思い始めてきた。

 明日は存分に戦わせてあげようと決心しながら、重厚な門を開ける。


「へぇ。外から見ても分かったが、かなり大きいな」

「まぁまぁの庭ね。ツバキはどう?」

「うむ。文句は無いな。これだけあれば存分に剣を振れそうだ」


 やめてください。あなたが存分に剣を振るとレガルが消える。

 普通自動車が二十台停められるほどの広さがあるとはいえ、ツバキさんの興が乗ってしまえば簡単に破壊されるだろう。


「むっ。それくらいの分別はあるぞ」

「ソウデスネー」


 敷地の奥へと辿り着いた俺は、頬を膨らませるツバキさん(ちょっと可愛い)を一瞥してから屋敷を見上げる。

 この豪邸を見てくれ。こいつをどう思う?


「すごく、大きいのです……」

 

 アッー。

 という冗談は置いといて、チワの言う通り屋敷自体も相当でかい。レンガ調の建物であり、少しだけ年季の入った外見が味のある魅力を放っている。

 このサイズは、さすがの17LDKに地下室×3といったところか。部屋数が多すぎる気もするが、後々何かの用途に使えるかもしれない。というか保持しておいたほうがいい予感大。

 これから安定して大金を得るようになっていくと、それに応じて貯金しながらも全員へ分配することになるだろう。

 となれば、王族のアリサ達が衣服とか食器を買い込んでいくから、間違いなく部屋の一つや二つは埋まる。その確信がある。

 アイテムボックスに収納するという手が無いわけでもないが、着替えのたびにいちいち取り出すのは俺が面倒くさい。あと、アリサ達も衣服や下着類を預けたりはしないと思う。たぶん、きっと。


「とりあえず、中に入ってみるか」

「……ん」

「入ってみるニャ」


 女性陣に急かされながら、正面玄関に鍵を差込み扉を開ける。

 

「「「「でかっ!?」」」」


 俺とチワ達が思わず声を上げる。

 玄関を開けると、そこは大ホールになっていた。床が大理石で出来ているため、冬は寒そうだ。魔法でどうにでもなるだろうが。

 天井には大きなシャンデリアもある。埋め込まれている瑠璃色の宝石が下品でない程度にキラキラと光っているので、この家を建てた人は相当センスがいい。


「シャンデリアの宝石は……ラピスラズリか」

「うむ。よく知っていたな」

「青っぽい宝石って言えば、サファイアとラピスラズリくらいしか知らないからな」


 ノーライフキング討伐の時でもあったように、レガルの近くには意外と鉱山も多い。

 そこから採ってきた宝石なのだろう。


「悪くないわね」

「……ん。涼しい」


 アリサ達も満足しているらしい。

 正面の奥には上階に続く階段があり、そちらも大理石なので荘厳な雰囲気が感じられる。 

 階段から視線を逸らすと、ホールの右側には大きな扉が三つ、左側には小さな扉が三つ存在していた。


「まず右側から行ってみるか」


 右側中央の扉に近づき、ギギィと木が軋むような音をさせながら開ける。

 ここは……。


「リビングとダイニングか」

「いいですね~。日当たりがよさそうです~」


 一見したところ……うーん、小さなコンビニくらいの広さだろうか。

 調度品などが残っているはずも無いので、広々として開放感がある。大窓だって存在しているし、シェリスさんの言った通り日当たりも良い。午後の日差しが柔らかくリビングを照らし出していた。

 玄関ホールと違ってレンガで囲まれ、暖炉があるところもグッジョブ。

 今は埃と塵が積もっているので汚いが、掃除をすれば問題なく使えるようになるだろう。


「こっちの扉は応接室。残る一つがキッチンだな」

「……大きい。採用」


 そこへ踏み込んだ瞬間、ベルンの目が熱を帯びた。

 食欲魔人のお眼鏡にかなうキッチンだった、ということで大体察しはつくだろう。

 地下の食料保管庫も大きかったし、元より数人のシェフが食事を作るためか調理場も立派な器具が揃っていた。何故か残っていた鍋や包丁などは廃棄処分にするが、調理台やかまどはこのまま使えると思う。

 火の調節が難しそうだと考えるのは現代人ゆえか。……いや、それ以前に魔法で加減が思いのままだったわ。


「左側の扉はこれで全部だな。次は右側を見に行ってみるか」

「そうね。今のところ文句無く合格点だし、これは期待できるわ」

 

 アリサ達は楽しそうに色々なところを見て回っている。

 俺から余り離れてはいないが、戸棚などを開け閉めしてキャーキャー騒いでいた。


「じゃあ、玄関に一番近くて大きな扉から……って、これは開けた瞬間に分かるな」

「地下室なのニャ」

「わぅ。暗いのです……」


 適当な光煌魔法を放り込んでから進むと、どうやらここは地下倉庫だったらしい。

 階段が緩やかに作ってあるので、大きい家具なども問題なく運び込めそうだ。

 

(……これなら、俺の考えていた『アレ』ができそうだな。うん、悪くない)


 大きめの倉庫があったら是非やろうと思っていたので、余計にこの物件への関心が上がってしまった。


「次はここ!」

「わたしはこっちです~」


 地下室から戻ってくると、すぐさまアリサとシェリスさんが次の扉へ向かう。

 片方はまさかの水洗トイレで、もう片方は大浴場だった。余談だが、宿屋のトイレはポットン式。

 水洗トイレの設備もさることながら、特に大浴場の広さは文句のつけようが無い。アリサも早々にトイレを放棄して風呂場に来たくらいだ。

 湯船は十人が同時に入れるくらい大きいし、壁際にはシャワーまである。

 風呂場自体は外見のレンガ調に反して大理石で作られているので、水はけが非常に良さそうだ。着眼点が少し違う気もするが、掃除することになるだろう俺はちゃんと見ておかないとな。


「これは文句のつけようがありませんね~」

「うん、確かに悪くない。それにしてもシェリスさんは風呂にこだわるよな」


 浴槽のふちを撫でながら、シェリスさんが満足そうに息を吐く。

 実は、二件目が結構いい感じの風呂場設備を持っていたにもかかわらず、シェリスさんに駄目出しされていたのだ。

 彼女は風呂に並々ならぬ執着があるらしい。


「まぁ、胸が大きい女性には色々と悩みがあるのですよ~」

「う、うむ。夏場はな……」

「そうなのよね。汗かいちゃって……」


 上の姉妹三人が自分の胸元へと視線を向ける。

 あー、察し。


「…………」


 ベルン、その目と殺気は家族に向けるソレじゃない。

 大丈夫だ。お前はまだ十四歳。これからの成長に期待できる。


「わぅ。チワも、大きいおっぱいが欲しいのです」

「そうかニャ? 大きかったら走るときに邪魔ニャ」

「キキは別に気にしないねぇ」


 獣娘達は三人三色の反応。

 俺としては、別にどうでもいいな。個人的には大して大きさに執着していないし。大きくても小さくても、おっぱいはおっぱいじゃないか。

 いや本当だよ? 時々シェリスさんの巨乳に見とれてしまうことはあるけど、ベルンのようなちっぱいも大歓迎です。ほら、よく言われるじゃないか。小さい分だけ感度が……あっ、やめて、その冷凍光線を俺に向けないで。氷像化は勘弁してくださいベルントーラ様。


「そういえば、男の人に胸を揉んでもらうと大き、」

「さーて! 一階はコンプリートしたし、二階に行こうか!!」


 アリサの発言から不穏な気配がしたので、俺は即行で風呂場から飛び出す。

 そうなれば他のメンツは急いでついてこらざるを得ないので、さっきまでの話しは無かったことになった。

 よし。セーフだ。


 と、安心した。

 その時だった――。



『ううぅ、うっ、うううぅぅうう……』



 屋敷の中に、不穏な声が響き渡る。

 その声は明らかに俺達のモノではない。直接頭の中に響いてくるような、あのノーライフキングと同じ感覚だ。

 それはまるで、この世に未練を残した女性が呻いているかのようで……。


「ひっ!? ちょ、ちょっと、リュウ! ど、どどど、どういうことよ!?」

「ひいいぃぃん! 助けてくださいいいいぃ!!」

「……ぃゃぁぁぁ」

「も、もう、おしまいなのです……」

「短い猫人生だったのニャ……」

「あの世って楽しいところなのかなぁ……」


 瞬間装着。美少女アーマー再臨。

 まだ俺の『天獄聖界イノセント・サンクチュアリ』は起動し続けているんだし、アンデッドやアストラルモンスターが出てきても恐れる必要なんて無いんだがな。

 それに……。


「そんなこと言われても、敵性反応は屋敷の中に残ってないぞ?」

「うむ。少なくとも敵意は感じられないな」


 ツバキさんに問いかけてみても、特に敵らしい敵は残っていないのだ。

 しかし、今だに呻くような声は止まらない。


(あ。もしかして……)


 思い当たる節のあった俺は、オブジェクトレーダーの検索条件を変更する。

 そのままレーダーを凝視していると一瞬だけノイズが走り、俺達以外の光点が一つ追加された。


「行こう。三階の寝室だ」


 俺(with美少女アーマー)とツバキさんは顔を見合わせると、一つ頷いてから階段を昇り始める。

 美少女アーマーが超重い。防具としては粗悪品じゃないか。女の子のぷにぷに感を味わえるくらいのメリットしかない。ありがたやありがたや。


「ここだな」

「ああ。気配がある」


 階段を上り、三階へ。

 少し埃の被っている廊下を歩き、寝室の前で耳を澄ませる。

 ここに近づけば近づくほど声は大きくなっていったので、レーダーと照らし合わせてみてもまず間違いないだろう。


「ほ、本当に開けるの……?」


 アリサの足がガクガクしすぎて、生まれたての小鹿みたいになっていた。

 シェリスさんもふとももを擦り合わせて何かを我慢しているようだし、ベルンは何も見たくないらしくコアラ状態から動かない。背中のキキも同様だ。

 チワとシャムは、それぞれシェリスさんとアリサの腕の中。ただしガチパワーで締めつけられているので意識が危ない。


「安心しろ。怖がるような相手じゃない。あと、チワとシャムがタップしているから、そろそろ離してやれ」


 そう言って、俺はゆっくりと扉を開ける。

 中は薄寂れた寝室。家具を片付けるのが面倒だったのか、古びた本棚と小さな木のベッドが残っている。

 長い間放置されたシーツからは黴臭い匂いが漂っており、その上には一人の女性が座っていた。


『うううぅっ、ううぅぅう……あ、あれ? どなたデスカ?』 


 こちらに気付いたらしく、ベッドで泣き続けていた女性……いや、少女が面を上げる。

 年の頃は十六か十七といったところ。

 黒髪をシニョン(中華っぽいお団子ヘアー)で頭の両サイドに纏めており、衣服はそれに合わせてか真紅のチャイナ服らしきものを着ていた。

 病的なほど白い肌からは生気が感じられず、薄っすらと後ろの壁が透けて見えている。



 幽霊の少女だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。