幽霊少女でございます
「つまり、この屋敷の住人や仕えていた使用人が強盗に襲われ死亡。ほぼ全員が恨みを残して怨霊化したが、レンファの魂だけは偶然にもそれを逃れた。でも他のアストラルが怖くて、一年半の間ずっと寝室に閉じこもっていた。ということだな?」
『は、はいデスヨ……』
俺達の前で、幽霊の少女レンファは事情を説明した。
元々、レンファはこの屋敷で働いていた給仕のメイドだったらしい。祖国から出稼ぎに来て、この館に落ち着いたのだそうだ。
彼女が『天獄聖界』で消し去られなかった理由は、ただ単に俺達に敵意を向けていなかったから。
オブジェクトレーダーに関しても、敵性モンスターで絞込みをかけていたので表示されなかった、というだけだ。
まぁ、俺としてもこんな女の子を問答無用で消し去りたくはない。幽霊だけど。
「じゃ、じゃあ、何でさっきは泣いてたの?」
俺の隣で、アリサが恐る恐るレンファへと尋ねる。
友好的であれば幽霊でも何とか大丈夫らしく、先ほどまではアリサ達も親身になって話を聞いていた。まだ足が若干プルプルしてはいるのだが。
『確かに怨霊化していて怖かったデスケド……。でも、いきなり皆が消えたらもっと怖いに決まっているデスネ!』
「そ、そう言われてみれば……ひっ!?」
レンファが涙声で叫ぶと、その拍子に本棚から虫食いだらけの本が飛び出し、これまた窓が勝手に開いて外へと飛んでいった。ポルターガイストかよ。アリサが余計に怯えてしまった。
彼女の頭を撫でながら、俺はどうしたものかと口を開く。
「あー、その、悪かったな。怨霊化していたとはいえ、生前の同僚だったんだろ? そいつら問答無用で成仏させてしまったんだが……」
『それは気にしないでいいのデスヨ。アーちゃんやリンリンも、怨霊になって彷徨うのは飽きていたと思いマスネ』
俺が謝ると、レンファは力なく笑った。
元より顔見知りだった相手が、怨霊になって怖い顔で彷徨い歩くのだ。それが一年半も続けば、閉じこもっていたとはいえ苦痛だっただろう。
『しかし、よく皆を成仏させられマシタネ。ここには教会の方も時々来ていたのデスケド、手も足も出ずに帰っていったデスネ……』
「ああ。そうらしいな」
ターブさんが言ってたな。教会でもお手上げだったと。
実際にどのくらいの強敵だったのかは分からずじまいだが、俺には『天獄聖界』があるからな。
このスキルは前提が鬼畜過ぎる分、効果も絶大。敵意を向けてくるオバケモンスターなら問答無用で殺せる最強格の魔法だ。
『ナルホド。ということは、アナタはスゴ腕の魔法師様なのデスネ!』
「あ、ああ。まぁ、色々とな」
「ご主人しゃまは神しゃまなのです!」
チワの神様発言は否定したいところだが、さすがにチートでズルしてますからとは言えない。
『そんなお方が来てしまったのであれば、ワタシも年貢の納め時デス。潔く皆の後を追いマスネ……』
両手首を前に出してお縄に頂戴のポーズをとるレンファ。
う、うーん。別にできないわけじゃないけど、できるだけやりたくないんだよなぁ。
(……ん? 待てよ)
ドナドナされようとしているレンファを見ていると、一つの案が浮かぶ。
ふむ。これならいけるかもしれない。
「成仏させる前に少し聞きたいんだが、レンファってどんなことができるんだ?」
『……ハイ?』
何故今聞かれるのかわからないといった表情で、レンファが顔を上げる。
その際に頭のシニョンが揺れ、チャイナ服の裾がひらりと舞った。
「特技だよ特技。元々メイドだったみたいだし、幽霊になってからは色々と出来ることが増えているんじゃないのか?」
『ハ、ハァ。生前は掃除洗濯をよくやっていマシタし、死んでからはこういうコトも出来るようになりマシタケド……』
そう言ってレンファが寝室の扉を一瞥すると、バタァンッ!と音を立てて盛大に開いた。屋敷中の窓もダダダダンッ!と大きな音を立てて一斉に開放される。オバケ怖い組が「ひいいぃぃん!!」と絶叫して俺に抱きつ……これはレンファが直接やったわけじゃないか。間接的ではあるけど。
(……うーん。色々と便利な能力だな)
正直なところ、これだけの人材を成仏させるには惜しい。
魔法でこういったことが出来ないわけでもないのだが、やろうと思ったら複雑な魔法陣を組むか、精霊魔法を使う必要がある。
一応、俺は人間(かどうかは怪しいが種族的には人間)なので、エルフのみが習得できる精霊魔法は使えない。これはスキルセットがあろうと同じだ。
レンファの使っているサイコキネシスの原理も、おそらく精霊魔法に通じるものがあるのだろう。
他に家事も出来るようだし、これだけの特技を持つ彼女を素直に浄化してしまうのは気が引ける。というか、無害な幽霊少女を浄化するのは心が痛い。
「なぁ、レンファ」
『……? どうしマシタ?』
キョトンと見上げてくるレンファの目を見て、俺は至極真剣に言い放った。
「うちで働いてみないか?」
□
レンファとの交渉を終えて不動産屋に戻ると、ターブさんが満面の笑みで出迎えてくれた。
誰一人欠けることなく帰ってきたからか、すぐさま応接室に案内され、香りの良い紅茶とクッキーを出してくれるくらいの上客とみなされていた。
その際、チワ達の分まで茶菓子をもらえたので、ターブさんの評価が急上昇中である。
「その調子だと、無事に退治できたのだな」
「ええ。色々とオマケも貰えたことですし、最高の物件でした」
俺はソファに沈み込みながら、目の前で契約書をまとめているターブさんに頷きを返す。
もう満点だったな。特にオマケが。
「そのオバ……オマケがあたし達にとっては一番の不安要素なんだけど……」
「大丈夫だって。サイコキネシスは事前に断ってから使うようにしてもらうから」
「……ん。絶対に約束」
「リュウタロウさん、何やら気になる会話が聞こえた気がするのだが」
「「「別に何も」」」
俺とアリサとベルンがシンクロする。
それを見てターブさんは不審な顔をしたが、深く詮索せずに契約書をまとめる作業へと戻った。
「うむ。私も良い拠点を見つけられたと思うぞ」
「家自体はいいのですが~……」
「いきなりやられると心臓が飛び出るのニャ」
「なのです……」
「ショックで死んじゃうかもねぇ……」
ツバキさんの頷きに、シェリスさんもしぶしぶ同意している。クッキーに目を輝かせているチワ達は、あの心霊現象をやられるのが心臓に悪いらしい。
(まぁそれを補って余りあるメリットが発生しているんだし、多少は妥協しないとな!)
屋敷自体もさることながら、やはりレンファを雇えたのが大きいだろう。
金銭を貰っても地縛霊だから使い道がないとか飲食できないとか言っていた彼女だが、あるモノを俺が作れるかもしれないと知ってからは、目の色を変えて『是非とも働かせてクダサイ! 何でもしますカラ!』と掴み掛かってきた。ちなみに、そのとき本棚が窓から飛んで行って駄目になった。
幽霊をもその気にさせるスキルセットさん、マジチートですわ。
「まさか教会ですらお手上げだった幽霊屋敷問題を、ほんの一時間で解決してきてくれるとは。てっきり逃げ帰ってくるものだと、私は思っていたのだよ」
「え、ええ。あの、退治したことは、あまり口外しないでもらえると助かります」
「ははっ。そこは気にしなくてもいいのだよ。私達は信頼がないとやっていけない商売だからね。客の情報を売ってしまっては、この都市で生きていけなくなるのだよ」
契約書へとペンを走らせながら、ダンディな低音ボイスで言い切るターブさん。
うーむ。どうやったらこういう大人になれるのだろうか。秘訣を聞いてみたいものだ。
「よし。これで書類自体は終わったのだよ。後は最後の確認だ」
俺達が紅茶を楽しみながら待つこと数分。
せわしなく動いていたターブさんの羽ペンが止まった。
「前金で虹金貨を二枚、いや一枚か。土地代含めて残り虹金貨四枚分を、月に2%の利子付きで支払う。分割で一ヶ月ごとの四回払い。間違いないだろうか?」
「ええ。大丈夫です」
推定日給七十万の俺達だし、月に百万程度ならどうってことはない。なんという狂った金銭感覚。
しかし土地付きで四百万って、日本から考えると相当に安いよな。日本の地価が高すぎるっていうのもあるんだが。
利子に関しては、まぁ通常の範囲内だろう。四百万の利子2%となれば、一ヶ月で全額払ったとしても、それだけで八万。四回分割だからもう少し上がるか。
まぁ今のところ借金をしている身だ。文句は言うまい。
「この都市に住居を構える以上、年に二度の春と秋に人頭税を払うことになっている。春の人頭税を払っていないという話だから、その手続きは今からする。それでいいのだな?」
「かまいません」
ターブさんに頷きを返すと、俺はアイテムボックス(inポケット)から前金分の虹金貨一枚、税金用の白金貨一枚、銅貨三枚を取り出す。
テーブルの上に置いた白金貨は、人頭税一人あたりの金貨二枚を五人分まとめたものだ。ちなみに銅貨は手数料。
チワ達の人頭税は本来なら銅貨五枚ずつを払う必要があるのだが、今は三人を借りているだけなので、特に悩むべきところはない。自分の奴隷じゃない以上、俺達が払う必要性はないのだ。
彼女らを買い取ることになれば別だろうから、その時はまたターブさんのお世話になるとしよう。
「確かに受け取った。では、こちらで手続きを行う。残りの詳細は契約書に書いてあるから、今すぐに全部読んでほしいのだよ」
「今すぐに全部、ですか?」
「後で契約条件が違うと言われても困るのだよ」
俺に分厚い契約書を手渡しながら、ターブさんが苦笑する。
冒険者ギルドからの斡旋を請け負うからか、やはりそういった金銭トラブルみたいなものがあるのだろうか。
荒っぽいからなー、冒険者って。俺が言うのもなんだけど。
「分かりました。じゃあ、少しだけ時間をいただきます」
「ああ。不明な点があったら質問するといいのだよ」
ターブさんの言葉に従って契約書を机の上に広げ、四姉妹と検分しながら読み進めていく。
分からない部分をターブさんに聞きながら調べていったが、特に問題になるような箇所は見当たらず、三十分程度で全てに目を通し終えた。
すごく、すごく意外な事に、ツバキさんが普通に読み進めていたのが衝撃的だった。ただの脳筋じゃな、あ、痛い痛い腹の肉を抓らないでください。
「と、とりあえずは、これで大丈夫です」
「分かった。では契約書はそのまま持って帰ってくれ。色々と手続きがあるから、明日から住めるように……どうしたのかね? わき腹を押さえて」
「いえ、何でもありません……」
優しさが身に染みる。自業自得なんだけどさ。
ターブさんは清掃業者の紹介サービスも請け負っているらしいが、それは丁重にお断りさせてもらうことにした。
今頃、レンファが全力でお掃除中だろうからな。朽ちた箒やモップがひとりでに駆け回るような屋敷は、さすがに見せられない。一応、人が入ってきたら止めるようには言ってあるけど、万が一がないとも限らないし。
「これが鍵だ。今からでも立ち入りや寝泊り自体はできるが、役所の手続きが終わっていない以上推奨はできない。明日からにしてくれ」
「分かりました。それじゃあ預かっておきます」
ターブさんから鍵束を受け取る。
全部で十以上もある鍵束なのでどれがどれだかは分からないが、後々試せば良いだろう。
契約書と一緒にアイテムボックスへ収納しておくか。
「今のところは、これで全部だ。また何かあったら訪ねてくるといいのだよ」
「そうですね。こちらも良い買い物ができました。機会があったらお願いします」
そう言って俺達は立ち上がり、ターブさんに礼をしてから不動産屋を後にする。
いい人だったし、近いうちにまたお世話になることだろう。
なお、クッキーはソファから立ち上がった瞬間に消えた。思い当たる節は二人しかいない。甘味大帝か食欲魔人だ。俺にとっては消える食べ物の方がホラーだよ。
「さて、今からどうするかな……」
不動産屋から雑多な街中へ出た瞬間、中央の方角から鐘の音が響き渡る。
三回ほど鳴った荘厳なサウンドは、午後三時を示していた。
「今から迷宮に行くにしても、少し中途半端な時間よね……」
「うむ。あと二時間程度で日が落ち始めるからな。迷宮探索を再開するにしても微妙な時間帯だ」
「二十層のボスを数回倒す程度でしたら、大丈夫ではないでしょうか~?」
前回の迷宮で二十階層と二十一階層に転移魔法陣を置いてきている為、そのくらいなら時間的にも問題ない。
シェリスさんの案は問題なく実行できるだろうが……実のところ、俺は少々気が乗らなかった。
「それもアリなんだけど、あまり推奨できない行為らしいんだよ」
「……ん。ボスが強化される」
どうにも冒険者の間では『連続ボス狩り』することをマナー違反だとしている節がある。
強いパーティーが下位迷宮でボスを倒し続けると、迷宮のバランス調整能力が「弱すぎる!」と認識してしまい、たまにバグみたいな強さを持ったボスモンスターが出現することがあるらしい。
俺達のせいで超強化されたボスに初心者冒険者が殺されまくった、なんて報告を聞くと寝覚めが悪い。
もちろん、強さが不明なボスに挑戦する以上、その冒険者達の自業自得ではあるのだが。
(時間的にも迷宮に行くのは微妙。ボスを倒すにしても一回だけだ。それ以外なら……後は、装備品とか家具を見に行くくらいか)
宿屋自体は明後日まで先払いで契約しているため、どのみち後二日は屋敷に住むことが出来ない。
ならば、その間に家具などを購入しておくのが妥当だろう。
「今日は休息日にして家具を見に行ってみないか?」
「いいわね。そうしましょ!」
「……賛成」
「ですね~。他に必要な案件などがあれば済ませておきましょうか~」
アリサ達が喜んでいるなか、シェリスさんが俺に向けて視線で問いかけてくる。
今のうちにやるべき事といえば何があるだろうか。
「そうだな……。できれば、ツバキさんの剣やチワ達の装備をアップグレードさせておきたいな」
「私の剣を、か? ふむ……」
ツバキさんに関しては現時点すら完全にオーバーキル級なので、早急といえるほどはない。
しかし、あまりにもボロボロな獣娘三人については装備を整える必要があるだろう。
「チワ達の分も……なのです?」
「何でそんな必要があるのニャ?」
「変な方ですねぇ」
俺の発言を聞いて、獣娘三人はキョトンと首をかしげていた。
元より四姉妹が三人の購入に賛成派だったし、そうなればチワ達を購入することは半ば決まっているようなものだ。
シェリスさんに聞いたところ、冒険者が戦闘奴隷を借りてそのまま買い取ることは珍しくないらしい。
というか、俺のポカで転移魔法を認めてしまった時から、できれば仲間にしたいとは思っていた。
(ってことは、できるだけ早め早めがいいんだよなぁ……)
顎に手を当てて考えてみれば、これは早急に解決したほうがいい問題か。
俺達の噂が大きく広まってから買い取りに行くと、値段を無駄に吊り上げられるかもしれない。
三人の価値を下げたくないので妥協する気はないのだが、あまりにも法外な出費は避けたいものだ。
うん。そうと決まれば即行動することにしよう。
「皆はターブさんに家具屋を教えてもらって、そこに行ってくれ。俺は迷宮の入り口に飛んでみる」
「了解しました~」
「リュウ……ってことは……」
「ああ、奴隷商人のところに行ってくるよ。とは言っても、見つけてレーダーに登録するだけだがな」
その言葉だけで四姉妹は気付いたようだ。逆に、チワ達はビクッと震えてしょんぼりしてしまった。
俺が離れるのは少々不安だが、今は状態異常無効化の『エンゲージ・フローレスハート』が起動している。単独行動しても問題ないだろう。
フラグじゃないぞ。たぶん。
(まぁ、念のために保険をかけておくか)
そう思った俺は、すぐにメインメニューを開く。
単独行動や別行動をする際に必要となるのが、連絡を取り合う為の通信手段だ。
この世界に携帯電話というものが無い以上、連絡を取るためにはあらかじめ待ち合わせておくか、手紙や書置きなどの媒体。もしくは高価な魔道具を使うしかない。
一応、空撃魔法師同士ならば『テレパシー』の魔法スキルを使えるのだが、これは一対一でしか会話が出来ないので、多人数に何かを伝えることには向かない。
しかもテレパシーの内容は『ワイアータッピング』という魔法によって盗聴される可能性があるため、あまりオススメされない。俺達のように身分を隠している場合だと尚更だ。
(とは言っても、それよりも便利な魔法を持っているんだから関係ないけどな)
メインメニューの一点に触れ、エンゲージウィンドウを呼び出す。
出てきたウィンドウの右上にはエンゲージの有効時間が表示されており、今は【3h56m11s】となっていた。ざっと四時間程度か。
それを確認してから、エンゲージウィンドウのスキルに目を向ける。
今は『エンゲージ・フローレスハート』しか有効化させてないため、残る数十個のスキルが暗いままになっていた。
おそらく、そのほとんどが日の目を見ることはないだろう。
(四姉妹の武力に関してはバグもいいところだから、ぶっちゃけ補助スキルくらいしか意味ないんだよなぁ……)
大半のスキルが無用の長物と化していることに、少々悲しい思いをしてしまう。
逆に考えれば必要なスキルが絞られるという事でもあるため、そこは一長一短といえるか。
(まぁ、スキルポイントが限られているんだから、むしろ利点のほうが多い。今は大助かりだ)
そう思いつつ、残るスキルポイントを2つ消費してスキルを習得する。
最大ポイントが4であり、既に『エンゲージ・フローレスハート』にも使っていたので、残りは1ポイントだ。
貴重なポイントを使って習得したエンゲージスキルは以下の二つ。
===========================================
【エンゲージ・シンパシー】
RANK:UNIQUE
消費恋力:5(Active)
想いの力が心を結ぶ。自身とエンゲージ対象で意識を共有し、離れた場所でも会話が可能となる。
===========================================
【エンゲージ・トレジャーリング】
RANK:UNIQUE
消費恋力:10(Active)
想いの力が互いを繋ぐ。自身とエンゲージ対象で共有倉庫が使用可能となる。
===========================================
前者はネトゲであるところの多人数チャット。
後者はマイ○クラフトで言うなればエ○ダーチェストか。
多人数チャットの『エンゲージ・シンパシー』に関してはいつの間にか追加されていたので、この機会に習得しておくことにした。
このスキルを習得する利点は、距離があっても多人数で安全な会話が可能であるということか。テレパシーなら盗聴できても、固有魔法までは盗聴が出来ないからな。
戦闘中においても安全に作戦を伝えることができるのは大いに歓迎すべきことだ。
後者の共有倉庫は最初から存在していたが、こちらは習得する意味が薄かったというのが一番の理由だ。
なにせ普段はアイテムボックス持ちの俺が常に一緒にいるのだし、離れ離れになるという事態もあり得なかった。背負っているリュックを収納するという使い方にしろ、元よりリュック程度が重荷になるほど四姉妹は弱くない。
しかし、単独行動するようになれば、離れた場所から金貨を渡すといったことも必要になるかもしれない。最初から入れておくのは浪費が怖いから止めておくけどな。
「保険用のスキルを試したいんだが……さすがに路上でやると変人に見えるから、ちょっと移動するぞ」
「なになに? どんなスキル?」
「使ってみてのお楽しみだ」
内心で色々考えようともアリサ達には伝わらないので、実際に使って試すしかない。
そう思った俺は、全員を引き連れて不動産横の路地へと移動する。
薄暗い小道には丁度いい木箱が散乱していたので、椅子代わりに使わせてもらうことにしよう。
「チワ、シャム、キキ。お前達は少し暇になるだろうから、これでも食って待っていてくれ」
全員が木箱に腰掛けるのを見届けてから、俺はアイテムボックス内の串焼きを三本取り出す。
今朝の屋台で買ったものだ。一本銀貨一枚とお高いが、うちの食欲魔人が認めるほどの逸品。その味にはそれだけの価値がある。売り切れる前に買っておいてよかった……。
ゴロッとした大き目の肉には良い感じの照りがついており、肉に挟まれた野菜はシャキシャキ感を残しつつもきっちり火が通ってる。ケチャップとオイスターの香りがするソースは、食欲のそそる匂いを周囲に拡散させていた。
「わぅ? いいのですか?」
「遠慮せずに食え。一人一本だ。三人分あるからな」
「い、いただきますなのニャ!」
「キキも食べるのねぇ!」
オヤツ時にその匂いは効いたらしく、三人は我先にと群がってきた。
受け取ると瞬時に口を開けてパクつき、頬にソースをつけながら美味しそうに食べ始める。
さっきまで悲しそうな表情をしていたが、今では口いっぱいに頬張って満面の笑顔だ。メガかわゆす。
「……じゅるっ」
君は朝方で散々食い散らかしたでしょうに。
我慢しなさい。
「さて、じゃあ使ってみますかね」
獣娘達を羨ましそうに見るベルンを放置して、頭の中で「エンゲージ・シンパシー」と唱える。
その瞬間、背筋にピリッとした電流が走った。四姉妹も震えていることからして、同じような感覚を覚えたのだろう。
≪あー、テステス。聞こえるかー?≫
「えっ? う、うん。聞こえるけど……」
「ほう。これはこれは……」
俺の口が動いていないのに声が聞こえた為か、四人が困惑する。
頭の中に響くような声はレンファが使うものに似ているが、それよりもクリアに聞こえる。
レンファの声が電話のような感覚なのに対し、シンパシーはリアルの声とほぼ同等だと言って差し支えない。
≪口に出さなくても、頭の中で喋るだけで聞こえているから大丈夫だ≫
≪こ、こうですか~?≫
シェリスさんが目を瞑りながら語りかけてくる。
最初は口を手で押さえながらシンパシーを使っていたが、すぐに慣れた様だ。
他の皆もシェリスさんに倣って短時間で理解したらしく、一分と経たずに脳内会話が出来るようになった。飲み込み早いなー。
≪そんなところだ。頭の中で『エンゲージ・シンパシー』って言えば全員に繋がるから、別行動中に何かあったら伝えてくれ≫
≪……ん。了解≫
≪これって誰かと一対一で話すことは出来ないの?≫
≪あー。それは無理らしいぞ≫
仕様からして俺達専用のチャットルームを常駐させるようなスキルだ。
あくまで離れた場所で全員の意思疎通をするものであって、そういったプライベートな話には向かない。その辺は実際に会って話すしかないだろう。
≪それと、もう一つ習得したスキルだが、こっちは左手を前に出した状態で『エンゲージ・トレジャーリング』って言えば起動する。使い方を説明するから覚えてくれ≫
そう伝えてから、俺自身も『エンゲージ・トレジャーリング』を起動させる。
今まで使ってきたアイテムボックスは、縦一列のウィンドウにリスト化されてスクロールするタイプだった。
それに対し、トレジャーリングは高さ5マス×横20マスで構成された横長のウィンドウになっている。
(へぇ~。ちょっと違うんだな)
試しにアイテムボックスから串焼きを更に二本取り出し、串を二回ずつタップする。
出てきたポップアップウィンドウも新たに選択肢が増え、今までの『アイテムボックスへ収納』に加えて『トレジャーリングへ収納』が表示されている。
トレジャーリング側に二本収納してみると、ウィンドウの端にデフォルメされた串焼きアイコンが追加された。1マスにつき一種類収納できるのか。
こっちの方が使いやすそうだ。
(まぁ、使いやすくても収納個数が制限されているからなぁ……)
四姉妹に使い方を説明しながら、俺は内心で苦笑する。
トレジャーリングもアイテムボックス同様、スキルポイントを追加することで最大容量を増やすことが出来る。
しかしポイントが限られている以上、あまりこのスキルへ振ることは出来ないだろう。
もっとも、それが本来の使い方なので何とも言えないが。
≪……ん。覚えた≫
食欲ゆえか、こちらの使い方を一番に理解したのはベルンだった。
なお、いつの間にかトレジャーリングの串焼きアイコンから肉が消えている。早すぎるよ。
≪ふむ。これは便利だな……≫
≪一人あたり20種類収納できるって思えば、悪くないわね≫
≪リュウ様が自前のアイテムボックスを主にお使いになると考えれば、25種類になりそうですね~≫
≪だな。実質的には、ほとんど四人専用だ≫
四姉妹も気に入ったようだ。
今から全ての家具を揃えてもらうわけではないが、気に入ったものを買っておいてトレジャーリングに収納することもできる。
せっかく習得したのだから有効に使ってもらおう。
≪家具を見るついでに、日用品とかで必要なものがあったら揃えておいてくれ。俺が一緒にいると、デリケートな品を面と向かって買えないだろ?≫
≪まぁ、そうね。気が利くじゃない≫
そういうところ気をつけろって言われたからな。宿屋の女将さんに。
≪だから、俺は二時間ほど別行動をとるよ。その間にチワ達の服も揃えておいてくれ。無理矢理でいい。費用はトレジャーリングに入れとく。一人三万円ずつと考えて……白金貨一枚もあれば十分だろう≫
そう考えながら、俺は四姉妹に一枚の名刺を渡す。
昨日の爺さんから預かっていた『アロイージ洋服店』のものだ。ここなら悪いものを売っていないと思う。
例えボッタクられたとしても、元より四姉妹の資金は白金貨一枚以下ずつしかない。そこまで派手な痛手にはならないだろう。
俺達にしてみれば、白金貨四枚なんて迷宮で一日ヒャッハーすれば取り戻せる額なのだ。金銭感覚が順調に壊れてきておりますのん。
≪む。服の購入は三人を買ってからではないのか?≫
≪まぁ、俺なりの決意表明みたいなもんかな。先に周りを固めておけば、もう後には引けないだろ≫
ツバキさんの問いに、俺は肩を上げながら返答する。
相場を考えるに、普通の値段なら三人を買い取れないことはないはずだ。あの奴隷商人は「死んだら白金貨二枚」って言っていたからな。
たとえ先日の件を根に持って売ってくれないパターンになったとしても、別の手段は考えている。
今のところは問題ない。
「よし。そろそろ行くとしようか。三人への説明は帰ってきてから俺がするよ。それまで、みんなでショッピングを楽しんできてくれ」
キョトンとしているチワ達を置いて、俺は木箱から腰を上げる。
今までほとんど『エンゲージ・シンパシー』による会話だったが、三人は串焼きに夢中だったからか大して気にしていないようだった。
「チワ、シャム、キキ。お前達は今から二時間、遠慮をするな。これ命令な」
「わぅ?」
「ニャ?」
「ふぇ?」
あえて三人から視線を外して言い放ち、四姉妹に目配せをする。
視線に込めた意味は「思いきり着飾ってやれ!」だ。
それを受けて小さく苦笑した四人を尻目に、俺は瞬間転移を起動した。
さて。合流したときが楽しみだな。
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AUTHOR:話数のストックが両手で数えられる程度になってしまったので、少しの間だけ数日おきの更新です。艦隊をコレクションする某ブラウザゲームでも、残り資材が5桁になったら備蓄に走るタイプなのです。
ストックが充実してきたら、また一日おき更新に戻ります。
あと、『シンパシー』使用中の会話がちょっと見にくいので、後々変えると思います。こういったレイアウトは実際に投稿してみないと分からないので、そこはご了承ください。
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