家探しでございます
----------------------------------------------------------------------------
AUTHOR:更新時間が乱れに乱れている現状。そろそろ予約機能使おうかのぅ……。
----------------------------------------------------------------------------
多人数のパーティーが大きな素材を持ってきたときのために、ギルドには鑑定専用の倉庫が複数用意されていた。馬車で運んできた人用に、裏口からも入れるらしい。
そのうちの一つ。下手な体育館ほどの広さがある倉庫で、俺はアイテムボックスから巨大ムカデの素材や魔石や解毒虫に陽光草エトセトラエトセトラを放出する。
「ほおう。さすがはアイテムボックスやな。これは面白いわ」
「うんうん。リュウがこんなに色々隠し持ってるなんて、普通は誰も思わないわよね」
「すごいのです! いっぱいなのです!」
山と積まれていく素材を見ながら、モニカさんは興味深げに目を輝かせていた。
四姉妹やチワ達は既にアイテムボックスから物を取り出すところを見ていたのだが、これほど大量に取り出すのは初めてだ。そのため、霧が集まるようにして出現する品々を、モニカさんと同じような目で見つめていた。
(しかし、意外に量があるな……)
ムカデ野郎だけでも大量の素材があるのに、二十層へ到達するまでに倒した雑魚の分も多少ながら含まれている。ショートカットし続けたので数は少ないが、それでも三百近くの素材と魔石になるだろう。一階層につき十五匹を倒したと考えれば、大して多くもないのだが。
ついでに言えば先日のノーライフキングを討伐したときの精算もまだだったので、その素材を合計すればかなりのものになる。
地道にポチポチとアイテムボックスを操作し、二分ほどしてようやく吐き出し終えた。
「これで最後ですね。計算に時間がかかるようでしたら……」
「いんや。うちはコレがあるから楽に済むんよ」
ギルドのロビーで待っていようかと思ったところに、モニカさんがウィンクした片目をトントンと叩く。
便利っすなー。
「やから、もう計算は頭の中で終えとるんやけど……これだけは持ってお帰り」
モニカさんはそう言うと、素材の山の中から一つを拾い上げ、俺のところに持ってきた。
彼女の手に抱えられている水晶の杖は、未だ不死の王が持っていただけはある威圧感を感じさせる。
「っと……これは?」
聞き返してみるも、それは俺自身がよく覚えているモノ。
つい先日ベルンから預かった杖である『霊仙杖ジャカコウ[+12]』だ。
白い瞳でその杖を見つめながら、モニカさんは俺の胸へ杖を押し付ける。
「これはギルドで売らん方がええ。あんさんらが損する。外のオークションに出せば、間違いなく白金貨数枚の値がつく代物やね」
「あ、ありがとうございます。優しいんですね、モニカさん」
なんとも親切な人だ。ギルドで買い取ってからどこかに出品すれば差額で儲かっただろうに。
ぐーたら爆睡受付嬢から評価がうなぎ上りなモニカさんは、感謝の言葉を聞くと首を横に振った。
「そんなんやない。目に見えた価値とは明らかに違うと分かっとる時は、絶対に買い取らんようギルド長から言われとるんよ。仮に嘘ついて買い取っても、真偽官がおるから誤魔化せんしな。もし買い取ったことがバレたら、まぁ、口には出せんようなお仕置きされるんからなぁ……」
後半になるにつれ引き攣ったような顔をするモニカさん。
ギルド長って、あの精霊魔法使いの微妙に怖いエルフ、ミストさんか。お仕置きの内容は知らぬが花なんだろうな。
「あー、それにな……こんな仕事しとると、魔眼を使わずとも目が肥えてんのよ。うちの目は価値を決める目やけど、常に価値は移り変わるもんやし、この目で見えん価値もある。その杖は、この目で決めたくない価値やった、ってだけや。…………あんさんのようにな」
最後の言葉がよく聞こえなかったが、ともかくモニカさんにはモニカさんなりの流儀があるということなのだろう。
なまじ価値が分かる分、そこでは示されない人間の可能性に賭けてみたい、とか、そういった感情があるのかもしれない。
「ま、ともかく鑑定は終わりやね。戻って精算しよ」
彼女が鑑定部屋の扉を開けて先を促したので、俺達もそれに追従する。
廊下を歩いて再びギルドのロビーに戻ってくると、モニカさんはカウンターに座って精算を始めた。
「ほい。白金貨六枚に金貨九枚、銀貨が五枚と骨貨は三枚やね」
「ちょっ!? ん?」
モニカさんが俺にギルドカードを返却するとともに、今回の売却額をカウンターの上へと超アバウトに撒き散らす。ズボラの究極系みたいな人だ。
最初は「ほぼ一日で七十万の収入!?」とか「こんな大金を生身でバラけ出すなよ!」とか「あんさん本当に受付嬢なんか!?」とか思った俺なのだが……。
モニカさんの言葉を聞いて、それ以上の疑問が浮かび上がっていた。
(コツカ? なんか、動物の骨で出来ているみたいだが……)
カウンターの上にばら撒かれた二十三枚の硬貨のうち、たったの三枚。
白い動物の骨で作られたような、十円玉サイズの硬貨だ。表面には剣を持ったライオンが彫られている。剣が薄く光っているため、何かの魔法陣も一緒に刻まれているらしい。
こんなの初めて見たぞ?
「どしたん? さっきもちょろっと言ったけど、うちらは誤魔化しなんかせんよ? 変なことしてギルド長から『質問します。値段を偽りましたか?』って聞かれたら、お仕置き部屋直行コースやからな」
意外と似ているモノマネを聞いて、ベルンが首をひねる。
「……受付で寝るのは、直行コースじゃないの?」
「そ、それは、まぁ、どうでもええやないの!」
よくねぇよ! と叫ぼうかと思ったが、どうやらそのツッコミをするまでも無かったようだ。
後ろからカツカツとハイヒールの音が迫ってきているのに、モニカさんは気付いていなかった。
気付いていたのは、俺達と、彼女の隣に座っていたターニャさん&クレアさんだけ。
ターニャさんのキツめの印象を感じさせる瞳が閉じられ、両の手は冥福を祈るように合わせられている。その向こうでも、クレアさんが遠い目をしていた。
「質問します。あなたは業務時間中に熟睡していましたか?」
自身の後ろから聞こえた声に、金属が軋むかのような音を立ててゆっくりと振り向くモニカさん。
もう見るまでも無いと思うんだよね。この口癖をする人なんて、俺は一人しか知らないし。
「あ、あわ、あわわわわわわ。ぎ、ギルド長……」
新緑色の長髪をなびかせ、スレンダーなボディーラインにドレスを纏って悠然と近づいてくる女性。
端正な顔立ちにエルフの細長い耳とくれば、もう彼女以外に思い当たる節はない。
隣のカウンターや近くに居る冒険者達も、あの透き通るような美貌に見とれてしまい、その動きを止めていた。
「黙礼します。おはようございます」
「おはようございますなのです」
「おはようございますなのニャ」
「おはようございますなのねぇ」
ミストさんは、俺達に微笑を。ギルドで働く従業員には敬意のこもった一礼を。チワ達には「可愛らしいです」と、まるで我が子を見守るかのような目を向けていた。
約一名に対しては極寒の視線を投げかけていたが。
「ち、ちがうんです。これは、その、事故なんです。たまたま朝の日差しがお昼寝に最適だったんですよ。そういうことって、無いですかね?」
「いや、無いだろう。少なくとも朝の日差しという時点で昼寝に適していない」
ツバキさんの意見に、周囲の全員が首肯した。
「反問します。あなたは一昨日も同じ事をしていませんでしたか?」
「そ、それは……」
「くぉ、お、一昨日もぅんふっ!」
不意打ち過ぎて、アリサが堪えきれずに噴き出した。俺も『ポーカーフェイス』を使っていなければ危なかった。
この人、ギルドに働きに来ているんじゃなくて、寝に来ているんじゃないのか?
「断罪します。これで通算十回目の注意勧告。お仕置き部屋行きです」
「じ、十ぐひっ!」
追撃によってアリサの腹筋が破壊された。
というか、ミストさんはよく九回も許したな。仏の三倍とか寛容にもほどがあるぞ。
「ちょ、ちょっ、待って、堪忍してください! そ、そうや、うちはリュウタロウさんのお世話が……」
「拒否します。あなたには、ギルドの受付嬢としての自覚が足らないようです」
顔面蒼白になっているモニカさんは、ついに小さく震え始めた。
そんな彼女のメイド服の襟首へ、ミストさんが視線を移す。
すると、透明な手で引っ張られているかのように、モニカさんを地面に押し倒してズルズルと引きずり始めた。
便利だなー、精霊魔法って。
「い、嫌やっ! まだうち死にたくないん! お、お尻は出すところであって、入れるところじゃ……!」
「拒絶します。それに、お尻も悪くないものですよ? ……では、リュウタロウ氏。私達は少々急用ができましたので、席を外させていただきます」
「アッ、ハイ」
「ぜ、絶対無理やって! きゅうりはともかく、ナスと大根は……ちょ、ターニャちゃん、助け、アッー!!」
「うふふ。さようなら~」
よし、見なかった。俺は何も見なかった。
モニカさんという人物は最初から居なかった。連れ去られるようにしてギルドの奥の扉に消えて行った女性は、ただの幻。クレアさんとターニャさん、そして三姉妹(笑い転げているアリサを除外)が合掌しているのも白昼夢。いいね?
しかし……この共感するような感情は何なのだろう。俺も昨日の夕方に似たようなシチュがあったような……。思い出すと死にたくなるかもしれないから、これ以上は思い出さないけど。
「お尻? きゅうり? ナス? 大根? どういう意味なのです?」
「よく分からないニャ」
「一緒に煮込むと美味しいんじゃないかなぁ」
キキよ、少なくとも最初の一品は食べ物じゃないぞ。
なお、その後クレアさんから教えてもらって知ったのだが。
骨貨というのはレガルでのみ使える貨幣で、銅貨の十分の一の価値、つまり十円にあたるのだそうだ。
なんでも、元々は最低貨幣が銅貨(百円)だと大きすぎると、平民達が軽い食料品や日用品を取引する為に始めたことらしい。
骨貨自体は、モンスターの必要ない骨の部位をベースにして複数の素材を混ぜ込んだもので、この都市の商業ギルドが管理している。レガルが迷宮都市だからこそモンスターの骨で作られているのだが、学術都市なら紙幣だったり、山岳都市なら木貨だったり、砂漠都市ならトゲ無しサボテンだったり、海岸都市なら珊瑚だったりするようだ。記念硬貨みたいなもんだと思えばいい。
もちろん、ただの紙やサボテンを通貨にしてしまうと近所で拾えてしまう為、特有の魔方陣と紋章を刻んで偽造できないようにしてある。
これを知っていたのは、四姉妹の中でも経済学を嗜んでいたシェリスさんと、普段から極貧生活をしているシャム達だけだった。
今までお目にかかれなかった理由は、都市内部でしか使えないという都合上、冒険者ギルドとしてもできるだけ渡したくない為だったらしい。まぁ、地域限定の金だし何となく分からないでもない。
本来はギルドに利用料としてピンハネされるような貨幣なのだが、今回は骨貨で払うような小さなクエスト(陽光草の採取)があったために、報酬として出てきたのだ。
ちなみに「何故最初の出発で貨幣価値を聞いたときに教えてくれなかったのか?」と聞いたところ、シェリスさんは「黙っていたほうが面白そうだったからです~」と言った。
彼女をヘッドロック十秒ずつで許してあげた俺達(アリサ、ツバキさん、ベルン、俺)は、これ以上ないほど賞賛されても良いと思うんだ。
□
ギルドを出た俺達は、クレアさんから紹介された借家の斡旋業者を訪ねるために大通りを歩いていた。
朝の遅い時間なので人通りは少なく、道の真ん中を悠々と進むことが出来る。とはいえ、四姉妹は道端の屋台が珍しいのか、結局は道の端を右往左往していたが。
ちなみにシェリスさんは今だに頭痛がするらしく半泣きだ。自業自得です。
「あ、そうだ忘れてた。チワ、シャム、キキ。昨日の働き分だ」
四姉妹の後について屋台を見て回っている獣娘達に、俺は小さい布袋を放る。
買い食いするなら必要だろう。
「これは……何なのです?」
「何って、昨日の働いた分だよ。銀貨五枚は日給にすれば少ないだろうが、取っとけ」
チワは袋を受け取ってもポカンとしている。シャムやキキも同様だ。
獣娘達に渡したのは、昨日の迷宮で五時間ほど素材剥ぎ取りを手伝ってもらった駄賃。一時間あたり銀貨一枚、つまり時給千円と考えれば悪くない数字だと思う。
死の危険性があったにしては安いかもしれないが、ぶっちゃけ俺達といて命を賭けるような事態になるはずもないので、そこは俺がいた日本のバイト代を参考にさせてもらった。
三食宿付き残業なし深夜労働なし。なんというホワイト企業だ。まぁ危険手当も無しだが。
「「「…………」」」
何でそんなに唖然としてる。まるで空飛ぶ鶏を見たような顔して。
後ろから来た人が迷惑してるから、早く歩きなさい。……と言おうとしたら、シェリスさんに肘を引っ張られた。
「アースガルズでは、奴隷には金銭を与えないことが一般的です~。リュウのいた世界だと別だったのかもしれないですが~」
なるほど。シェリスさんの耳打ちで納得した。
そういえば、俺が読んでいた物語とかでも、奴隷は酷使されてポイ。給料どころか、今のチワ達のように普段の生活すら間に合わない有様だったな。
「つまり、この子達は給金が理解できないってわけか。ちなみにアースガルズって、話の流れからすると、この世界のこと?」
俺の反問を受けて、シェリスさんは小さく頷いた。
アースガルズか。神話に出てきそうな名前だ。別に何でもいいけど。
「この世界が奴隷をどう扱おうが知らないな。今のチワ達が俺の監視下ある以上、俺の好きにさせてもらう」
「そうですか~、やはりリュウ様は変わったお方ですね~」
「幻滅したか?」
「いえいえ~、とんでもないです~」
俺の言葉を聞いて、シェリスさんのぽわぽわが四割り増しになった気がする。
あくまで感覚だけど。
「では、後は紳士的に接してあげてくださいね~。そうすれば、近いうちにモフモフさせてもらえると思いますよ~」
「そうだな。早くモフ……待て」
おかしい。いつバレた。
俺がモフリストであることを暴露した記憶はないんだが。
問いただそうにも、シェリスさんは俺から距離をとってこれ以上の干渉を拒否していた。
ぐぬぬ。後で小一時間問い詰めてやる。
「ま、まぁともかくだ。それはお前達が何にでも自由に使っていい金だ。ただ、買い物するときは俺かアリサ達について行ってもらえ。奴隷が一人で歩いていると何があるか分からないからな」
声量を戻してチワ達に語りかける。
確か計算が難しいとか言っていたし、下手をするとおつりを誤魔化される可能性があるだろう。それどころか誘拐とかされるかもしれないからな。なにせ可愛いし。な、に、せ、可愛いし。大事な事なので二回。
「まったく。そんなに入れ込んでるなら、あの奴隷商人から買い取っちゃえばいいじゃないの」
未だに事態を理解できていないチワ達の頭を撫でながら、アリサが苦言を呈する。
うーむ。所持金は虹金貨三枚(約300万)近くあるから、金には困っていない。それどころか日収七十万ということも発覚したし、チワ達三人を買い取るという手は悪くないだろう。確かに魅力的な案ではあるのだが……。
「そうは言ってもな。買い取って何させるんだよ」
「それは……夜伽とか?」
「却下だ」
俺はロリコンじゃない。あと、アリサは左指を輪にして右の人差し指を抜き差しするな。
四姉妹ロリ枠筆頭のベルン相手ですら、俺の胃に穴が開きそうなプレッシャー(主に健全な青少年を保護する条例的な何か)があるのに、それ以上のミニマムサイズは御免被る。
ちょっ、ベルン、痛い痛い、肌が痛い。ドライアイスみたいな指先で脇腹をグリグリするのはやめてください。
「じゃあ、戦闘奴隷はどう? あたし達がパワーレベリングすれば、一級の戦士になれるわよ?」
「後半に不穏な響きがあるが、まぁそれが妥当といえば妥当なのか……」
チワ達を見ながら考えたところ、一番現実的なのがそれだ。
幸いにして、三人とも戦いの才能はゼロじゃない。戦闘用スキルだって持っていたし、むしろ育てていけばかなりの物になると予想される。
家を借りるにしても滞在しない期間が多いのだから、いずれ留守を任せる必要が出てくるだろう。
ふむ。未来の優秀な人材を先に確保すると考えれば、この子達を買い取るのも良いのかもしれないな。転移魔法やその他もろもろを見せているということもあるし。
「とりあえず、考えておいてね。あたし達は三人を買い取ることに賛成だから」
「おいおい、俺に丸投げか」
「もちろんよ。信じてるからね」
そう言いつつ、アリサは俺に投げキッスをすると、チワ達を引っ張って屋台に連れて行ってしまった。涎を垂らしているベルンとツバキさん(甘味ゾーンへロックオン中)と一緒に。
その後ろを、やれやれといった表情でシェリスさんがついていく。
「はぁ……。あまり買いすぎるなよ、金がなくなるぞ」
無駄なんだろうなと思いつつ、彼女らの背中に声をかけた。
チワ達を買い取る件についてはいったん置いておこう。後でじっくりと考えればいいや。
(俺も、何か買って食おうかな……)
朝食を食べてまだ数時間だが、やはり屋台の匂いは気になるものがある。
アリサとシェリスさんに勘定を教えてもらっているチワ達を見ながら、俺は適当な飲み物を購入する為に、銅貨の入った小銭入れを取り出した。ついでに目ぼしい軽食があったら、買ってアイテムボックスに放り込んでおくとするか。
ツバキさんとベルン? 見ないでも大体予想はつくので言及なしでお願いします。屋台が一つか二つ店じまいをする程度の被害だから、放置していても大丈夫だと思うよ。
その後、買い食いを続けながら道を進み、西から領主の館付近を通過。北の大通りへと向かう。
チワ達は戸惑いながらも軽食にかぶりつき、十分に食べ歩きを楽しんだようだ。時々俺を見ながら「神しゃま……」とか言ってくるのが気になったので、後でシェリスさんに加えてアリサも問い詰めるとしよう。こいつらが何か吹き込んだに違いない!
そのままチワ達の妙な視線を食らうこと数分。一軒の建物の前に、俺達は辿り着いた。
「ここで間違いないな。入るか」
「ふぉうふぁふぁ」
「みんなー、ツバキさんが口の中のモノ食べ終わるまで少し待つぞー」
「んぐっ!? ……ふう。すまないな、もう大丈夫だ」
「ワンホールのケーキが一瞬で消えたのです……」
「あれ一つで金貨一枚だよねぇ……」
「レガルで一番有名なパン屋さんのショートケーキなのニャ。シャムも名前だけは知ってたニャ……」
唖然とするチワ達を一瞥してから、目の前にある建物を見上げる。
北大通りの一角。町並みに溶け込んでいるレンガ調の建物。二階建ての一般家屋で、玄関の前にかけられている虎の看板が目印か。
クレアさんからのメモにあった通りだな。
「すみません。俺達、冒険者ギルドのクレアさんからの紹介で、借家を探しているんですけど……」
中に入ってみると、民家の一階を改造してカウンターを取り付けたようなお店だった。
洒落たインテリアが各所にちりばめられており、センスのいい人がデザインしたことが分かる店構えだ。
特に、マイナスイオンみたいな霧を吐き出しているバスケットボール大の結晶体。あれは欲しいな。俺達には人間ドライアイスがいるし、それで代用できないだろうか。……いや、やめよう。命が惜しい。
「やあ、いらっしゃい。どういう家をご所望かな?」
店の奥から出てきたのは、げぇっ関雲!と思わず言いたくなるほどの髭を蓄えたナイスミドル。
背も高いし、大人のオジサマといった感じの人。将来こういう漢になりたいものだ。
「かなり大きい家を探してます。家賃は……そうですね、月に虹金貨二枚以下で。あと条件は……」
「あたしは部屋かな。そこそこのサイズがあればいいわ」
「お風呂は欲しいですね~」
「ふむ。軽く鍛錬できる庭があればいい」
「……キッチン」
俺達は店員のおっさん(ターブさんというらしい)に希望を話す。
色々と試してみたいこともあるし、相応の収入が期待できる以上は大きくても問題ないだろう。庶民の生活で頑張るとか一昨日のアリサ達に言っちゃったけど、日収七十万を溜め込んで不便な生き方をするよりかはマシだ。
それに、俺のスキルセットで全力を発揮できる家庭菜園用の庭と武具製作工房、あとは薬の調合と錬金術用の部屋も欲しい。後で元が取れるし、この辺は譲れないだろう。
うん、俺が一番贅沢望んでるわ。ホントごめんよ、一昨日の自分自身。
「ふぅむ。それなら借家じゃなくて購入でもいいのではないかな? むしろ高くつくことになるのだよ」
「そう、ですか……。今のところ頭金が虹金貨二枚程度しか用意できませんが、いい物件があったら見せてもらえませんか?」
「分かった。少しだけ待ってくれ」
そう言って、ターブさんは店の奥に引っ込む。
数分して彼が戻ってきたとき、その手には複数の書類束が挟まった木製のファイルがあった。
「今空いている屋敷で虹金貨二枚の前金は……この四つだな。見に行ってみるか?」
「お願いします。皆もそれでいいか?」
「うん。それじゃあ、行きましょ」
全員異論はないようだ。チワ達はキョトンとしながら流れに乗っているだけだが。
いやーワクワクするね。十七歳で一軒家ってのはちょっと早すぎる気もするが、憧れてもいるんだよな。
かといって家の良し悪しなんて分からないから、ダーブさんと四姉妹に任せよう。
おっしゃー。マイホーム探しの旅へGO。
一軒目。
「駄目ね。狭いわ」
「ん~、お風呂がないですね~」
二軒目。
「庭がないな。鍛錬できない」
「……キッチン小さい」
三軒目。
「狭い」
「お風呂~」
「庭」
「……却下」
まぁ予想できたよ。
この調子だとどこかで妥協すべきなんだろうな。もし足りないなら増築すればいいから、敷地の広さがあれば何とかなるか。
「家の見学って意外に面白いわね……」
「そうだな。あっという間に昼だ」
見て回るうちに時間も経ち、三軒目の近くにあった屋台で昼食休憩をとることにした。
案内してくれるターブさんにハンバーガー(パティは何かのモンスター肉。何気に高価なチーズ入り)の屋台飯を奢り、近くにあったテーブルに座って歓談中だ。
地味にXLサイズのポテトとジュースまでついてくる。これでなんと銀貨一枚と銅貨五枚! 地味に高いです。
まぁターブさんに奢るというのに安いと示しがつかないから、屋台の中で一番高いのを選んだけどな。
「あと一軒ですけど、どんな家なんですか?」
ハンバーガーにかぶりつきながら、ターブさんに問いかける。
彼はポテトをつまみつつ、もう片方の手で資料に眼を落とした。
「ふーむ。三階建ての屋敷で、部屋数は全部で十七だな。個室一部屋あたりの平均が六メートル四方だから、かなり大きいぞ。リビングとダイニングが一つずつ。大浴場とトイレもあるな。水氷魔法師がいないと貯水槽が使えないが、話を聞く限り兄さん達なら大丈夫だろう。地下室は三つ。屋外には倉庫もあって、庭は大型馬車が十台入れるくらい広い。元は大貴族がレガルに滞在する為の別宅だったから、総合的な評価は高いのだよ」
「マジか……!」
「いいじゃないその家!」
アリサの言葉に同感だ。最後の最後で神物件キタコレ。
聞く限り今までの必要条件を全部満たしている。これは是非見に行かなくては。
紹介してくれた彼には褒美が必要だ。残るポテトを全部ターブさんにあげよう。もう食えない。
「ただ、なぁ……」
「どうしたんですか?」
そろそろポテトが嫌になってきたのか、ターブさんが渋面を作る。
大丈夫だ。うちには人間ポリバケツがいるから余ったら献上すればいいのだよ。
……おいこらベルン。ハンバーガーに勢いよくかぶりついて反対側からケチャップを飛ばすな。何故その行動で俺の目を正確に狙えるんだお前は。
ベルンのケチャップ手裏剣をナプキンで白羽取りしながら、俺はターブさんの言葉を待つ。
「確かにいい物件だ。立地も悪くないし、普通なら引く手数多だろう。正直に言えば前金が虹金貨二枚で済むような所ではない。だが、ある一点において誰も買わないのだよ。その理由が……」
少しの逡巡を見せてから、彼は覚悟を決めるように口を開いた。
「幽霊屋敷なのだよ」
----------------------------------------------------------------------------
AUTHOR:実はブクマ100感謝としてイチャラブ成分を二千倍くらいに濃縮還元した「番外編」を用意していたのですが、予想外に早く超えたものでもう少し待ってください。
----------------------------------------------------------------------------




