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異世界チートで姫様達と婚前旅行。  作者: 富士ヶ麓久遠
トランディア王国・迷宮都市レガル編
32/42

ニアデスでございます

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SHERIS:質問です~。リュウ様の全力なら、私達の逆“ピーッ”から逃げ出せたのではないですか~?


HELP:いいえ。トランディア王族Unitの固有技能ユニークスキル恋極乙女ウマニケラレテシヌガヨイ】による全ステータス1無量大数(10の68乗)倍の補整ボーナスがあるため、UnitNAME:RYUTAROのステータスでは不可能です。


TSUBAKI:ふむ。自分で言うのもなんだが、乙女と表現するにはいささか怪しいものがあったな。しいていうなら野獣か。


ALISA:それ以前に色々と突っ込むところあるでしょ!? あたし達本人もそのスキルは今初めて知ったわよ! ていうか戦闘に転用したら相当ヤバくない!?


TSUBAKI:姉上はツッコミで忙しいな。どうせギャグパートだからと筆者が後先考えず適当に作ったスキルだろうに。


ALISA:ぶっちゃけた!?


BERNTHORA:……けぷっ。


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「ん……あ?」


 目が覚めたら、暗闇だった。

 そのままボーっとして目を慣らすと、現在泊まっている宿屋の天井が見えてきた。

 昨日と一昨日よりも、天井の装飾が少しだけ豪華になっている気がする。部屋が違うのだろうか。


「今、何時だ……ぐっ!」


 起き上がろうとしたものの、身体が動かない。身に着けているバスローブが、まるで鋼鉄のように重い。

 ぷるぷると震える腕を動かして時間を見ると、今は午前四時だった。道理で周囲が暗いわけだよ。

 俺は起き上がることをやめ、柔らかいベッドに身を沈める。


「……しっかし変な夢だったな」


 普段の俺は起きると夢の内容を綺麗に忘れてしまうのだが、今日に限ってはハッキリと覚えていた。

 血のように真っ赤な空の下で、同じく血の様に真っ赤な川。そこを木の小舟で渡っている夢だった。向こう岸から俺によく似たお爺さんが「おめえぁまだこっちゃ来ちゃいかんぞい!」って必死の形相で叫ぶから、その言葉に従って引き返したところで目が覚めたんだよな。

 何だったんだろう、あの夢。


「いや、それよりも何で寝ていたかだ……」


 寝起きで重い頭を、必死に動かす。

 今は状況の把握に徹するべき。全力で記憶を掘り起こすんだ、俺よ。


(えーっと。確か俺は風呂に入ってたはずだ)


 そこまでは覚えている。んで、お湯に浸かってリラックスしていたら、その後で女性陣も風呂に入ってきたんだよな。

 そこから発情した四姉妹に押し倒されて……。


『んー。やっぱり少し苦いわね』

『肌を重ね続けると病みつきになるらしいぞ。エールの苦さに似ているのだろう』

『……不味い。もう一杯』

『はいは~い。二回目ですけれど遠慮な、』


 やめよう。

 なんか頭痛がする。脳細胞が思い出すことを拒絶してる。

 無理に思い出すと、頭痛に加えてPTSD(心理的外傷後ストレス障害)を併発するかもしれない。いや、確実に発症するだろう。根拠は無いが、そんな確信がある。


(理由は……もういいや。今は倦怠感を取り除くことを優先しよう)


 そうだ。もう理由について考えてはいけない。

 俺が気絶してしまうようなナニかがあったとしても、その理由は関係ない。断じて関係ないのだ! 

 そういうことにしてくださいホントお願いします。


「身体が動かないほど体力が消耗してるなら……スキルによる回復か」


 手足を覆う倦怠感は重い。

 何でか知らないし理由など見当も付かないが、おそらく状態異常になっているのだろう。

 そう見当をつけた俺は、視線を自分のステータスウィンドウに移し――


(体力の残りは8か……)


 ふぅ。それなら……。

 いや待て何かおかしい。ゆっくりもう一度見てみよう。

 

 魔力は【14800/14800】だ。問題ない。

 体力は【8/12500】だ。問題な……い?


(……は、はち!? Eight!? パー!? おいおいおい、俺の頭がパーになったとかじゃなくて、ガチで一桁!?)


 早朝だからと声を抑えた俺を、誰か褒めてほしい。

 何度見直しても【8/12500】の表示はステータスウィンドウから消えない。

 瞑目して心を落ち着かせてから最後にもう一度視認しても、体力は瀕死寸前。包丁で指先を切っても死ぬ可能性がある値だった。もしかすると、箪笥に小指をぶつけても死ぬかもしれない。

 ついでに言えば、【虚脱】と【衰弱】の状態異常が点灯している。

 さすがにこれを放置するのはマズい。速効で回復しよう。


(まさか自分に『ヴィーナス・ヒール』を使うことになるとは思わなかったなぁ……)


 幸いながら魔力は全快していた(口には出せない何らかの理由で精神エネルギーが削られていたとしても、体力と違って魔力は極短時間で回復する)ので、慈愛の女神を呼び出して治癒してもらうことにした。

 魔力最大値が上昇して『詠唱省略』を併用しても問題なくなったため、今は普通に起動できるのだ。


「はぁ~、極楽極楽……」


 透き通ったような魔力が頭からつま先までを流れていき、身体の節々を苛んでいた倦怠感が光とともに消えていく。べた付かないラムネで洗われているような感覚がして、とてもくすぐったい。

 さすがは神聖魔法だ。状態異常も回復してくれるため、治癒速度の遅さはあれど便利なことに変わりは無い。

 ただ、召喚した女神様が俺の下半身に手を近づけて治癒してながら『こんなことで私を呼ばないでください』って言いたげな顔してるんだよね。何でだろうね。


「よし、これでオーケーっと。後は……」


 女神様に回復してもらいながら、魔力によってほんのりと照らされている周囲を見回す。

 昨日まで泊まっていた部屋ではなく、少しサイズアップされている別の部屋だ。

 木の丸テーブルや椅子、そしてクローゼットに変わりは無いが、ただ一つだけ極端に違うものがあった。


「フカフカ、なんだけどなぁ……広すぎる」


 身体が沈みこむようなマットを手で押しながら、俺はゆっくりと上半身を起こした。

 昨日までの個別に分かれたようなベッドではなく、キングサイズを超えた大きさのとんでもないベッド。それが一つだけ、部屋の一角に置かれている形だ。あのオカンの仕業に違いない。やってくれるぜ……。

 数人が一緒に寝られるようなベッドの上では、俺を中心として、人型のこんもりとした膨らみが点在している。

 足元で三つ固まっているのは、シーツと毛布にくるまれたチワ達だ。


「よく寝ているな……」


 すやすやと熟睡する三人を見て、思わず笑みがこぼれた。

 洗われて汚れが落ちたらしく、綺麗になった髪の毛には天使の輪が輝いている。泥だらけだった顔も拭われ、小さな呼気を漏らす姿が愛らしさを感じさせた。

 元々の素材が良いので、将来はきっと美人の女性に育つだろう。やはり女の子は綺麗でなくては。

 

 時折ぴくぴくと動く獣耳を最後に一瞥して、残る四つの膨らみを見やった。


 俺の左右で毛布を被って寝ているのは、予想の通り四姉妹だ。

 並び順的には、ツバキさん、ベルン、俺、アリサ、シェリスさん、となっている。

 いつもと違うのは、頬が超絶的にツヤツヤしていることか。


(……死にかけたのは、黙っておいてやるか)


 ぐずるアリサを見ながら、俺は内心で溜息をついた。

 もし目を覚ましてからこの事実を告げれば、四人の顔から血の気が引くことは容易に想像がつく。

 皆には体力値が見えないから、俺が瀕死だって事に気付かなかったはずだ。ただ単に気絶しただけと思っていたのだろう。


(まぁ、それにしても瀕死はちょっとヤり……じゃない、やりすぎだけど)

 

 思うところがないわけでもないが、めいっぱい気持ちを伝えてくれた四人のことを無碍むげに出来るわけも無い。

 そりゃ自分の欲望に加えて多少のイタズラっ気があったにしろ、それでも半分くらいは俺に良かれと思って“120人分に相当する体力を削りきるような行為(内容は不明)”をしてくれたはずだ。

 それに、逆の立場で考えれば、理性が飛ぶのもしょうがないのではと思ってしまう。俺だってシチュエーションが整っていたら我慢できる気がしない。

 

「……次に同じような事があっても耐え切れるようにしておくか」


 今回のことは教訓にして、次に生かそう。

 死に掛けても許せるとか、これが"\(■≤た弱みというやつかもしれない。

 そう思った俺は再度大きく溜息を吐くと、スキルセットを開き、ありったけのスキルにポイントを振り始めるのだった。









 俺が眠りから覚めて(というよりも意識を取り戻してから)二時間後。

 食堂で朝飯を食べながら周囲を見回すも、目的の人物は見当たらなかった。女将さんとは是非とも懇切丁寧に話をしたかったのだが、どこかへ出掛けていたのか不在だったようだ。

 チッ、命拾いをしたなオカン。


「ほら、ちゃんと食べろ。気にしてないって言っただろ」


 俺は白パンを齧りながら、同じく朝食を食べている女性陣に向かって何度目になるか分からない言葉を繰り返す。

 テーブルの上にあるのは、白パンとベーコンエッグに魚のフライ、豆のスープとサラダ。

 これぞ一般的なイングリッシュブレックファストといえるほどの立派な朝食だ。少し重いが、これくらいのほうが身体を動かす身にとっては丁度いい。

 味も悪く無いため俺のテンションは上昇しまくりなのだが、四姉妹とチワ達の表情は微妙にぎこちない。


「う、うん。あたしも、リュウが気にしてないなら普段通りにしたいんだけどね……」

「……ん」


 もそもそと食べ進めてはいるが、やはり普段に比べると四姉妹の動きが鈍い。

 どうやら今は受身モードらしい。昨日の自分達が何をしたのか思い出し、羞恥に苛まれているのだろう。顔は湯気が出そうなほど真っ赤になっており、スプーンを持つ手は小刻みに震えている。

 その効果は絶大で、あのベルンですら食が進んでいないようだった。目の前に積まれた白パンの山がまったく減っていない。明日は槍でも降るのか?

 昨日の一件に比べると、本当に同一人物かと思えるほどの変貌っぷりだった。


「昨日あれだけ飲んだのです。アリサしゃまは、まだお腹一杯なのです」

「それにしても、ご主人しゃまは何で生きているのニャ? 人間辞めているからかニャ?」

「人間の身体って不思議だよねぇ……。あ、人間辞めてるなら不思議じゃないのかなぁ」


 チワ達は別の意味でギクシャクしているも、旨い飯へありつけている為にナイフとフォークが止まらない。シャムは魚のフライを頬張って身体を震わせてるし、キキも時折咳き込んでしまうほどスープを味わっていた。

 言っていることはイラっとくるが、育ち盛りの獣娘がぱくぱくと食べ進めているのは見ていて気持ちがいいから許す。

 それに比べてアリサ達ときたら……。


「別に怒ってないから、四人が気にする必要なんてない。それに、一晩経ったら前日のことを水に流して次の日に生かす。人間それでいいじゃないか」

「ご主人しゃまが人間? 冗談にしても笑えないニャ」

「シャム、お前は魚のおかず無しな」

「そ、そんな殺生ニャ!?」


 残った一切れのフライをフォークで取り上げると、シャムが悲鳴を上げる。

 そんなショートコント(シャムにとっては一大事)を見ていた四姉妹は、ようやく気持ちを切り替えたらしい。

 アリサは頬を掌で軽く叩き、シェリスさんは大きく深呼吸をする。ツバキさんは一瞬だけ瞑目し、ベルンは伏せた顔を上げた。


「うん、そうね。いい女は切り替えが大事よね」

「恥ずかしがってなんていられませんね~」

「そうだな。想いを受け止めてくれたリュウ殿に失礼だろう」


 よしよし。アリサ達の表情が元に戻った。

 話の内容はともかくとして、女の子は笑顔と元気が一番だ。朝食を沢山食べて、今日の家探しに備えてもらおう。


「……ん。いっぱい食べる」


 あ。失言だった。

 

 そうして朝食を食べ終えた俺達は、全員が普段着のまま宿を出ると、その足でギルドに向かう。

 朝食の追加料金で金貨二枚が消えたため、微妙に懐が痛い……。

 

「最初は討伐素材の換金、だっけ?」

「うむ。収入が分からないことには家の探しようがないからな」


 数件隣のギルドまでを歩きながら、ツバキさんとアリサが会話している。

 普段着の四姉妹が、朝露の中を進んでいく。その様は、日本ならティーンズ雑誌にスカウトされるだろうと思うくらいに可憐だった。チワ達も服が服なので身窄らしいのだが、可愛らしい顔立ちに頬が緩む人もいた。

 慌しく大通りを行きかう人々が擦れ違うたびに振り返るあたり、彼女達の威力がうかがい知れるな。

 ツバキさんだけは『浴衣+帯剣』なので妙にミスマッチだったが、家を探すのに防具を着る必要はなく、かといって用心しないわけにもいかないので、この服装は仕方がない。

 今は持っている服も少ないし、早めに服を買うとしよう。


 ギルドに着いてからもアリサ達を見つめる視線は相変わらず。どころか、より無遠慮な目が増えた。

 いつもより冒険者達の人数も多い。早朝からクエストを吟味し、これから出発するというところなのだろう。

 カウンターから伸びる列に並んでいると、相変わらず周囲の会話が耳に入ってくる。

 

「あいつらが例の新人か?」

「ああ。馬鹿みてぇに強いらしい」

「あの女剣士は山を斬ったって話だぜ。しかも巨乳の女とチビは百以上のモンスターを瞬殺したんだとよ。そんなのAランクでもない限りできねぇよ」

「いやいや、そりゃさすがにフカシだろ」

「女が強いなら、男の方を堕とせばいいんじゃない?」

「それが男についての情報は何も入ってきちゃいねぇんだ。逆に不気味だぜ」

「獣人奴隷連れているんだしロクな奴らじゃねぇさ」

「でもあの子達、ちゃんと身奇麗にしてるじゃない。服だけはボロボロだけど」

「いいよなぁ、あの女どもの身体つき。一晩だけでも寝たいもんだ……」

「ばーか。あれほどの綺麗どころが、お前みたいなやつと寝てくれるわけねぇだろ」


 うーん。今のところ特に気にするような情報は無いな。

 視線は煩わしいが、キリがないので放置しておくとしよう。四姉妹は気にしてないようだし、チワ達も蔑むような視線はもはや慣れきっているのか反応がない。


「おはようございます。クレアさん」

「リュウタロウさん、おはようございます。今日はどのようなご用件ですか?」


 俺達の番になってカウンターに行くと、そこで業務をいたのは今日も今日とてクレアさんだ。

 彼女は四姉妹と手をつないでいるチワ達に気付き、「可愛らしいですね」と暖かい目を向けていた。それには同感だよ。


「クエストを達成したので素材の納品に来ました。それと、魔石の買取をしてほしいんですが……」

「ああ。でしたら、三つ隣のカウンターにて承っています。そちらへどうぞ」


 カウンターの向こう側にいるクレアさんが、横を手で指し示す。

 どうやら並ぶところを間違えたらしい。


(でも、あのカウンターでいいのか……?)


 視線の先にあるカウンターには誰も並んでおらず、朝の喧騒の中でぽっかりと穴が開いているようだった。人っ子一人いないからこそ、こちらに来たのだが……。

 もう一度並ぶ必要がなくてラッキーとはいえ、逆に不安を覚えてしまう。


「ガランガランですね、あそこ」

「普通はクエストから帰ってくると同時に討伐素材の精算しますからね。朝は空いているのですよ」


 なるほど。だから誰も並んでいないのか。

 

「じゃあ、そっちに行ってみます。それでは、また」

「はい。クエストクリア、おめでとうございます」


 クレアさんの一礼に笑みを返してから、俺達は三つ隣のカウンターへと歩いていく。

 

「すみません、魔石の買い取りをお願いしたいんですが……」


 そのカウンターにいたのは、白い長髪の女性だった。

 白い髪とは言っても加齢ではなく、普通に地毛のようだ。見た目が二十代前半なのだから、この世代でオール白髪しらがだったら不憫にもほどがある。

 そんな髪を、寝起きなのかボッサボサのまま紐で後ろに纏めているだけで、顔を見ても化粧っ気の欠片もない。

 ギルドの受付嬢ゆえに地は美人なのだから、非常にもったいない気がする。

 何よりも一番酷いのが――


「……んごー……すぴー」


 カウンターに頬を引っ付けていることだった。


「寝てるわね」「寝ていますね~」「寝ているな」「……寝てる」「寝ているのです」「寝ているのニャ」「寝ているのねぇ」


 うちの女性陣からも総ツッコミが入る。

 もうあえて言うまでもないのだが、客を前にして寝ているのだ、この人。本当にギルドの受付嬢なんだろうか。

 さすがにその光景は見咎められたらしく、クレアさんと爆睡受付嬢に挟まれた隣のカウンターから、


「起きなさい!」

「ぶるひっ!?」


 丸めた書類束による、これ以上ない改心の一撃が炸裂した。

 スパーン!という小気味よい音があたりに響き渡る。書類による一撃とカウンターへの圧縮による二段攻撃。非常に痛そうで、金剛皮があっても喰らいたくはない。

 そんな一撃を受けた受付嬢は、屠殺された豚のような悲鳴(ひっどい声だ……)をあげた後、むにゃむにゃと目をこすりながら身体を起こした。


「やめてーな、ターニャちゃん。うちの銀貨三枚分の毛根が死滅したらどうするんよ……」

「それだけの価値しかないのなら、金貨を払って焼け野原にしてあげましょうか?」


 書類アタックを繰り出した受付嬢は、眼鏡をかけた黒髪の女性だ。

 例に漏れず美人なのだがキツめの印象が強い為、なかなか話しかけづらい空気を纏っている。

 彼女は流麗な柳眉をヒクヒクさせながら、メイド服のポケットから硬貨をチラつかせていた。容赦ないなー。


「う、うちが悪かったから堪忍してーな。あ、おはようございますぅ。うち、モニカっていいますん」


 これ以上の追撃をされてはたまらないとばかりに、俺達の方へと意識を移すモニカさん。

 さすがにそれでは手が出せないのか、ターニャと呼ばれた受付嬢も仕方なしに自分の業務へと戻っていた。冒険者の対応をしながらも、目だけは相変わらずモニカさんの方を見ていた、と言うより監視していたが。

 

「ええっと、素材の買い取りをお願いしたいんですけど」

「ほおぉ……へえぇ……ふうぅん……」

「……あの、何か?」


 俺が話をしているにもかかわらず、モニカさんは俺達の顔を順々に見回しながら興味津々に観察していた。

 そのときに分かったのだが、彼女の目は異質という他ない黒い眼球に白い瞳。つまり、白目と黒目が逆転したものだった。

 驚嘆と感動ような声を滲ませながらアリサ達へ視線を移すたび、枝毛だらけの白い髪が揺れる。


「もしかして、顔に何かついてます?」

「ん? ……ああ、何もついてないから気にせんといて。それより買い取り査定やっけ?」

「そ、そうです」


 最後に俺をじーっと見つめ、それを皮切りに観察するような視線が無くなってしまった。

 うーん。よく分からない人だ。


「魔石だけ? それとも素材?」

「両方ですね。ただ、量が量なのでこのカウンターに載るかどうか……」

「へぇー。表に馬車でも待機させとるん?」

「いえ、アイテムボックスの中に入れています」

「ほおう。ってことは、虹金貨百枚ぶんは確定やんな」


 虹金貨百枚分? どういうことだ?

 言葉の意味が分からず俺達が首を捻っていると、モニカさんが「なっはっは」と笑った。


「あー、これ、うちの固有技能ユニークスキルなんやけど、自分の目で見たモノの価値が分かるんよ。魔眼の一種やな」


 なるほど。さっきの頭髪銀貨三枚と虹金貨百枚分のくだりは、そのスキルのおかげなのだろう。

 モニカさんは笑いながら軽く言うものの、結構スゴいスキルだと思うぞ?

 だからこそギルドの査定係をやっているのだろうが、商人とかになるともっと儲かりそうだ。


「すごいわね、そのスキル。商人になる気はなかったの?」

「うーん、みんなそれ言ってくれるんやけど、商人はうちの肌に合わんのよ。小難しい商談とかしてると背中が痒くて仕方ないんやわ。それに比べてギルドなら見えた値段を告げるだけでええし、すんごい楽なんよ」

「わぅ。チワもお金の計算は苦手なのです。商人さんはすごいのです」

「シャムは両手の指までなら足し算できるのニャ!」

「キキ、難しい話は分からないのねぇ」


 まぁ仕事には合う合わないがあるからな。

 それと、獣娘達の学習レベルについては暇があったら教えてやるとしよう。いや、あと一日じゃ無理か。

 と、そんなことを思っている俺の前で、モニカさんが立ち上がった。


「まぁ、そんなんは別にええんよ。大量の素材を審査する為の部屋が奥にあるから、まずはそっち行ってからやね」


 カウンターのスイングドアを開けてから、奥の扉を指差すモニカさん。

 俺達は顔を見合わせると、カウンターからギルドの奥へと進むのだった。



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AUTHOR:次に備えて体力を強化するなんて……そんなに良かったの?


RYUTARO:今度余計な事を言うと口を縫い合わすぞ。


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